特集 Diversity & Inclusion
関西支部シニア会活動紹介
関西支部シニア会の意義
ダイバーシティ&インクルージョンの観点から
関西支部シニア会は、①シニアの持つ豊富な知識と経験を活かした社会、地域、学術界、企業などへの貢献と、②会員同士や学生などとの世代間を超えた交流とを通じてシニアのQOL(Quality of Life)を高める場を作ることを設立の理念・目的として、2006年4月に発足した。会員数は発足当時の2倍近い200名強となり、漸増傾向にある。
この理念は、設立から13年目を迎えた現在も変わりはないが、日本機械学会としても重要性が指摘されているダイバーシティ&インクルージョンの観点から、関西支部シニア会の意義を考えてみる。
多様性のある環境の中で、多様な人々が活動しやすい状態を作るダイバーシティと、違いを持つ人々がその違いを受け入れられながら組織に貢献している状態を作るインクルージョンとを両輪として推進する一事例として、日本機械学会を含む多くの組織では、「女性活躍」を掲げて努力が払われているところである。
日本機械学会の英文表記は、The Japan Society of Mechanical Engineersであり、さまざまな技術的・職業的背景をもつ幅広い機械技術者のための団体と解釈される。しかし、実際には研究・教育機関や企業の研究開発部門における学術研究の深化、研究開発力の強化、高度な教育の推進などに活動の中心があると考えられる。そしてその活動の成果は、企業の中でも研究・開発とはやや遠い位置にある部門や実際のものづくりを支えている中小・零細企業に伝播していくべきものであろう。さらには、一般社会や青少年の技術・技術者に対する認識と理解を深め、応援してもらえる状況を作り出す必要がある。まさに、性別、人種、国籍、年齢などだけに留まらないダイバーシティ&インクルージョンが求められていると考えられる。
しかし、現役で活動している研究者・技術者は、上記の中心的活動に専念する必要があることから、活躍の場を所属する組織の外に拡大するのは容易ではないだろう。
関西支部シニア会としては、活躍する研究者・技術者の「年齢」の多様化という意味合いだけではなく、個々人の立場による違いはあるとしても、所属する組織からの制約を軽減した活動ができる機会が多いシニア会員が積極的に活動すれば、日本機械学会のダイバーシティに貢献でき、かつシニア自身のQOLを高めることができると考えている。
社会貢献活動
社会貢献活動の一環である「親と子の理科工作教室」は、シニアの経験と知識を活かして理科好きの子供を育てることを目的に、開始から10年が経過した。好評を得ており、2017年度末までに累計4,700名を超える児童が参加し、関西支部貢献賞(2013年度)、日本機械学会教育賞(2014年度)を受賞している。
2018年度も多くの自治体・学校からの要請により、40以上の教室を開催する計画を実行している。また、日本機械学会ジュニア会友向けの教室も開催している。機械学会の活動の対象を大学・研究機関や企業の技術関連部門に所属している研究者・技術者から次世代を担う青少年に拡大し、活動の場を地区の公民館や学校などに拡大した例である。
子供たちが作製したホーバークラフトを競争させている風景
同じく社会貢献活動の一環である、「企業内技術者教育」は、受講を希望する個別企業のニーズに合致するようにカスタマイズされた教育の実施を心掛けている。受け手の企業規模、技術的知見・経験、技術目標、教育方針などの環境に極力きめ細かく配慮することで、教育の担い手からの一方通行の教育ではない教育方法の拡大を試みている。
内容は、必ずしも先進的でなくとも伝承すべきであるにも関わらず、ベテランの退場などで空洞化しがちな基盤技術で、シニアの知見・経験が発揮される領域が中心となっている。現在のところ、材料力学・強度の分野と振動・音響の分野に限られ実績は必ずしも多くないが、2018年度は9月時点で1社に対する教育を終え、3社に対して実施中、1社と協議中である。
「学生会との交流活動」は学生の社会観の醸成への一助を目的としている。年1回ではあるが、シニア会からは、自らの社会経験を踏まえた技術者のありように関わる講演を行うとともに、学生会からは学生の立場からの提言を得て、グループ討議を行っており、学生諸君からは好評を得ている。
また、毎年1回3月に開催される学生員による卒業研究発表講演会にはコメンテータとして参加し、最新の研究テーマにつき、質疑応答を通じて学生諸君と意見交換を行っている。
交流活動
交流活動の一環である、「情報交流サロン」は、会員が集積してきた経験・学識などを披露してもらい議論する場である。同じ機械工学・機械関連産業に携わってきたとはいえ、さまざまな経歴を経ることで培われた異なる経験・ものの見方・価値観に触れることで白熱した議論を通じて、それぞれに新たな発見があり、好評を博している。年3回を目途に開催されている。
同じく交流活動の一環である、「特徴ある技術を有する企業見学会」は創意工夫・技術開発などで成長している企業を訪問・見学し経営や技術に対する理念に触れることを目的としている。伝統的な産業とは異なる経営スタイルや方法論による技術や経営の進歩、産業構造の変化に触れることで、視野が広がるとして好評である。こちらも年3回を目途に開催している。
「機械・産業遺産ツアー」は先人の努力の跡を知り、現在の技術・製品への変遷の過程、未来の技術のあるべき姿に想いを馳せることを目的としている。日本機械学会が認定した機械遺産の所在地などを訪問し、可能な限りの技術的説明を受けているが、時代背景に応じた市場ニーズの変遷と技術発展との関係に触れ、価値観の多様化に資すると考えられる。毎年1〜3回程度開催している。
「情報交流サロン」、「特徴ある技術を有する企業見学会」、「機械・産業遺産ツアー」はいずれも、会員同士あるいは会員と訪問先企業や伝統を維持してきた方々との間で、異なる価値観を交換し、それぞれが新たな発見をし、見識を高めるという意味で、ダイバーシティ&インクルージョンにつながるものと考えられる。
これらのシニア会員の見識を高める活動は、参加したシニア会員だけが知見を得るに留まっていては勿体ないものである。シニア会からの情報発信の在り方についても検討を継続する必要があると考えられる。
関西支部シニア会の活動の詳細については、関西支部ホームページで関西支部シニア会http://www.kansai.jsme.or.jp/Senior/にアクセスしていただければ閲覧できる。是非ご覧いただきたい。
また、「特徴ある技術を有する企業見学会」、「機械・産業遺産ツアー」等の活動報告は、同じく関西支部ホームページで履歴(過去の行事の案内・報告)をクリックすれば閲覧できるので、ご覧いただきたい。
まとめ
以上、関西支部シニア会の活動の一端を紹介したが、シニア会に所属し、活動の多様化と異なる価値観の受容・一体化に接する機会を得ることは、シニアのQOLを高めるだけでなく、日本機械学会自体にダイバーシティ&インクルージョンの観点からも貢献するものと考えられ、シニア会活動の重要性はますます高くなるものと思量している。
<名誉員>
城野 政弘
◎大阪大学 名誉教授 関西支部シニア会会長
◎専門:機械工学、材料力学、強度設計
<フェロー>
溝口 孝遠
◎元神戸製鋼所 関西支部シニア会幹事
◎専門:機械工学、材料力学、強度設計
キーワード:特集
【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)
私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。