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2019/9 Vol.122

【表紙の絵】
どこでも本棚ロボット
橘 佑樹 くん(当時7歳)

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やさしい材料力学

第9回 不静定はりのたわみ



本連載を書籍化した、「基礎からの材料力学 (JSMEやさしいテキストシリーズ) 」が発行されました。機械工学への新たな一歩を踏み出す学生の方々、学びなおしの一冊として教科書をお探しの社会人の方々にふさわしい新定番の教科書です。 Kindle版 / 単行本(ソフトカバー)版 


1 はじめに

前回の講義では,外力条件のみから曲げモーメントの分布が求まる静定問題を扱った。本講では,はりの変形に関する条件を適用しなければ支持反力やモーメントが求まらない不静定問題について講義する。

2 はりの不静定問題の解き方

通常,はりの曲げ問題では,支持部における反力や曲げモーメントを求めてからはりに生じる曲げモーメントの分布を求め,その結果をはりの微分方程式に代入して問題を解く。不静定問題では,はりに作用する横荷重とモーメントのつり合いを考えるだけでは支持点における反力や曲げモーメントがすべて決まらず,それらをはりのたわみを解いたあとに幾何学的な条件を適用して決定する必要がある。そのため,通常はどれか一つ(もしくは二つ以上)の物理量を不静定量として扱い,不静定量を含んだまま曲げモーメントの分布を求めて問題を解く。最終的に,境界条件を適用する結果としてはりのたわみと不静定量の決定を同時に行う解析プロセスとなる。一般に,2階の微分方程式として得られるはりの曲げ問題では,未知の積分定数は二つであるが,それに加えて不静定量が未知となる。言い換えれば,不静定問題では積分定数二つと不静定量の数に対応した境界条件を適用してはりの曲げ問題を解くことになる。

2.1 一端固定,他端単純支持の等分布荷重をうけるはり

図9.1 一端固定,他端単純支持のはり(等分布荷重)

図9.1に示すような,左端を固定,右端を単純支持されて長さ$l$,ヤング率$E$,断面2次モーメント$I$のはりに大きさ$q$の等分布荷重が作用する場合について考える。はりの左端に作用する反力を$R_1$,右端に作用する反力を$R_2$,左端に生じる曲げモーメントを$M_0$とすれば,はりに垂直な荷重のつり合い式は,

\[ R_1 + R_2 = ql\] (1)

はりの左端に関するモーメントのつり合いを考えると,

\[ R_2 l – ql \times \frac{l}{2} = M_0\] (2)

これらの式には未知量が3つ($R_1$,$R_2$,$M_0$)含まれるため,これらすべてをこの2式から決定することはできない。そこで,$M_0$を不静定量とおいて問題を解く。式(2)より$R_2$を$M_0$を用いて表すと,

\[ R_2 = \frac{1}{2} ql + \frac{M_0}{l}\] (3)

上式を式(1)に代入して,

\[ R_1 = \frac{1}{2} ql – \frac{M_0}{l}\] (4)

さて,上図のように座標$x$の位置ではりを切断し,座標$x$の位置における曲げモーメント$M(x)$を考える。切断位置における左右のモーメントのつり合いを考えると,

\[ M(x) = M_0 + R_1 x – qx \times \frac{x}{2}\] (5)
\[ \therefore M(x) = -\frac{1}{2} qx^2 + \left( \frac{1}{2} ql – \frac{M_0}{l} \right) x + M_0\] (6)

よって,はりの微分方程式は,

\[ EI \frac{d^2 w(x)}{dx^2} = \frac{1}{2} qx^2 + \left( \frac{M_0}{l} – \frac{1}{2} ql \right) x – M_0\] (7)

上式を2階積分して整理すると,

\[ w(x) = \frac{1}{24 EI} \left\{ qx^4 + 4 \left( \frac{M_0}{l} – \frac{1}{2} ql \right)x^3 – 12M_0 x^2 + C_1 x + C_0 \right\} \] (8)

$x=0$における境界条件を適用する。$x=0$において,$w=0$,$dw/dx=0$より,

\[ C_1 = 0, \quad C_0 = 0\] (9)

さらには,$x=l$において$w=0$より,

\[ ql^4 + 4 \left( \frac{M_0}{l} – \frac{1}{2} ql \right) l^3 – 12M_0 l^2 = 0\]

\[ \therefore M_0 = -\frac{1}{8}ql^2\] (10)

よって,式(1),式(2)より支点における反力は,

\[ R_1 = \frac{5}{8} ql, \quad R_2 = \frac{3}{8} ql\] (11)

最終的に,たわみの分布$w(x)$は以下のようになる。

\[w(x) = \frac{q}{48 EI} \left( 2x^4 – 5 l x^3 + 3l^2x^2 \right)\] (12)

 

 

 

2.2 一端固定,他端単純支持の集中荷重をうけるはり

図9.2に示すような,左端を単純支持,右端を固定された長さ$l$,ヤング率$E$,断面2次モーメント$I$のはりにおいて,はりのスパン中央に大きさ$P$の集中荷重が作用している。この不静定問題についてはりのたわみを求めよう。

図9.2 一端固定,他端単純支持のはり(集中荷重)

はりの左端に作用する反力を$R_1$,右端に作用する反力を$R_2$,右端に生じる曲げモーメントを$M_0$とすれば,はりに垂直な荷重のつり合い式は,

\[ R_1 + R_2 = P\] (13)

