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2019/9 Vol.122

【表紙の絵】
どこでも本棚ロボット
橘 佑樹 くん(当時7歳)

調べたい事がある時などに、近くに来て、ロボットに言うと、ぴったりの本を選んで、ロボットの本棚から出して渡してくれる。
足は折りたたむことができ、車りん(コマ)で移動することもできます。
目から映像を出して確認することもできる。

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ほっとカンパニー

(株)酉島製作所 世界のライフラインを支えるなにわのポンプメーカー“百年企業”

日本にはこんなすごい会社がある!

大阪・高槻に本社を構える酉島製作所(以下、酉島)は、1919年創業。8月1日に100周年記念式典を開催したばかりの“百年企業”だ。1920年に片吸込単段タービンポンプの製作を現在の大阪市此花区酉島町で始めて以来、ポンプ一筋。今も日本のポンプ業界を牽引する。

現在、酉島の事業は「ハイテクポンプ事業」「プロジェクト事業」「サービス事業」「新エネルギー・環境事業」の四つ。発電、海水淡水化、石油化学プラント向けなどの高付加価値ポンプ単体の提供を行う「ハイテクポンプ事業」。上下水道や灌漑かんがい、排水などのポンプ設備全体のEPC(設計・調達・建設)を行う「プロジェクト事業」。ポンプやポンプ設備などのオペレーションとメンテナンス、ソリューションの提供を行う「サービス事業」。風力発電システム、風力発電設備メンテナンス、小水力発電システムに携わる「新エネルギー・環境事業」。ポンプ一筋といっても、ポンプ周り全てに関わる事業内容は深く、まさにスペシャリストだ。
今や拠点を世界18カ国に展開し、ポンプ納入国は100カ国以上に広がる。各地でライフラインを支える酉島。営業・開発部門も現地に飛び、異文化の人々とコミュニケーションを取り、力を合わせてビジネスを進める。

海水淡水化プラント用ポンプは圧力と開発スピードが鍵

ハイテクポンプ事業のうち、特に酉島が力を入れている分野の一つが、海水淡水化プラント用のポンプだ。地球上で人類が利用できる淡水はわずか0.01%。世界の人口増加や新興国の工業化によって、水の需要は高まっており、特に水不足が深刻な中近東やオーストラリアでは、海水淡水化プラントが次々と建設されている。
海水淡水化技術には大きく二つの方法がある。一つは、海水を蒸留して淡水を作り出すMSF(多段フラッシュ)法やMED(多重効用)法。もう一つが、RO膜と呼ばれる逆浸透膜に高い圧力をかけて海水を通し、淡水を取り出すRO法だ。現在、世界中の海水淡水化設備で主流になっているのは、後者。酉島では高圧海水供給ポンプを納入している。

「元々作っていた発電プラント用ボイラ給水ポンプの圧力が、海水淡水化用のポンプに求められるものと合っていました」(同社第二ポンプ技術部長・原貴司)。「開発に時間がかかると機を逸してしまう恐れがある。昔から培ってきた技術を組み合わせて、新しい価値を生み出すのがうちの昔からの戦略。そのスピード感で、RO法のポンプで高いシェアを占めることができたのです」(同社研究開発部研究開発副部長・三浦知仁)。
巨大プロジェクトに携わるやりがいは大きい。「高圧ポンプは、プラントの心臓部にあたる。これがトラブルを起こせば全体のシステムが止まる。そういう意味では、高圧(ハイプレッシャー)ポンプだけに責任のプレッシャーがすごいですね(笑)。でも、我が子のような意識もあります」と設計担当の原。

一方、開発側を担当する三浦は、ポンプ効率を少しでも高くすることを常に求められると語る。「全電力使用量の60~70%を占める部分のため、いかに無駄な動力を発生させないか、摩擦を抑えるか。流体解析でさまざまなパターンを試しながら、日夜0.1%でもポンプ効率を上げることを積み重ね…。また、短納期が求められる中で、開発プロセスも効率化が大事。一番大事なのは、インプットの明確化です。そこは研究開発だけでなく、営業や見積などの部門とのコミュニケーションが重要ですね」。

