やさしい材料力学
第10回 棒のねじり
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棒のねじり
1 はじめに
今回の講義では棒のねじりを取り扱う。ねじりモーメントが作用する棒において,単位長さ当たりのねじれ角を求めることが解法の出発点となる。本稿では,取り扱いの複雑な角型断面等を除き,中実の丸棒や中空円筒といった基礎的な棒のねじり問題に限定して議論する。
2 棒のねじり問題の基礎式
図10.1のように,直径$D$,長さ$dx$の丸棒の両端にねじりモーメント$T$が作用している状態を考える。断面上における点Bは,ねじりモーメントが作用することにより元の点から点${\rm B}’$に移動する。よってこの場合の着目断面におけるねじれ角は図の$d\varphi$となる。他方,棒表面のせん断ひずみ$\gamma_0$は,
\[ \gamma_0 = \frac{\overline{{\rm BB}’}}{\overline{{\rm AB}}} = \frac{D}{2} \frac{d \varphi}{dx}\] | (1) |
よって,この丸棒表面におけるせん断応力は,
\[ \tau_0 = G \gamma_0 = \frac{GD}{2} \frac{d \varphi}{dx}\] | (2) |
ここで,$d\varphi/ dx$は単位長さ当たりのねじれ角を表すので,これを$\theta$とおくと,
\[ \gamma_0 = \frac{1}{2} D \theta, \quad \tau_0 = \frac{1}{2} G D \theta\] | (3) |
図10.1 丸棒のねじり
さて,棒のねじり理論では,横断面内のひずみと応力は棒の中心軸からの距離$r$に比例するものとして取り扱う。すなわち,横断面内のひずみと応力はそれぞれ,
\[ \gamma(r) = r \theta, \quad \tau(r) = G r \theta\] | (4) |
と表せる。
図10.2に示すような丸棒において,中心からの距離$r$の位置において幅$dr$の円輪を考えると,円周方向に作用する合力成分$df$は,
\[ df = 2\pi r \cdot \tau (r) dr = 2 \pi G r^2 \theta dr\] | (5) |
微小ねじりモーメント$dT$は,
\[ dT = df\times r = 2 \pi G r^3 \theta dr\] | (6) |
断面における合モーメントを求めると,
\[ T = \int_S dT = \int_0^{D/2} 2 \pi G r^3 \theta dr = \frac{\pi D^4}{32} G \theta\] | (7) |
ここで,上式の$\pi D^4 / 32$は棒の断面形状のみによって決まる定数であり,断面2次極モーメントと呼ばれる。直径$D$の丸棒における断面2次極モーメントは,
\[ \text{丸棒:} I_p = \frac{\pi D^4}{32}\] | (8) |
他方,内径$D_1$,外径$D_2$の中空円筒における断面2次極モーメントは以下のようになる。
\[ \text{中空円筒:} I_p = \frac{\pi}{32}(D_2^4 – D_1^4)\] | (9) |
改めて式(7)を断面2次極モーメントを用いて表すと,
\[ T = G I_p \theta\] | (10) |
上式が棒のねじり問題における基礎式となる。すなわち,棒の単位長さ当たりのねじれ角$\theta$とねじりモーメント$T$は比例し,せん断弾性係数と断面2次極モーメントの積が比例定数となる。
図10.2 丸棒の横断面におけるせん断応力
3 ねじりの断面係数と最大せん断応力
式(4)より,丸棒におけるせん断応力は表面の$r = D/2$で最大となるから,
\[ \tau_{\rm max} = | \tau (D/2) | = \frac{D}{2} G | \theta| = \frac{D |T|}{2 I_p}\] | (11) |
ここで,
\[ Z_p= \frac{I_p}{(D/2)}\] | (12) |
とおけば,棒に作用する最大せん断応力は次式,
\[ \tau_{\rm max} = \frac{|T|}{Z_p}\] | (13) |
により求められる。ここで,$Z_p$をねじりの断面係数と呼ぶ。直径$D$の丸棒における$Z_p$は,
\[ Z_p = \frac{\pi D^3}{16}\] | (14) |
となる。最大せん断応力を求めるうえで,ねじりモーメントの向きは問われないので,上式は絶対値を付して示した。棒のねじり問題では,上記の最大せん断応力がせん断降伏応力やせん断強度などの設計基準応力1に達するかどうかが強度設計における論点となる。
1一般に設計基準応力は安全率で除すことによって修正される。
4 両端を固定された段付き丸棒のねじり
図10.3のように,両端を固定された段付き丸棒がある。棒の段部には大きさ$T$のねじりモーメントが作用している。長さ$l_1$の区間の直径は$D_1$,長さ$l_2$の区間の直径は$D_2$であり,棒のせん断弾性係数は$G$である。本問題は典型的な不静定問題であることに注意して,ねじりモーメントの作用点におけるねじれ角を求めよう。
図10.3 両端を固定された段付き丸棒のねじり
長さ$l_1$の区間と$l_2$の区間に作用するねじりモーメントをそれぞれ$T_1$,$T_2$とおくと,それぞれの区間における単位長さ当たりのねじれ角は以下のようになる。
\[ \theta_1 = \frac{T_1}{G I_{p_1}} = \frac{32 T_1}{G \pi D_1^4}, \quad \theta_2 = \frac{T_2}{G I_{p_2}} = \frac{32 T_2}{G \pi D_2^4}\] | (15) |
よって,それぞれの区間における両端の相対ねじれ角は,
\[ \varphi_1 = \theta_1 l_1 = \frac{32 T_1 l_1}{G \pi D_1^4}, \quad \varphi_2 = \theta_2 l_2 = \frac{32 T_2 l_2}{G \pi D_2^4}\] | (16) |
