やさしい材料力学
第3回 熱応力・熱ひずみ
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第4回:熱応力(13:03)
1 はじめに
物体の温度が変化すると,熱ひずみが生じる。この熱ひずみに伴って発生する応力が,熱応力である。本稿では一次元の棒の引張・圧縮問題を中心に,基本的な熱応力の問題について考える。熱応力の問題は,一般に典型的な不静定問題となることにも注意して頂きたい。
2 線膨張係数と熱ひずみ
固体材料は一般に温度の変化に伴ってその体積が変化する。$\Delta T$の温度変化によって棒の長さが$l_0$から$l$に変化した場合を考える。ここで,温度変化により生じたひずみ$\bar{\varepsilon}$を熱ひずみと定義する。
\[\bar{\varepsilon} = \frac{\Delta l}{l_0} = \frac{l – l_0}{l_0}\] | (1) |
温度変化が比較的小さな場合には,熱ひずみ$\bar{\varepsilon}$と温度変化$\Delta T$の関係は比例するとみなすことができ,比例定数を$\alpha$として以下の関係式が成立する。
\[\bar{\varepsilon} = \alpha \Delta T\] | (2) |
ここで,式(2)における$\alpha$は線膨張係数(ないしは,線膨張率,熱膨張係数)と呼ばれ,材料固有の値をとり,その単位は[1/K]となる。表3.1に代表的な工業材料の線膨張係数を示しておく。
表3.1 さまざまな材料の線膨張係数
3 熱ひずみを考慮したフックの法則
一次元の弾性体における応力$\sigma$とひずみ$\varepsilon$の関係,
\[\sigma = E \varepsilon\] | (3) |
はすでに述べた通りであるが,ここでは熱ひずみが発生した場合のフックの法則について考える。物体が何も拘束されていないとすれば,温度が変化しても,物体に熱ひずみが生じるだけで,物体の内部には何の応力も発生しない。つまり,物体に発生する応力は熱ひずみによって発生するのではなく,弾性変形に対応するひずみ,すなわち,弾性ひずみによって発生することを強調しておきたい。つまり,温度変化を伴う場合のひずみ$\varepsilon$は,熱ひずみ$\bar{\varepsilon}$と弾性ひずみ$\tilde{\varepsilon}$の和として,
\[\varepsilon = \bar{\varepsilon} (\text{熱ひずみ}) + \tilde{\varepsilon} (\text{弾性ひずみ})\] | (4) |
のように定義される。弾性ひずみ$\tilde{\varepsilon}$と応力$\sigma$の間には式(3)のフックの法則が成り立つので,式(3)と式(4)より,以下の関係式が導かれる。
\[\sigma = E \tilde{\varepsilon} = E (\varepsilon – \bar{\varepsilon})\] | (5) |
この式が,温度変化を伴う物体におけるフックの法則である。くれぐれも,応力に比例するのは弾性ひずみのみであることに留意されたい。
4 熱応力に関するさまざまな例題
4.1 両端を固定された棒に生じる熱応力
直径$d=10{\rm mm}$,長さ$l=500{\rm mm}$の軟鋼丸棒があり,両端が剛体壁に固定されている(図3.1)。温度20℃の状態から,温度を150℃に上げた。この際に棒に生じる熱応力を求めよう。なお,棒のヤング率は$E=210{\rm GPa}$,線膨張係数は$\alpha = 11 \times 10^{-6}/{\rm K}$であり,温度20℃の状態では熱応力は生じていないものとする。
図3.1 両端を固定された棒に生じる熱応力
棒に生じるひずみを計算すると,弾性ひずみ$\tilde{\varepsilon}$と熱ひずみ$\bar{\varepsilon}$の和が0となることより,
\[\tilde{\varepsilon} (\text{弾性ひずみ}) = -\bar{\varepsilon} (\text{熱ひずみ}) = -\alpha \Delta T\]
よって,棒内部に発生する応力は以下のとおり。
\[
\begin{split}
\sigma &{}= -E \alpha \Delta T = -210 \times 10^9 \cdot 11 \times 10^{-6} \cdot (150 – 20) \\
&{} \simeq -300 \times 10^6 = -300 {\rm [MPa]} (\text{圧縮}) \quad (\text{答})
\end{split}
\]
4.2 直列に接続された棒に生じる熱応力
