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2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

バックナンバー

特集 プロフェッショナルとしての技術者 -子供たちが夢見る職業か?-

技術者教育認定の意義と現状

本城 勇介(日本技術者教育認定機構)

はじめに

せっかく機械学会誌に誌面を頂いて、JABEEの国内における技術者教育認定の意義と現状についてご報告しても、あまり意味は感じられない。そこで、この問題の国際的な動向について、筆者の過去10数年の経験を踏まえてご報告したい。やや偏った報告となるが、筆者は、国際的なこの問題に対する非常にホットな状況と、国内のどちらかというとクール(冷淡?)な状況の温度差に苦しみ続けてきたので、その思いの発露となるかもしれない。

次章ではまず、技術者教育認定と技術者資格の関係について、国際的に認識されているこれらの枠組みについて述べる。次に、認定プログラムの実質的同等性を担保するための国際審査について、筆者の審査経験を中心に説明する。続いて、米国の教育認定団体ABETの審査員研修会に参加し感じた教育認定審査のあるべき姿について報告する。最後に、筆者の若干の所見を述べたい。

技術者教育認定と技術者資格の国際的枠組

技術者教育認定と技術者資格はIEAで一体化が進む

技術者教育認定と技術者資格の国際的枠組みを語る場合、IEA(International Engineering Alliance)の存在を抜きには語れない。IEAは、技術者教育質保証(educational qualifications)に関する三つの協定(Accords)と、技術者資格(professional licensure)に関する四つの合意(Agreements)を管理・維持(govern)する組織体であり、現在29の国/地域の、41団体が加盟している(1)

IEAで共通理解となっている教育認定と技術者資格の関係を図1に示す。教育認定は、教育プログラムを審査・認定することにより、その修了生が一定期間の実務訓練と実務経験を積めば、技術者資格試験に応募する資格を得られること、合格すれば技術者資格を得、一人前の技術者として実務に携わることができることを保証する。したがってここでは、教育認定されたプログラムを修了することが、技術者資格を得るための要件とみなされる(2)

図1 IEAが想定する技術者教育から技術者資格への流れ

IEAが管理・維持する各合意と協定の位置付けを、表1に示す。この表は、列に各技術専門職の種類を、行に各専門職の知識・能力と、最終教育課程卒業時の知識・能力が示され、それぞれの組み合わせに該当する合意と協定が位置付けられている。IEAは、これら合意や協定を管理・維持する事により、それぞれの実質的同等性(Substantial Equivalence)を認め合い、技術者の国際流動性(international mobility)を図ることを目的としている。

表1  IEAが管理・維持する合意と協定の位置付け

IEAの枠組みでは、技術者の専門職には、専門技術者(PE)、テクノロジスト、テクニシャンの3種類が存在する。この3者の差異をもっとも明確に示している文章が、IEAで承認・公開されている。「Graduate Attributes and Professional Competencies(卒業生としての知識・能力と専門職としての知識・能力)」である(3)(4)。詳細は、この文章を参照されたい。とは言え、もっとも強い関心が払われているのは、専門技術者(PE)に関する合意と協定、すなわち、IPEA・APEC技術者合意とワシントン協定(Washington Accord: WA)である(5)

IEAは、毎年6月に1週間に渡る年次総会を、加盟団体の存在するどこかの国/地域で開催する。この一週間に、技術者資格に関する合意と、技術者教育認定に関する協定すべての審議を行う。全体の合同会議もあれば、各合意・協定の公開・非公開のセッションも開催される。我が国は、IPEA・APEC技術者合意には(公社)日本技術士会が、WAにはJABEEが、日本を代表する加盟団体となっている。しかしあくまでもこれらは一体的に運用され、例えば教育認定に関する三つの協定の「規則と手順」(Rules and Procedures)は、ほとんどが同文で、必要な部分のみ異なっている。

このような一体的な運営の背後には、多くの加盟団体は、複数の合意と協定の両方に参加している、あるいは合意に加盟する団体の下部団体が教育認定を行っているという事情も関係している(例えば、WA加盟20団体のうち、技術者資格団体から完全に独立した教育認定団体は、8団体に過ぎない)。これが国際的には、技術者資格と教育認定を同じ枠組みで考える背景の一つとなっている。

