特集 プロフェッショナルとしての技術者 -子供たちが夢見る職業か?-
APECエンジニア
はじめに
筆者が初めて「技術士」に出会ったのは20年以上前になる。当時、新規事業の立上げで「廃棄物処理」の業界に新規参入することになった。電機業界の我々は、ゴミ処理のイロハが全くわからない状況だったため、技術士(衛生工学部門)の方をお呼びして「廃棄物処理」の基本について1年近く教授頂くことになった。恥ずかしながらこの時初めて「技術士」という資格を知った。そして、専門家としての技術士は「素晴らしい」と感じ、筆者自身が技術士の資格を取得するきっかけになった。
「技術士」とは何か?一般の方だけでなく、技術者の方々からも聞かれることが良くある。「技術士」について説明するために、IHI社長・東芝社長・経団連第4代会長を歴任された土光敏夫氏の言葉を拝借すると「学問を究めた学者に与えられる称号が博士、産業界で技術を極めた技術者に与えられる称号が技術士である」。
本稿では、技術士の資格の延長線上にあるAPECエンジニアを中心に紹介させて頂く。
機械技術者から技術士へ
技術士の制度は昭和32年に発足し、平成31年3月末現在で、技術士登録者数の合計は約9万2千名である(うち約45%が建設部門)。技術士の所属は、一般企業など(コンサルタント会社を含む)が約78.5%と大多数を占めており、筆者のように独立・自営の技術士は約8.6%と少数派であるが、今後は増加すると考えられる。
技術士の「部門」は、総合技術監理を含めて21部門(機械、電気電子、化学、金属、建設、上下水道など)ある。
機械部門の中に、①機械設計、②材料強度・信頼性、③機械ダイナミクス・制御、④熱・動力エネルギー機器、⑤流体機器、⑥加工・生産システム・産業の選択科目がある(ちなみに筆者の選択科目は「動力エネルギー」)。現在、受験料は第一次試験が11,000円、第二次試験(筆記および面接)が14,000円である。
技術士制度の流れと筆者が技術士の資格を取得した流れを示す。
【技術士制度の流れ】
1958年07月 第1回 技術士試験実施
1985年01月 第1回 技術士第一次試験実施
2000年11月 APECエンジニアの申請受付開始
2008年03月 EMF(現IPEA)国際エンジニア申請受付開始
【筆者の場合】
2007年12月 技術士第一次試験(機械部門)合格
2013年03月 技術士第二次試験(機械部門)合格
2013年03月 技術士登録(機械部門) 第78252号
2015年04月 APECエンジニア登録 JP-1-003139
2015年04月 IntPE登録 IntPE(Jp)-1000411
2016年01月 独立・自営の技術士となる
図1に技術士資格の取得(一次、二次)からAPECエンジニア資格の取得までのエビデンスを示す。資格取得までに年数を要する難関資格の一つといわれている。
図1 技術士関係の資格エビデンス
技術士からAPECエンジニアへ
技術士の21部門に対応して、APECエンジニアの分野は11分野(Mechanical、Chemical、Information、Electrical、Civil、Industrialなど)が対応している。
APECは「手続きの面倒さ故に審査申請に踏み出せない方が少なくない」ともいわれているがCPD記録を付ける習慣があれば、事務手続きをクリアできる。図2に技術士からAPECエンジニアへ進む流れを示す。
図2 APECエンジニアへの流れ
APECエンジニアになるための七つの要件は以下の通りである。
1)定められた学歴要件を満たすこと
2)IEAが標準として示す「エンジニアとしての知識・能力(International Engineering Alliance competency profile for engineers)」に照らし、自己の判断で業務を遂行する能力があると認められること
3)エンジニアリング課程修了後7年間以上の実務経験を有していること
4)少なくとも2年間の重要なエンジニアリング業務の責任ある立場での経験を有していること
5)継続的な専門能力開発を満足できるレベルで実施していること
6)業務の履行に当たり倫理的に行動すること
7)プロフェッショナル・エンジニアとして行った活動および決定に対し責任をもつこと
難しい条件のように見えるが、実務をしっかり行ってきた機械技術者であれば問題なくAPECエンジニアに登録されると考える。ぜひチャレンジしていただきたい。
APECエンジニアとして海外へ
海外で活躍されている機械技術者は数多くいるだろう。筆者も1980年代から海外の火力発電プラントの業務を経験し、独立後もJICA案件などを通じて国際貢献を行っている。APECエンジニアの資格がないとできない業務は少ないが、この資格に自信と誇りを持つことで海外での話題が広がり、人間関係も広がり、自分のビジネスも広がりつつあると感じている。
また、海外では仕事以外の+α、たとえば世界の歴史に触れる機会も多く、人生の楽しみの一つになっている。図3はウズベキスタンの世界遺産であるサマルカンドである。
図3 世界遺産のサマルカンド
おわりに
日本の技術者を取り囲む社会の状況は、令和の時代になって大きく変わるだろう。大企業の「終身雇用制」がさらに先細りとなり、「自己責任」という言葉に押しつぶされそうな技術者が増えることを危惧している。
筆者の周りでは、自ら進んで独立・自営の技術者になる若手(30代)が増えてきた。また、独立・自営の技術者に転身する中年(50代)の技術者も増えてきている。この状況で、役立つ資格の一つが「技術士」であることは間違いない。日本機械学会の会員の皆さんには、ぜひ技術士(機械部門)の仲間になり、日本国内のみならず海外でも活躍されることを期待している。
参考文献
(1) 公益社団法人日本技術士会,技術士制度について,令和元年5月.
(2) 公益社団法人日本技術士会,公益社団法人日本技術士会 概要,2019.09
(3) 公益社団法人日本技術士会,APECエンジニア
https://www.engineer.or.jp/c_topics/000/000150.html
(4) 公益社団法人 日本技術士会,IPEAエンジニア
https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/001102.html
(5) 文部科学省,アジア・太平洋経済協力(APEC(エイペック))
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/apec/04090301.htm
(6) 文部科学省,技術士資格の国際的通用性について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu7/018/attach/1400801.html
(7) 国土交通省,APECエンジニア
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/inter/kensetu/apec_1/index.html
<正員>
小林 政徳
◎小林政徳 技術士事務所 代表、技術士(機械部門)、IntPE(Jp)、AFP、APEC Engineer(Mechanical Engineering)
◎専門:火力発電所のプロジェクトマネジメント
キーワード:プロフェッショナルとしての技術者特集
表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館
表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。