ヤング率$E_1$,長さ$l_1$,直径$d_1$,線膨張係数$\alpha_1$の丸棒と,ヤング率$E_2$,長さ$l_2$,直径$d_2$,線膨張係数$\alpha_2$の丸棒が直列に結合されており,その両端が剛体壁に固定されている。棒全体の温度を$T_0$から$T_1$に上昇させた場合について,区間A–Bおよび区間B–Cに生じる熱応力を求めよう。温度$T_0$の状態において,棒には応力は生じていない。
図3.2 直列に接続された棒に生じる熱応力
温度を$T_0$から$T_1$に上昇させたとき,区間A–B,B–Cのそれぞれにおいて生じる熱ひずみ$\bar{\varepsilon}_1$,$\bar{\varepsilon}_2$は以下のように表される。
\[\bar{\varepsilon}_1 = \alpha_1 (T_1 – T_0), \quad \bar{\varepsilon}_2 = \alpha_2 (T_1 – T_0)\]
棒が壁から受ける反力の大きさを$R$とおく。区間A–B,B–Cの各区間における断面積は,$A_1 = \pi d_1^2/4$,$A_2 = \pi d_2^2/4$であるから,それぞれの区間における弾性ひずみ$\tilde{\varepsilon}_1$,$\tilde{\varepsilon}_2$は,
\[\tilde{\varepsilon}_1 = -\frac{4R}{\pi d_1^2 E_1}, \quad \tilde{\varepsilon}_2 = -\frac{4R}{\pi d_2^2 E_2}\]
となる。区間A–B,B–Cそれぞれにおけるひずみ$\varepsilon_1$,$\varepsilon_2$は熱ひずみと弾性ひずみの和になるので,
\[\varepsilon_1 = \bar{\varepsilon}_1 + \tilde{\varepsilon}_1 = \alpha_1 (T_1 – T_0) – \frac{4R}{\pi d_1^2 E_1}\]
\[\varepsilon_2 = \bar{\varepsilon}_2 + \tilde{\varepsilon}_2 = \alpha_2 (T_1 – T_0) – \frac{ 4R}{\pi d_2^2 E_2}\]
よって,それぞれの区間の伸び$\lambda_1$,$\lambda_2$は,
\[\lambda_1 = \varepsilon_1 l_1 = \left\{ \alpha_1 (T_1 – T_0) – \frac{4R}{\pi d_1^2 E_1} \right\} l_1\]
\[\lambda_2 = \varepsilon_2 l_2 = \left\{ \alpha_2 (T_1 – T_0) – \frac{4R}{\pi d_2^2 E_2} \right\} l_2\]
棒の両端は固定されているから,区間A–B,B–Cにおける伸びの和は0となる。すなわち,
\[\left\{ \alpha_1 (T_1 – T_0) – \frac{4R}{\pi d_1^2 E_1} \right\} l_1 + \left\{ \alpha_2 (T_1 – T_0) – \frac{4R}{\pi d_2^2 E_2} \right\} l_2 = 0\]
上式より,壁からの反力$R$を求めると,
\[R = \frac{\pi d_1^2 d_2^2 E_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_1 l_1 + \alpha_2 l_2)}{4 (l_1 d_2^2 E_2 + l_2 d_1^2 E_1)}\]
最終的に,反力$R$を各々の区間の断面積で割ることにより,区間A–B,B–Cに作用する熱応力$\sigma_{\rm AB}$,$\sigma_{\rm BC}$が求められる。
\[\sigma_{\rm AB} = -\frac{R}{A_1} = -\frac{d_2^2 E_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_1 l_1 + \alpha_2 l_2)}{l_1 d_2^2 E_2 + l_2 d_1^2 E_1} \quad (\text{答})\]
\[\sigma_{\rm BC} = -\frac{R}{A_2} = -\frac{d_1^2 E_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_1 l_1 + \alpha_2 l_2)}{l_1 d_2^2 E_2 + l_2 d_1^2 E_1} \quad (\text{答})\]
4.3 並列に接続された棒に生じる熱応力
