やさしい材料力学
第2回 引張と圧縮
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第3回:引張と圧縮(14:53)
1 はじめに
本稿では,材料力学において最も基本的な構造物である棒や帯板の伸び(圧縮)変形と,それに伴い生じる応力の計算法について学ぶ。フックの法則を用いて荷重から応力,応力からひずみを求めて変位を計算するプロセスについて説明する。
2 棒の引張り
2.1 段付き棒の引張り
図2.1に示すような,直径および長さの異なる部分からなる段付き棒の両端に引張荷重$P$が作用するとき,段付き棒全体の伸びを求めよう。なお,棒のヤング率は一様に$E$とする。この問題は力のつり合いのみから各部に作用する荷重が求まる静定問題であるので,荷重から応力,応力からひずみを求め,最終的にひずみから棒の伸びを計算すればよい。
図2.1 段付き丸棒の引張り
直径$d_1$の部分の断面積は$\pi d_1^2/4$であるから,この区間に生じる応力$\sigma_1$,ひずみ$\varepsilon_1$,伸び$\lambda_1$は,
\[\sigma_1 = \frac{4P}{\pi d_1^2}, \quad \varepsilon_1 = \frac{\sigma_1}{E} = \frac{4P}{E \pi d_1^2}, \quad \lambda_1 = \varepsilon_1 l_1 = \frac{4Pl_1}{E \pi d_1^2}\]
同様に,直径$d_2$の部分において,
\[\sigma_2 = \frac{4P}{\pi d_2^2}, \quad \varepsilon_2 = \frac{\sigma_2}{E} = \frac{4P}{E \pi d_2^2}, \quad \lambda_2 = \varepsilon_2 l_2 = \frac{4Pl_2}{E \pi d_2^2}\]
結果的に,棒全体の伸び$\lambda$が以下のように求められる。
\[\lambda = \lambda_1 + \lambda_2 = \frac{4P}{E \pi } \left( \frac{l_1}{d_1^2} + \frac{l_2}{d_2^2} \right)\quad \text{(答)}\]
2.2 断面積が変化する帯板の引張り
次に,図2.2に示すような幅が一次関数的に変化する帯板について考える。両端に荷重$P$が作用し,左端の幅は$b_1$,右端の幅は$b_2$,長さは$l$,厚さは$h$,ヤング率は$E$である。この帯板の荷重方向の伸びを求めよう。
図2.2 断面積が変化する帯板の引張り
帯板の長手方向に座標$x$をとり,帯板左端と右端の座標をそれぞれ$x=0$,$x=l$とすると,区間$[0\le x \le l]$における板の幅$b(x)$は以下のようになる。
\[b(x) = \frac{b_2 – b_1}{l} x + b_1\]
よって,座標$x$の位置における応力$\sigma(x)$は,
\[\sigma(x) = \frac{P}{b(x) \cdot h}\]
ひずみ$\varepsilon(x)$は,
\[\varepsilon(x) = \frac{\sigma(x)}{E}=\frac{P}{E h } \left( \frac{b_2 – b_1}{l} x + b_1 \right)^{-1}\]
上記のひずみ$\varepsilon(x)$を,区間$[0\le x \le l]$にて積分すれば,帯板全体の伸びが求まる。
\[
\begin{split}
\lambda &{} = \int_0^l \varepsilon(x) dx = \frac{P}{E h} \int_0^l \left( \frac{b_2 – b_1}{l} x + b_1 \right)^{-1} \\
&{} = \frac{Pl}{E h (b_2 – b_1)} \log \frac{b_2}{b_1} \quad \text{(答)}
\end{split}
\]
3 不静定問題の考え方
これまで解いてきた棒や板の引張りに関する問題では,物体に作用する力のつり合いを考えることによって,ただちに物体の内部に作用する応力を求めることができた。このように,物体の変形を考えることなく,力のつり合いのみから荷重や応力が決まる問題を静定問題と呼ぶ。一方,力のつり合いと物体の変形の両方を考えなければ荷重や応力が決まらない問題を不静定問題と呼ぶ。以下,棒の引張・圧縮に関する典型的な不静定問題について解説する。
3.1 並列接続された丸棒の引張り
図2.3に示すように,直径$d$,長さ$l$の3本の棒があり,その先端が板で結合されている場合について考える。上下の棒のヤング率は$E_1$,中央の棒のヤング率は$E_2$であり,右端の結合部に対して紙面右向きの荷重$P$を作用させるとき,それぞれの棒に作用する軸力,応力,棒に生じる伸びを求めよう。
図2.3 並列に接続された丸棒の引張り
図の上から順に棒1,棒2,棒3と呼ぶことにする。それぞれの棒に作用する軸力を$P_1$,$P_2$,$P_3$とおくと,これらの和は外力$P$に等しいから,
\[P = P_1 + P_2 + P_3\] | (1) |
となる。3本の棒に生じる応力はそれぞれ
\[\sigma_1 = \frac{P_1}{\pi (d/2)^2} = \frac{4P_1}{\pi d^2}, \quad \sigma_2 = \frac{4P_2}{\pi d^2}, \quad \sigma_3 = \frac{4P_3}{\pi d^2}\] | (2) |
となる。3本の棒に生じるひずみは等しく,それぞれの棒においてフックの法則が成立するから,
\[\sigma_1 = E_1 \varepsilon, \quad \sigma_2 = E_2 \varepsilon, \quad \sigma_3 = E_3 \varepsilon\] | (3) |
よって,式(2)と式(3)より,
