特集 Diversity & Inclusion
JSME International Unionの設立と取り組み
はじめに
2016年3月にコミュニティーを形成
2016年3月、外国籍の留学生や技術者のコミュニティーを形成し、グローバル化の強化を図る目的でJSME International Union(JSME-IU)は発足した。欧米の学会が国際展開する中、本会もまた、関連分野における最先端の情報が世界から集まり、そしてこれを世界へと発信できる情報ハブとして機能する学会へと変容していくことが必要である。本会には約800名の外国籍会員が在籍しており、総数としては大きいが、全体の中ではわずか2.3%である。この数値から鑑みるに、現状では外国籍の技術者にとって魅力の高い学会とは言い難い。また、本会ではこれまで、国際会議を通じての国際交流が主体であったが、そこからの脱皮を図り、まずは外国籍会員を中心とした集まりを設け、国際活動を活性化させたいという強い意向があった。これを受けて、小豆畑会長、岸本筆頭副会長、風尾会員部会長、大竹国際連携委員長(当時)から「JSME International Union」の設立が提案され、2015年度に発足に至ったのである。
これまでの活動
外国籍会員のキャリア形成と日本での人材育成を議論
グローバル化を主題に据えた初めての試みである本シンポジウムは、2016年3月、関東支部総会・講演会に併せて東京工業大学で開催され(図1)、留学生・外国人研究者が参加した。小豆畑会長による基調講演では、JSME-IUの目指すもの、グローバル化の必要性についてなど、今後のJSME-IUの基盤となる展望が示された。続く風尾幸彦理事による特別講演では、日本企業の求める留学生像について、詳細なデータを基にした説明がなされた。その後のパネルディスカッションでは①留学生の就職、②日本の中の見えない壁(主に言葉の壁の大きさ)について討論が行われ、個人と個人との繋がりを大切にすることが、社会の壁を乗り越えるために必須であるとの想いを共有する場となった。
図1 第一回グローバル化シンポジウム
同年9月には、九州大学において第2回シンポジウムが開催された。留学生をターゲットにしていることをより明確にするために、シンポジウム名称を留学生シンポジウムと改称した。風尾副会長による基調講演では、日本企業における留学生の人材需要の高まりを説明するとともに、例えば採用の際に日本語能力を不問とするようになった事例など、受入側企業における変化も紹介された。ケーススタディでは、日本企業に就職した元留学生を講師として招き、自身がどのように日本で学び、職を得たのか、体験談が語られた。留学生の参加者が若干少なかったが、講師陣との積極的なディスカッションが展開され、日本企業への就職や本会の留学生へのサービス向上などについて、白熱した議論がなされた。
そして、2017年9月に、埼玉大学において第3回シンポジウムが開催され、留学生らが参加した。基調講演講師として、中畑英信氏〔(株)日立製作所 執行役常務、CHRO兼人財統括本部長〕を招き、グローバル企業として各国支社における人材開発・管理の標準化や、外国人や女性の積極的な役員・管理職への登用による多様性の実現に取り組んでいることが紹介され、留学生に対する期待が語られた。元留学生の講師からは日本に留学した動機や、日本企業を選んだ理由、また就職してから苦労したことが、それぞれの観点から紹介された。ディスカッションでは、企業勤めからアカデミアへ転向した理由など、参加者から突っ込んだ質問をぶつけられ、戸惑いながらも講師が回答するシーンもあり、大いに盛り上がった。
2017年11月には、日本機械学会創立120周年記念式典で本会のさらなるグローバル化を目指したランチバンケット企業交流会とグローバル講演会が開催された(図2)。ランチバンケット企業交流会ではハラル食をいただきながら、外国籍の学生のみなさんが日本の大学で勉強した後、日本の企業にどのように就職するキャリアが考えられるのか、議論した。ご参加いただいた7社による英語による企業紹介では外国籍のみなさんが就職した後の社内でのキャリアパスや業務内容に踏み込んだ具体的なプレゼンが行われた。その後の企業ブースでの交流会では、留学生がそれぞれの企業担当者から直接、話を聞くことができる貴重な場となった。その後のグローバル講演会では、アジア地区の学生のグローバルな視点における人材育成の方法に関して熱い議論が展開された。
図2 日本機械学会創立120周年記念式典
2017年11月には、JSME-IUとして、留学生会員に対してアンケート調査を実施した。その結果、日本機械学会の外国籍会員は全国におり、いずれかの都市部に集中している状況にはないことがわかった。そのため、情報が少なく、多くの仲間との交流を希望していることも理解できた。
2018年9月には、関西大学で第4回となるシンポジウムが開催された。武庫川女子大学の平井拓己氏は基調講演で、中小企業の魅力や働く際の心得について、実例なども交えわかりやすい紹介を行った。2人目の基調講演として、アルドネット(株)代表取締役のサファ・ローラン氏から、自身の企業体験も踏まえ、社内企業家と企業家の違いや、日本で働く際の注意点などについてお話いただいた。ケーススタディでは、留学生の日本における就職活動の実例や日本でのキャリア形成について議論した。
2018年11月には、日本機械学会(東京都信濃町)で企業インターンシップ座談会を開催した(図3)。JSME-IUとして、日本の企業に興味をもつ留学生と留学生に興味をもつ企業に交流の場を提供することによって、日本の企業に対して優秀な留学生の存在の理解を促し、最終的には多様な人材の日本への定着を支援する活動を行った。参加した留学生からは、“日本への留学前は、学位取得後は出身国に帰国して就職することを考えていたが、その他にもさまざまな選択肢があることを再認識することができた”とのコメントも寄せられた。このようなイベントを通じて、グローバルな視点での人材育成・キャリア形成について、議論を深めていきたいと考えている。
図3 企業インターンシップ座談会
今後の活動
今後もJSME-IUは、外国籍会員のコミュニティーとして、積極的に活動する予定である。2019年度以降は、さらに外国籍会員のみなさま以外にもその活動の対象を広げる。日本機械学会の真のグローバル化とはなにか議論しながら、活動を展開していきたいと考えている。
参考文献
日本機械学会IUホームページ https://www.jsme.or.jp/iu/
<フェロー>
古川 克子
◎東京大学 大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻・機械工学専攻 准教授/JSME-IU委員長
◎専門:生体機械工学、再生医工学、メカノバイオエンジニアリング
キーワード:特集
【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)
私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。