長さ$l$,断面積$A$の3本の棒I,棒II,棒IIIが並列に並べられ,その左端が剛体壁に固定されている(図3.3)。また,棒の右端は剛体の板で連結され,ともに同じ変位が生じるように拘束されている。棒I,棒IIIのヤング率は$E_1$,棒IIのヤング率は$E_2$,棒I,棒IIIの線膨張係数は$\alpha_1$,棒IIの線膨張係数は$\alpha_2$(ただし,$\alpha_2 > \alpha_1$)である。棒の温度を,応力が発生していない$T_0$の状態から$T_1$に上昇させたところ,3本の棒に熱応力が発生した。各々の棒に発生した熱応力を求めよう。
図3.3 並列に接続された棒に生じる熱応力
温度が$T_1$の状態において棒Iと棒IIIに作用する軸力を$P_1$,棒IIに作用する軸力を$P_2$とすれば,これらの力のつり合いは,
\[2P_1 + P_2 = 0\] | (6) |
棒I,棒IIIにおけるひずみは,弾性ひずみと熱ひずみの和であるから,
\[\varepsilon_1 = \bar{\varepsilon}_1 + \tilde{\varepsilon}_1 = \alpha_1 (T_1 – T_0) + \frac{P_1}{A E_1}\]
同様に棒IIにおいて,
\[\varepsilon_2 = \bar{\varepsilon}_2 + \tilde{\varepsilon}_2 = \alpha_2 (T_1 – T_0) + \frac{P_2}{A E_2}\]
よってそれぞれの棒の伸び$\lambda_1$,$\lambda_2$は,
\[\lambda_1 = \varepsilon_1 l = \alpha_1 l (T_1 – T_0) + \frac{P_1 l}{A E_1}\]
\[\lambda_2 = \varepsilon_2 l = \alpha_2 l (T_1 – T_0) + \frac{P_2 l}{A E_2}\]
ここで,棒の伸びはすべて等しいので,$\lambda_1 = \lambda_2$である。よって,
\[\alpha_1 l (T_1 – T_0) + \frac{P_1 l}{A E_1} = \alpha_2 l (T_1 – T_0) + \frac{P_2 l}{A E_2}\] | (7) |
式(6),(7)を連立して$P_1$,$P_2$を求めると,
\[P_1 = \frac{AE_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_2 – \alpha_1)}{2E_1 + E_2}\]
\[P_2 = -\frac{ 2AE_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_2 – \alpha_1)}{2E_1 + E_2}\]
最終的に棒I,棒IIIに生じた熱応力$\sigma_1$と,棒IIに生じた熱応力$\sigma_2$が以下のように求められる。
\[\sigma_1 = \frac{P_1}{A} = \frac{E_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_2 – \alpha_1)}{2E_1 + E_2} \quad (\text{答})\]
\[\sigma_2 = \frac{P_2}{A} = -\frac{2E_1 E_2 (T_1 – T_0) (\alpha_2 – \alpha_1)}{2E_1 + E_2} \quad (\text{答})\]
演習問題 3.1:線膨張係数が温度依存性を有する場合
ある物体の線膨張係数が温度$T\,[{\rm K}]$の関数として,
\[\alpha(T) = 6.0 \times 10^{-9} T + 8.0 \times 10^{-6}\,[1/{\rm K}]\]
と与えられている場合,この物体の温度を293Kから353Kまで上昇させたときに生じる熱ひずみを求めよ。
(答:$\displaystyle \int_{\bf 293}^{\bf 353} \boldsymbol{(6.0 \times 10^{-9} \times T + 8.0 \times 10^{-6}) dT \simeq 596 \times 10^{-6}}$)
<フェロー>
荒井 政大
◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授
◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。
キーワード:やさしい材料力学
【表紙の絵】
未来のファミリーレストラン
小原 芽莉 さん(当時10歳)
私の考えた機械は、これから起きるといわれている「食料危機」を乗り越えられる機械です。バクテリアの入っている機械に昆虫をいれると、バクテリアが昆虫をハンバーグやオムライス、カレーなどの味にします。色々な味になった物が穴からでてきます。最後に羽あり型ロボットが穴から落ちてきた物をお皿にならべてくれます。