ここで,段付き棒の両端が固定されており,棒全体におけるねじれ角が0となることに着目すれば,
\[ \varphi_1 + \varphi_2 = 0, \quad \therefore \ \frac{T_1 l_1}{D_1^4} + \frac{T_2 l_2}{D_2^4} = 0\] | (17) |
次に,棒の段付き段部(結合部)に着目すると,もし段部に外力のモーメントが作用していなければ$T_1 = T_2$である。すなわち,左右の棒に働くねじりモーメントの差が外力のモーメント$T$となる。$T_1$と$T$の方向が同じであることに注意すれば,
\[ T = T_1 – T_2\] | (18) |
式(17),式(18)より$T_1$と$T_2$を求めれば,
\[ T_1 = \frac{D_1^4 l_2}{D_1^4 l_2 + D_2^4 l_1} T, \quad T_2 = – \frac{D_2^4 l_1}{D_1^4 l_2 + D_2^4 l_1} T\] | (19) |
棒の段部におけるねじれ角は$\varphi_1$に等しく,結果的に以下のように求められる。
\[ \varphi = \varphi_1 = \frac{32 T_1 l_1}{G \pi D_1^4} = \frac{32l_1 l_2 T}{G \pi (D_1^4 l_2 + D_2^4 l_1)}\] | (20) |
長さ$l_1$,$l_2$の区間における棒表面のせん断応力$\tau_1$,$\tau_2$は式(13)より以下のように求められる。なお,最大せん断応力は$D_1 l_2$と$D_2 l_1$の大小関係に依存することになる。
\[ \tau_1 = \frac{|T_1|}{Z_{p_1}} = \frac{16 D_1 l_2 T}{\pi (D_1^4 l_2 + D_2^4 l_1)}\] | (21) |
\[ \tau_2 = \frac{|T_2|}{Z_{p_2}} = \frac{16 D_2 l_1 T}{\pi (D_1^4 l_2 + D_2^4 l_1)}\] | (22) |
5 円錐棒のねじり
図10.4に示すような円錐形状の棒の両端にねじりモーメント$T$が作用する場合について棒両端における相対ねじれ角を求めよう。棒のせん断弾性係数は$G$である。この例題では棒の断面積が長手方向に変化するため,単位長さ当たりのねじれ角に棒の長さを乗じるといった単純な方法では棒両端の相対ねじれ角は求められず,積分を用いた計算が必要となる。
図10.4 円錐棒のねじり
図の右向きに座標$x$をとり,座標$x$の原点を棒の左端にとる。座標$x$の位置において,幅$dx$の微小要素について考える。微小要素の直径$D(x)$は左端で$a$,右端で$b$で,座標に対して一次関数状に変化するから,
\[D(x) = a + x \frac{b-a}{l}\] | (23) |
よって,断面2次極モーメント$I_p(x)$は,
\[I_p(x) = \frac{\pi D(x)^4}{32} = \frac{\pi}{32} \left(a + x \frac{b-a}{l} \right)^4\] | (24) |
微小要素における両端の相対ねじれ角$d\varphi$は,
\[d\varphi = \theta dx = \frac{T}{G I_p(x)} dx = \frac{32 T}{G \pi} \left(a + x \frac{b-a}{l} \right)^{-4} dx\] | (25) |
最終的に,微小ねじれ角$d\varphi$の棒全体における総和を求めることにより棒両端の相対ねじれ角$\varphi$が求まる。
\[ \begin{split} \varphi &{} = \int_0^l d\varphi = \frac{32 T}{G \pi} \int_0^l \left(a + x \frac{b-a}{l} \right)^{-4} dx \\ &{} = \frac{32 T}{G \pi} \left\{ – \frac{l}{3(b – a)} \right\} \left[ \left( a + x \frac{b-a}{l} \right)^{-3} \right]_0^l \\ &{} = \frac{32 T l (a^2 + ab + b^2)}{3 G \pi a^3 b^3} \end{split} \] |
(26) |
演習問題10.1: 2つの材料からなる丸棒のねじり
2種類の材料からなる丸棒があり,両端が壁に固定されている。それぞれの区間におけるせん断弾性係数と長さ,結合部に作用する曲げモーメントは図中に示すとおりである。ねじりモーメントの作用点におけるねじれ角と棒表面に生じる最大せん断応力を求めなさい。
(答:
$\displaystyle \boldsymbol{ \varphi = \frac{32l_1 l_2 T}{\pi D^4 (G_1l_2 + G_2l_1)} = 0.006504 {\rm rad} = 0.373^\circ }$
$\displaystyle \boldsymbol{ \tau_{\rm max} = \frac{|T_1|}{Z_{p_1}} = \frac{16G_1 l_2 T}{\pi D^3 (G_1l_2 + G_2l_1)} = 26.0 {\rm MPa} }$)
<フェロー>
荒井 政大
◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授
◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。
キーワード:やさしい材料力学
【表紙の絵】
おともだちロボット
西岡 紗季 さん(当時4歳)
色々な生き物や自然とおともだちになって、お話ができるロボットです。頭についているアンテナを使って、お花さん、草さん、滑り台さん、太陽さん、雲さんたちとお話ができて、直ぐに仲良くなってハートがたくさん出てくるロボットです。これでみんな自然と仲良くできるとおもいます。