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2019/4 Vol.122

【表紙の絵】
魚が空を飛べる「まく」をつけるそうち

山本 波璃 さん(当時9歳)

魚は水の中でしか、生活ができないけれど、 このそうちでまくの中に入ると、水の外で も生きていけます。そうすればいっしょに 魚たちと遊べます。

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ソフトロボット学

ソフトロボティクス理論的枠組みの構築に向けて

飯田 史也(ケンブリッジ大学)

はじめに

最近5年ほどのソフトロボット研究の進展は目を見張るものがある。この分野の研究はロボット工学の専門雑誌で多数発表されているに留まらず、ScienceやNature等のような学際分野の研究者をターゲットとしたトップジャーナルにも頻繁に論文が採択されるようになってきた。筆者らが創設に関わったIEEE Robotics and Automation Societyのソフトロボティクス委員会注釈1は2013年に100名弱の会員で始まったのが、今では異分野の研究者や企業関係者も含めて750名を超える大きなコミュニティーに成長してきた。世界中のさまざまな大学で研究室への所属を考えている学生さんの間でも、しばらく前まではよく知られていなかった分野ではあったが、ソフトロボティクスの研究をしているというだけでも多くの学生さんが押し寄せて来るような状況である。

筆者が最初にソフトロボティクスの研究に携わったのは1996年に学部生の卒業論文研究として東京理科大学の原文雄研究室で顔ロボットの研究に遡る(1)。当時ロボット技術について何も知らなかった筆者は、このプロジェクトに配属されると、まずシリコーンを顔の形に型取りする手順を教わり、その後は完成した皮膚にワイヤーを埋め込んで腱駆動制御をすることでロボットの顔表情の生成方法を伝授された。今振り返れば20年以上前からかなり最先端の研究をしていたものだと感心させられる。言うまでもなく人間の表情は顔の皮膚組織を変形させることで感情を他の人に伝達する役割を担っている。学部生当時は知る由もなかったが、柔らかい構造を変形させることでさまざまな機能を実現するということはソフトロボティクスの本質で、顔の表情だけではなく口や舌による発声や食物や液体の取り扱いに始まり、瞼による眼球の保護や眼球の変形による焦点のコントロール等々に至るまで我々の生命維持に関わる機能の多くがこのメカニズムに頼っている。

本稿ではこのように新しくて古いソフトロボティクスの研究がどのような変遷を経て今日に至り、今後どのような進展が考えられるのかを議論するための理論的枠組みについて考察する。

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