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2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

バックナンバー

研究ストーリー

燃焼特性にこだわって振動解析をしてみる

2018年度 日本機械学会賞(論文)

「音響的境界条件を考慮した燃焼振動発振周波数の検討」

上道 茜、金築 一平、金子 成彦

DOI: 10.1299/transjsme.17-00514

この度は、日本機械学会賞(論文)をいただき、光栄に存じます。本論文の査読者のみなさま、学会関係者のみなさま、学会発表にあたって有意義なコメントをくださったみなさま、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻金子・山﨑研究室(現・山﨑研究室)のみなさま、特に、一連の実験に長年にわたって協力して頂いた渡邉辰郎さん(写真左)に心より御礼申し上げます。私が燃焼振動の研究を始めたのは、2014年のことです。流体関連振動を専門とする金子・山﨑研究室に着任した年です。この研究室では、2002年から2007年にかけてバイオガス燃料対応マイクロガスタービンの開発・研究をしていました。そして、そのなかで、ある燃料組成で燃焼振動が発生したことから燃焼振動研究を2010年より継続していたのです。2015年、当時修士1年生であった金築君(共著者)と燃焼振動に燃料組成が与える影響を調べるために、都市ガスと水素の割合だけを変化させて実験をすることにしました。

実験にあたっては、さまざまな困難がありました。まず、燃焼振動が起きる条件を探し出すのに苦労しました。金築君が何度もチャレンジして、ようやく燃焼振動がうまく起きる条件を探り当てました。

しかしながら、実験結果の解釈がいちばんの問題でした。水素を燃料に加えた場合に「ありえない」周波数の振動が観測されたのです。都市ガスのみを燃料とした場合、350Hz付近の発振周波数が観測されました。これは、燃焼器のスワーラが設置されている上流側の面を閉端、燃焼器の下流側を開端として考えた場合に得られる固有周波数と一致します。ところが、燃料のうち体積比で10~40%を水素に置き換えると、200Hzと400Hzの発振周波数が観測されたのです。これは、燃焼器で閉端と仮定していた端よりも上流側の配管も考慮しなければ出てこない周波数です。計測の誤りを疑って何度か同じ条件で実験をしましたが、結果は変わらず。正直なところ、「おもしろい!でも、どうしよう!」と思いました。

もともと、私は、大学院生時代は筑波大学の西岡牧人先生のもとで燃焼学の研究に携わっていましたので、燃焼には大きな関心があります。なかでも水素は拡散性が大きく、特異な燃焼形態となることが知られています。そこで、水素混焼にすればなにか起きるのではないかと期待していました。しかし、発振周波数が変化するというのは予想外の結果でした。

この現象を要素還元論的に捉えようとすれば、極めて複雑なものになるはずです。しかし、私が大学院時代に取り組んだ火炎面の構造から出発して、燃焼振動特性の把握を可能とする解析が適用できるとは思えませんでした。そこで、私は金子先生が「振動・波動」という講義(学部生に混ざって聴講しました)で取り扱っておられた、基礎中の基礎である一次元振動解析手法を使うことにしました。ただし、ここでは、伝統的な手法である伝達マトリクス法に発振周波数に影響を与える代表的な燃焼特性を組み込むことに私はこだわりました。

この方針のもと、金築君と金子先生とディスカッションを重ねて、燃焼器上流端の音響的境界条件として音響インピーダンスを適用することにしました。金築君や金子先生と協働して、未燃条件での計測やCFD解析、ナイキストの安定判別法といった複数の手法を組み合わせ、発振周波数を算出する過程を考えました。そうして、2017年3月頃、燃料に対する水素の含有率による微妙な燃焼特性の違いが音響インピーダンスを変化させ、これに伴って燃焼振動の周波数の変化を表現することができました。

分野の異なる研究室に着任することになった当初は「おもしろい!でも、どうしよう!」と思いましたが、この研究を通して経験した、お互いの専門知識を持ち寄って解析方法を構築してゆく過程は、本当に楽しいものでした。大学院生時代に燃焼学を深く学ぶことができたことと、金子先生から振動の「いろは」をご教授いただける機会の両方がなければ、この研究はできていなかったと思います。

この研究は継続中で、現在は、さらに燃焼特性にこだわって、詳細な温度分布を反映させた一次元解析方法に取り組んでいます。今後は、この研究をはじめとして、社会基盤を支えるエネルギー技術に関連する研究について「ほどよく要素還元論的に」展開してゆきたいと思います。今後ともご指導、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。


<正員>
上道 茜
◎東京農工大学 工学府 特任助教
◎専門:燃焼工学・燃焼学、流体関連振動、エネルギーシステムモデリング&シミュレーション

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