徹底したユーザー志向で新たなサービスを拡大

「世界中に納入したポンプをメンテナンスするのが我々の仕事」と語るのは、同社産業本部サービス統括部長・香山和久だ。国内では、2000年の特別高圧の電力自由化から約20年。当時、自家発電設備を導入した大型工場のポンプは今、老朽化している。修理だけでなく、再生しながら機能も向上させるのがミッションだ。
香山は、酉島の強みとして二つの特徴を挙げた。一つは、発電所に必要な全ての種類のポンプを生産できること。「特に発電プラント用ボイラ循環ポンプを造れる会社はごくわずか。特殊なポンプも手掛けられるため、トータルで依頼されることも多いんです」。もう一つは、徹底してユーザー志向であること。「老朽化で更新したくても取替困難な大型ポンプや特殊なポンプは、お客様がお困りであれば、酉島の製品でなくても修理や更新の提案をさせていただくこともあります」(香山)。高い技術力を活かした提案型ビジネスを原動力にサービス部門の受注は右肩上がりで伸びている。

徹底したユーザー志向は、18年に新たな製品も生み出した。事業開発部長の平城恵介が自信を持って勧めるのが、回転機械の簡易モニタリングシステム「TR-COM」だ。簡易センサが機械の振動と温度変化を記録し、取得したデータを基に、機械の異常を早期発見できるというもの。スマホアプリで常に確認でき、測定データはクラウドで一元管理される。「『おかげで、こんな故障が発見できた。』『うちの事例を他のお客さんにも教えてあげてほしい。』などの声をお客様からいただいています。」これまで異常がなくても定期的にメンテナンスを実施していた。「コンディションをモニタすることで、異常がない場合にはメンテナンスの間隔を伸ばすことができ、お客様のコストカットにも繋がる…もっともこの部分に関しては、当社にとって減収になる可能性もあるのですが(笑)」。

「人」を重視し、「人」として働きやすい環境

同社の“お母ちゃん”的存在である人事部キャリアデベロップメント課長の吉川友子は、社風を「うちは東証一部上場企業だけれども、いい意味で泥臭い。そこがいいところ」と話す。

毎年、社内運動会が開かれ、毎月の社内の誕生会では社長直筆の誕生日カードが贈られる。「世の中がどんなにデジタル化されても『人』に対してはアナログでなければならない。酉島は『人』を『人』として採用し、『人』として育てます。そして、その『人』が輝ける場所を用意します」(吉川)。

ポンプ設計の原、ポンプ開発の三浦、サービス統括の香山、事業開発の平城。今回、各部門が集まった中で印象的だったのは、全員のコミュニケーション力の高さと、各部門同士お互いをリスペクトし、しっかり連携していることを感じさせる姿だった。ポンプという社会貢献にダイレクトに繋がる製品を扱っているからこそ、社員の誰もが自身の仕事に誇りを持ち、胸を張って活躍できる──“泥臭い”と謙遜する酉島は、実は非常に風通しの良い気持ちの良い企業だった。

(取材・文 横田 直子)

図1  RO法海水淡水化プラント用高圧海水供給ポンプ(オーストラリア)

 

図2  MHH(上下二つ割多段タービンポンプ)
発電プラントやRO プラントの高圧給水用ポンプとして、各種使用条件に対応した数種類の構造を標準化した。17 年に市場に投入し、以来、RO 高圧ポンプの受注台数が倍増した。

 

図3  発電プラント用ボイラ循環ポンプ(インド)

 

図4 ポンプケーシングのアップグレード作業
独自サービスシステム「REDU」では、既設ポンプの修理・復元・改善・更新まで対応する。

 

図5 回転機械 簡易モニタリングシステム「TR-COM」で使用する手のひらサイズの簡易センサ「b-Monitor」
測定したい機械にパテで取り付けるだけで機械の点検時間の短縮と異常の早期発見が叶う。

 

今回取材に協力いただいた(左から)香山さん・三浦さん・吉川さん・平城さん


(株)酉島製作所
本社所在地 大阪府高槻市 https://www.torishima.co.jp/

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