はりの右端に関するモーメントのつり合いを考えると,

\[ R_1 l – \frac{1}{2} P l = M_0\] (14)

式(13),式(14)より,反力$R_1$,$R_2$を荷重$P$と不静定量$M_0$を用いて表すと,

\[ R_1 = \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l}, \quad R_2 = \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l}\] (15)

さて,はりのスパン内において集中荷重や集中モーメントが作用する問題では,一般にはりを分割し,そのそれぞれに対してはりの微分方程式を解く。区間$[0\le x \le l/2]$においてたわみ$w_1(x)$を,はりの右端より座標$y$を考えて,区間$[0\le y \le l/2]$においてたわみ$w_2(y)$を考えることとする。区間$[0\le x \le l/2]$における曲げモーメント$M_1(x)$は,はりの左端における反力$R_1$に距離$x$を乗じたものとなるから,

\[ M_1(x) = R_1 x = \left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) x\] (16)

よって,たわみの微分方程式の右辺に$M_1(x)$を代入して,

\[ EI \frac{d^2 w_1(x)}{dx^2} = -\left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) x\] (17)

上式を座標$x$で2階積分して整理すると,

\[ w_1(x)= -\frac{1}{6EI} \left\{ \left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) x^3 + C_1 x + C_0 \right\}\] (18)

他方,区間$[0\le y \le l/2]$における曲げモーメント$M_2(y)$は,はりの右端における反力$R_2$の寄与と固定端の曲げモーメント$M_0$の寄与の和となるから,

\[ M_2(y) = R_2 y + M_0 = \left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) y + M_0\] (19)

よって,たわみ$w_2(y)$の微分方程式は,

\[ EI \frac{d^2 w_2(y)}{dy^2} = -\left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) y – M_0\] (20)

上式を座標$y$で2階積分して整理すると,

\[ w_2(y) = -\frac{1}{6EI} \left\{ \left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) y^3 + 3M_0 y^2 + D_1 y + D_0 \right\}\] (21)

境界条件は,$x=0$で$w_1 = 0$,$y=0$で$w_2=0$,$y=0$で$dw_2/dy = 0$である。よって,

\[C_0 = 0, \quad D_0 = 0, \quad D_1=0\] (22)

この段階で,未定係数$C_1$と不静定量$M_0$が未知のままである。これら2つの未知量は,左右のはりのたわみに関する連続条件によって決定できる。$x=l/2$,$y=l/2$におけるたわみとたわみ角が等しいことから,

\[w_1(x=l/2) = w_2(y=l/2)\] (23)
\[ \frac{d w_1(x)}{dx} \Big|_{x=l/2} = -\frac{d w_2(y)}{dy} \Big|_{y=l/2}\] (24)

となる。ただし,座標$x$と$y$が逆向きに定義されていることから,二つのたわみ角の符号が逆〔式(24)の右辺にマイナスが付く〕となる点に注意されたい。式(23)より,

\[ \left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) \frac{l^3}{8} + \frac{1}{2} C_1 l = \left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) \frac{l^3}{8} + \frac{3}{4} M_0 l^2\]

整理すると,

\[ C_1 = M_0 l\] (25)

$w_1(x)$,$w_2(y)$のたわみ角は,

\[ \frac{d w_1(x)}{dx} = -\frac{1}{6EI} \left\{ 3 \left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) x^2 + M_0 l \right\}\] (26)
\[ \frac{d w_2(y)}{dy} = -\frac{1}{6EI} \left\{ 3 \left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) y^2 + 6M_0y \right\}\] (27)

ここで,たわみ角の連続条件,

\[ \frac{d w_1(x)}{dx} \Big|_{x=l/2} = -\frac{d w_2(y)}{dy} \Big|_{y=l/2}\]

を考えれば,

\[ 3 \left( \frac{P}{2} + \frac{M_0}{l} \right) \frac{l^2}{4} + M_0 l = -3 \left( \frac{P}{2} – \frac{M_0}{l} \right) \frac{l^2}{4} – 3M_0 l\]

\[ \therefore M_0 = -\frac{3}{16} Pl\] (28)

式(28)を式(25)に代入して,

\[ C_1 = -\frac{3}{16} Pl^2\] (29)

最終的に,区間$[ 0 \le x \le l/2]$におけるたわみ$w_1(x)$と区間$[ l/2 \le x \le l]$におけるたわみ$w_2(x)$が以下のように求められる。ただし,$w_2$に関しては,座標$y$を$y=l-x$に置き換えて示した。

\[w_1(x)= -\frac{P}{96EI} (5x^3 -3 l^2 x), \ [ 0 \le x \le l/2]\] (30)
\[w_2(x) = -\frac{P}{96EI} \left\{ 11(l – x)^3 – 9l (l – x)^2 \right\}, \ [ l/2 \le x \le l]\] (31)

演習問題9.1: 等分布荷重をうける両端固定はり

 

両端を固定され,一様な分布荷重$q$を受ける長さ$l$,ヤング率$E$のはりのたわみを座標$x$の関数として求めよ。なお,はりの断面は幅$b$高さ$h$の長方形である。

(答:$\displaystyle \boldsymbol{w(x) = \frac{q}{2 E bh^3} (x^4 -2lx^3 + l^2 x^2)}$)


<フェロー>

荒井 政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


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