典型的な例を挙げると、多くの技術者資格を審査・維持管理している団体では、学歴は技術者資格に応募する要件の一つである。つまり、教育認定されたプログラム修了生であることが、応募の要件である。我が国では、技術士制度が教育認定よりはるか昔から確立していたため、JABEEプログラム修了生の「技術士第一次試験免除」として、教育認定が位置づけられている。しかしこれは国際的には、知識・能力があるにも関わらず、不幸にして認定プログラムを修了できなかった学生の救済措置と認識されるであろう(もちろんどの国にも、形は異なっていても、何らかの救済措置が存在する)。

国際審査の経験

シンガポールとペルーでの経験

JABEE認定技術者教育プログラムは、WAにより、国際的な実質的同等性を持つとされる。この実質的同等性は、各国/地域のWA加盟認定団体が、定期的に相互に審査し合うことにより担保される。さらに、新規にWAに加盟を申請する団体があれば、加盟審査が行われる。国際審査に赴くと、多くのことを学ぶ事ができる。審査も大切だが、お互いが情報を交換することも、実質的同等性を担保するために重要である。国際審査ではむしろ、後者の方が、審査自身より有意義な経験となる。ここでは筆者が参加した、シンガポール国立大学(NUS)プログラム審査と、2018年にWA加盟を果たしたペルーの認定団体(ICACIT)の加盟審査の状況を簡単に報告する。

シンガポールNUSプログラム審査(6)

シンガポールのような比較的小さな国では、プログラム審査を実施する場合、利益相反などのため、審査チームに他のWA加盟国から審査員を招聘して審査を行うことが多い。筆者は土木工学関連分野の審査に2007、2012、2013年の3回に渡りEAB(シンガポールの認定団体)から招聘された。ここでは、2012年10月のNUS土木・環境工学科の審査について述べる。

認定審査の手順は、どこの認定団体でも驚くほど共通している。審査基準も、多少の表現の違い、強調点の差異などはあるが、文献(3)などが存在するので本質的に同等である。

EABは2011年8月に、Outcomes Based(OB)認定審査基準への大幅改訂を行い、当該審査は、この最初の適用例であった。事前打ち合わせで、今回の審査が、改訂OB基準による審査のベンチマークとなることが強調された。審査チームには、改訂基準作成で中心的役割を果たした人も参加しており、多くの意見交換を行い、OB基準の本質が、次の2点に要約できることを学んだ。

・大学の技術者教育は、Stakeholders(社会、雇用者、学生など)たちの求める内容を的確に教育する場であって、教員が昔からの慣例に従って、自分が重要と思うことを教える場ではないこと。

・この達成のためには、教育の効果をそのOutcomesの項目に従い、できる限り定期的かつ定量的に評価し、これをカリキュラムの改善や、個々の科目の教育改善につなげることが肝要であること。

OB基準に対応したこの学科の取り組みの具体的な成果が、当該学科のカリキュラムや教育の実施の中に、すでに表れていたことが審査を通じて分かった(詳細は文献(6)参照)。その他NUSの当該プログラムでは、学部教育カリキュラム編成の考え方、講義・演習・チュートリアルの授業時間配置の考え方、デザイン教育に関する種々の新しい取り組み、一年生に全学的に課される「Critical Thinking and Writing」という少人数編成の、学生の情報探索、批判的思考、作文を徹底的に指導する講義の導入など、多くの新しい取り組みがあった。

審査を通じて審査チームは、ここで行われている学部教育は、自分たちが数十年前に受けた学部教育とはかなり異なると実感した。それは、工学デザイン教育を中心概念として、受動的な学びから主動的な発見に、知識の収集から総合化の訓練に、情報の記憶から情報の検索と統合方法についての教育に移っているとまとめられると思う。

写真1 NUS最終面談後の記念撮影。前列中央3名審査チーム、その他はプログラム関係者。

ペルーICACITのWA加盟審査(7)

WAに新たに認定審査団体が加盟する場合の、加盟審査の経験を報告したい。WAに加盟するためには、幾つかの手順を踏まなければならないが、最終的には既加盟団体の内の3団体から派遣される3名の審査員で構成される審査チームが実地審査を行い、2教育機関以上、4プログラム以上の審査を視察し、その団体の審査に、既WA加盟団体の審査と実質的同等性があるか否かを審査し、報告書を作成する。これに基づいてIEA年次総会のWA会議で、既加盟団体の全会一致の賛成により加盟が承認される。この加盟審査では、個々のプログラム審査をするのではなく、当該認定団体のプログラム審査過程を視察し、実質的同等性を確認することが目的となる。本節では、WAに2018年6月に加盟を果たした、ペルーの教育認定団体ICACITの加盟審査について報告する。