\[P_1 = \frac{\pi d^2}{4}E_1 \varepsilon, \quad P_2 = \frac{\pi d^2}{4}E_2 \varepsilon, \quad P_3 = \frac{\pi d^2}{4}E_1 \varepsilon\] | (4) |
式(1)と式(4)より,$P_1$,$P_2$,$P_3$を消去して整理すれば,
\[P = \frac{\pi d^2}{4}(2 E_1 + E_2) \varepsilon \quad \therefore \varepsilon = \frac{4 P}{\pi d^2 (2 E_1 + E_2)}\]
よって,軸力$P_1$,$P_2$,$P_3$は,
\[P_1 = P_3 = \frac{ E_1}{2 E_1 + E_2} P, \quad P_2 = \frac{E_2}{2 E_1 + E_2 } P \quad \text{(答)}\]
棒に生じる応力$\sigma_1$,$\sigma_2$,$\sigma_3$は,
\[\sigma_1 = \sigma_3 = \frac{ 4 E_1 P}{\pi d^2 (2 E_1 + E_2) },\]
\[\sigma_2 = \frac{4 E_2 P}{\pi d^2(2 E_1 + E_2)} \quad \text{(答)}\]
3本の棒には等しい伸び$\lambda$が生じ,結果的に以下のように求められる。
\[\lambda = \varepsilon l = \frac{4 P l}{\pi d^2 (2 E_1 + E_2)} \quad \text{(答)}\]
3.2 中間部に軸荷重を受ける丸棒
次に,図2.4に示すようなヤング率の異なる区間を有する丸棒の問題について考える。ヤング率$E_1$,長さ$l_1$の丸棒と,ヤング率$E_2$,長さ$l_2$の丸棒が直列に結合されており,両端が剛体壁に固定されている。棒の結合部に荷重$P$が右向きに作用するとき,ヤング率$E_1$の部分(区間1)およびヤング率$E_2$の部分(区間2)に作用する応力と荷重の作用点における変位を求めよう。不静定問題であるので,区間1,区間2における軸力をそれぞれ$P_1$,$P_2$とおく。それぞれの区間における応力$\sigma_1$,$\sigma_2$,ひずみ$\varepsilon_1$,$\varepsilon_2$はそれぞれ$P_1$,$P_2$を用いて以下のように表される。
\[\sigma_1 = \frac{4 P_1}{\pi d^2}, \quad \sigma_2 = \frac{4 P_2}{\pi d^2}, \quad \varepsilon_1 = \frac{4 P_1}{E_1 \pi d^2}, \quad \varepsilon_2 = \frac{4 P_2}{E_2 \pi d^2}\]
よってそれぞれの区間の伸び$\lambda_1$,$\lambda_2$は,
\[\lambda_1 = \frac{4 P_1 l_1}{E_1 \pi d^2}, \quad \lambda_2 = \frac{4 P_2 l_2}{E_2 \pi d^2}\]
棒の両端は拘束されているから,2つの棒に生じる伸びの和は0となる。
\[\lambda_1 + \lambda_2= 0, \quad \therefore \frac{4 P_1 l_1}{E_1 \pi d^2} + \frac{4 P_2 l_2}{E_2 \pi d^2} = 0\] | (5) |
軸力$P_1$,$P_2$と外力$P$の間には
\[P = P_1 – P_2\] | (6) |
の関係が成り立つので,式(5),(6)より軸力$P_1$,$P_2$を求めると,
\[P_1 = \frac{ E_1 l_2}{E_1 l_2 + E_2 l_1} P, \quad P_2 = -\frac{E_2 l_1}{E_1 l_2 + E_2 l_1} P\]
よって,区間1,区間2に作用する応力は,
\[\sigma_1 = \frac{ 4 P E_1 l_2}{\pi d^2 (E_1 l_2 + E_2 l_1)} P\]
\[\sigma_2 = -\frac{ 4 P E_2 l_1}{\pi d^2 (E_1 l_2 + E_2 l_1)} P\]
図2.4 中間部に軸荷重を受ける丸棒
荷重$P$の作用点における変位$\lambda$は,
\[\lambda = \lambda_1 = \frac{4 P_1 l_1}{E_1 \pi d^2} = \frac{ 4 l_1 l_2 P}{\pi d^2 (E_1 l_2 + E_2 l_1)} \quad \text{(答)}\]
以上のように,不静定問題では軸力(もしくは応力)を仮定したうえで部材のひずみや変位を求めたうえで,変形量に関する何らかの条件式を与えることによって未知量(不静定量)を求めて,最終的に各部の応力や変位を求めるのが一般的な解き方の流れとなる。
演習問題2.1:円筒と円柱の圧縮
図2.5に示す外径$d_2$,内径$d_1$,長さ$l$,ヤング率$E_2$の円筒の中に,直径$d_1$,長さ$l$,ヤング率$E_1$の円柱を収め,上下を剛体の板ではさむ。いま,この構造に対して上下から圧縮荷重$P$を作用させるとき,この構造物の縮み量を求めよ。
(答:$\boldsymbol{4PL/\{ \pi E_1 d_{1}^2 + \pi E_2(d_{2}^2 – d_{1}^2)\}}$)
図2.5 円筒と円柱の圧縮
<フェロー>
荒井 政大
◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授
◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。
キーワード:やさしい材料力学
【表紙の絵】
さがせ!タカラモノグラ
後藤 快 くん(当時7 歳)
タカラモノグラは化石や宝石をみつけるきかいです。
そうじゅうしているぼくは、きょうりゅうの化石やキラキラしている宝石をみつけようとわくわくしています。