加盟審査は2017年7月に実施され、チームは、香港の大学の機械工学教授(団長)、オーストラリアの自動制御の実務者、そして筆者の3名で構成された。訪問前にICACIT提出の自己点検書を読み込み、追加資料の請求や、ある程度の質疑応答を行っていた。加盟審査のスケジュールの概要を、表2に示した。それぞれのプログラムの実施審査は、JABEEのものと、ほとんど変わらない。現地の言語はスペイン語のため、WA審査チームには一人ひとりに同時通訳が付いて、英語への同時通訳があった。

表2 ペルーICACIT加盟審査のスケジュール概要

最初に訪問したのは、首都リマ新市街にモダンな校舎を持つ、UTECの三つの学科(プログラム)であった。この大学は、2012年創立の新しい工科大学で、ペルーの複数の有力企業の基金で設立された。工学分野への人材供給を期待され、産業界との強い連携を持つ大学であった。教育用の広く、設備の整った実験室、長期のインターンシップを活用したカリキュラム編成、実務経験者を多く採用した教員構成などに、この大学の建学の目的が明確に表れていた。インターンシップに行った学生が、そこで発見した問題を卒論のテーマにするケースも多いこと、さらに、インターンシップ先への就職も多いことなどが、審査中に報告されていた。

写真2 UTEC及びWA両審査チームと廊下の掲示
(英訳:A mistake is a part of the process.)

次に視察したのは、アンデス山中、標高3,400m、人口70万人の地方都市にあるUC(Continental大学)であった。UCは10数年前に設立された私立大学で、地元産業のための人材養成を目的としている。大学の施設は立派で近代的であった。UCでは、工学系5学科が受審した。

審査では、筆者の専門分野学科も受審していたので、この審査を中心に視察した。審査員は、他大学の学科長で、ロシアやカナダに留学経験があり、英語も堪能であった。すでに3回の審査員経験もあり、来年は自分の学科も受審するとのことであり、適切な審査がなされていた。
この実地審査をもとに、WA審査チームは協力して報告書を作成した。ICACITのWA加盟は、2018年6月にロンドンで開催されたWA年次会議で審議され、加盟が無事可決された。

ABET審査員(PEV)研修会

The PEV is the “face of ABET”

2015年5月に、米国の教育認定機関ABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)の、審査員(PEV, Program Evaluator)研修会に参加した。米国の教育認定事情について多くを学ぶ事ができたので、簡単に紹介したい。

ABETの起源は、1932年に主要7工学関連学会が、技術者の専門職としての社会的地位の向上を目指して設立した団体で、既に1936年から教育認定を開始していた。

ABETは現時点でWA対象プログラムだけでも、米国国内で453高等教育機関の約3,000プログラムを認定している(国外でも約30カ国、約130教育機関で認定を行っているが、それは協定規約によりWAの対象とはならない)。

ABETはまた、Engineering Criteria 2000 (EC2000)と呼ばれる、OB認定基準を世界で最初(1997年)に導入した。EC2000は、それまでの科目単位配分照査中心の認定方法では、教育が硬直化するという批判に応え、教育機関やプログラムの使命や教育目標を明確にさせ、それに向かって教育の継続的改善を行うことを最重視する基準であった。さらに、教育評価方法の開発と、それに基づく教育改善が奨励された。このEC2000の考え方は、WAなどにも多大な影響を与え、その後世界的な教育認定基準の主流となった。幸いなことに、JABEEはその設立に当たり、ABETに指導を依頼していたため、その発足のときから、この新しいEC2000のOB基準の考え方に基づいて審査基準を設定することができた。

研修会は、日曜日朝に始まり、月曜日正午に終了する実地審査を模擬する形式で行われる。この研修会に先立ち、20~25時間程度を要する、ウェブ研修が課される。これは2部構成で、前半は文書を読み、それに基づく選択式の問題回答により、主にABET審査全般の心得と知識を習得させる。後半は、仮想の大学プログラム自己点検書を読み、プログラム審査表に評価とコメントを書く作業を課す。この課題の回答をABETに送らないと、研修会への参加を拒否される。

研修会は、ボルティモア空港近くのホテル会議室で行われ、50名ほどの参加者が、5名ずつに分かれてチームを作り、それぞれに認定審査経験豊富なメンターが付く形式であった。

各OB項目の評価は、当然議論の中心であった。OB項目ごとに指標を定め、それぞれが幾つかの科目の履修で達成されるとする方法が主流である。特に幾つかのデザイン科目、卒業プロジェクトに、指標の評価が集中する傾向がある。

この研修会に参加する以前から、米国ではABETのPEVは、一つの社会的ステータスであると聞いていた。そこで、「なぜあなたは、ABETのPEVになりたいのか?」と研修会参加者に聞いて回った。しかし、直接的に答える人はおらず、はぐらかされるような答えばかりだった。最終的に理解したのは、こんな質問に慎(つつし)みなく答えるような人は、ABETのPEVには適さないのだということである。

研修会を通じて、審査と言う作業は、審査チームおよび受審プログラムがDerive consensus toward the decisionの過程であると説明された。これが特に顕著に表れたのは、研修会主催者が準備したロールプレーであった。プログラム責任者(学科長)へ、審査チームが最終面談に先立つ非公式面談(Informal debrief)の状況であり、ここで行われたケースでは、二つのD(欠陥)と一つのC(懸念)がある最終審査結果(かなり厳しい結果)を、プログラム責任者に説明するケースだった。それでもプログラム責任者は、審査チームに「Thank you」と謝辞を述べた。この点に質問があったとき、司会者は、「He was not angry, because these were all evidences」と答え、会場の笑いを誘った。しかし、これは重要なことである。プログラム側が最終的に結果に納得できる審査、それを貫徹できるPEVが、ABETが求めるPEVである。

さらにABETには、審査長と審査員、審査長・審査員とプログラム間の、事後相互評価のシステムがある。これはWeb上のアンケート形式のもので、簡単な設問に答える形をとる。定期的に解析され、問題の多い審査長や審査員の発見に役立てる。説明者の「360 degree process」という言い方に説得力を感じた。ウェブ研修の冒頭から、「審査員はABETの顔である(The PEV is the “face of ABET”)」ことが強調される。こんなところに、伝統あるABETのPEVの社会的なステータスの高さの背景があると感じた。

写真3 ABETのPEV研修会の様子

むすび

以上ご紹介してきたように、技術者教育認定には、国際的に認知され、益々拡大する「意義と現状」が存在する。IEAの年次総会に出席すると、この制度が益々国際的に強化されていることを骨身に滲みて感じる。多くの国が加盟に、やっきになっている。また、国際的な審査に赴けば、どの教育機関も、認定審査を当然のこととし、教育改善に努力を払っている。多くの国際審査に関わった経験に基づいて言えば、WA(そしてJABEE)の教育認定の枠組みには、大変優れた教育改善の方法論が詰まっている。この方法論は、情報公開、説明性、継続的改善といった、合理的で時代のニーズに適合した、教育改善方法の方向を間違いなく示している。

JABEEは1999年に発足した。発足に中心的に貢献された方々には、機械学会からは、吉川弘之、大橋秀雄、長島昭、斎藤忍、有信睦弘先生らがおられた。これらの方々は、国際標準を、日本でも普及させるというビジョンを共有されていたと思う。しかし今日国内では、この国際標準が全く正確に理解されていない。この温度差に、筆者は長年苦しんでいる。このような世界の常識を、理解して頂きたいと思い、本稿を執筆した。


参考文献
(1) IEAについては、https://www.ieagreements.org/ 参照
(2) 岸本喜久雄, 技術者のキャリアパスと資格制度, 日本機械学会誌,本号.
(3) IEA, Graduate attributes and professional competences, (2013), 翻訳版(文科省HP), http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu7/siryo/_icsFiles/afieldfile/2012/10/11/1326767_3.pdf
(4) 深堀聰子, 工学教育領域の国際的な評価の動向, 大学評価研究,第17号(2018), pp.77-89.(上記(3)を含む、この種の文書の国際的比較が示されている。)
(5) ワシントン協定(WA)についてはJABEEの下記URLを参照
https://jabee.org/international_relations/washington_accord
(6) 本城勇介, 技術者教育プログラム認定海外事情(1):シンガポール国立大学のプログラム認定審査, JABEEメールマガジン(発表予定). NUSの審査の様子が詳細に紹介されている.以下(7)(8)も同様.
(7) 本城勇介, 技術者教育プログラム認定海外事情(2):ペルーICACITのWA加盟審査, JABEEメールマガジン(発表予定).
(8) 本城勇介, 技術者教育プログラム認定海外事情(3):米国ABETの審査員研修会, JABEEメールマガジン(発表予定)


本城 勇介
◎(一社)日本技術者教育認定機構(JABEE)代表理事・副会長・国際委員会委員長、岐阜大学名誉教授
◎専門:地盤工学、設計論、リスク解析・評価

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