特集 Diversity & Inclusion
15年目を迎えたLAJ委員会
はじめに
21世紀はさらに変化が大きく不確実で複雑かつ曖昧(VUCA)な時代になると言われています。そのような時代を柔軟に乗り越えていくためには、本特集のテーマである多様性(diversity)の確保がより一層重要となり、その中でも女性と男性が力を合わせてそれぞれ活躍することは、多様性を担う最たるものの一つであると言えましょう。
近年、日本でも育休制度の充実など、子育てや介護などのライフイベントと仕事とを両立してこなせるように制度やシステムが変化しつつあります。また国レベルでも、1986年施行の男女雇用機会均等法に始まり、2016年に施行された女性活躍推進法と、ここ30年余り継続的に法整備がなされてきました。しかし、実際の現場ではまだまだ十分な理解が得られないこともあるかもしれません。
LAJ(Ladies’ Association of JSME)では、そんな時に気軽におしゃべりしてストレス発散したり、気分転換したり、時には解決策も見つけられる場を提供することを目的に、日本全国をカバーする25名の委員を中心に活動を行っています(1)。LAJ委員会というと女性ばかりの委員会という印象をお持ちの皆さまも多いかと思いますが、実はLAJ委員会には現在4名の男性委員もおり(目標は3割ですが)、女性委員と力を合わせて日々活動を行っています。
LAJ委員会と女性会員数
LAJ委員会は、機械工学分野における女性研究者・技術者の活動を支援し、女性会員の増強を図ることを目的に会員部会の下部組織として2004年10月に発足し、以下の3点を主な目標に掲げています(1)。
1.機械工学分野で活躍している女性の積極的な情報発信
2.機械工学に携わっている女性のネットワークの充実化と拡大
3.性別をこえた研究・職場の環境つくり
本原稿執筆時点の2018年10月でLAJ委員会の活動はちょうど15年目に入りましたが、2003年度末には447名だった日本機械学会の女性会員数も2018年9月末時点で1,148名と2.5倍以上になり、この間33,420〜38,063名の間でほぼ横ばいの個人会員数に占める女性会員の割合も2003年度末の1.2%から2018年9月末の3.2%へと増加しています(図1)。
図1 女性会員数と個人会員に占める割合の推移
上記の割合からは、まだまだ女性が少ない印象ですが、同様の増加傾向は日本機械学会の女性会員数に限らず、理工系全体でも見られる傾向です。例えば、期間は異なりますが、文部科学省の「理工系人材育成戦略」(2)によると、理・工・農学関係学部の女子学生の割合は、1993年から2013年の20年間で30.9%から43.5%に増加しており、また内閣府男女共同参画局の「男女共同参画白書(平成30年版)」(3)によると、女性研究者数の割合も1992年から2017年の25年間で7.9%から15.7%とほぼ倍増しており、一連の政策や制度、地道な活動、社会の変化、そして個人個人の意識の変化などが相まって、一定の効果が出始めているのではないかと感じています。
LAJ活動の紹介
前置きが長くなりましたが、以下では、上記の目標を達成すべく行っている、LAJ活動の一端をご紹介させて頂きます。
女性エンジニア交流会、ランチミーティング etc.
2011年9月に東京で第1回が開催された「女性エンジニア交流会」は、その後徐々に開催地を増やし、2018年度は全国8都市で開催するまでに至っています(図2上)。毎回10〜20名程度の女性技術者・研究者および機械系女子学生が参加し、本音トークを楽しんでいます。
図2 イベントポスター(上)2018年度女性エンジニア交流会、(下)メカジョ未来フォーラム2019
また、日本機械学会の年次大会(2018年度は関西大学にて開催)においては、女子学生を中心としたランチミーティングを開催し、さらに支部やブロックとの合同企画として見学会や懇談会も行っています。
比較的少人数で面と向かってじっくり話のできるこれら一連の交流会はLAJ活動の根幹をなす活動であり、これからもこれらの交流会を通じてLAJ活動の伝統である“ゆる〜いつながり”を広めていく予定です。
なお、2019年1月以降には、下記の通り4地区で「女性エンジニア交流会」を開催予定です。
・東海:1月〜2月頃@名古屋駅周辺
・関東(社会人限定):2月16日(土)18:00〜@品川
・北陸信越:3月2日(土)12:00〜@富山大学
・北海道:3月頃@北海道大学周辺
本原稿執筆時点ではまだ詳細が決まっていないところもありますが、最新情報および参加申込方法に関してはLAJホームページ(1)をご覧下さい。多数の皆さまのご参加をお待ちしております。
出前授業
LAJ委員会では2009年から年に数回のペースで、全国各地の中学校や高等学校で出前授業を行っており、これまでに行った出前授業は通算29回を数えるまでになりました。
ある調査(4)によると、小学生までは「文系か理系かの自己認識」で女子は「文系/理系の自己認識」がそれぞれ半々(ちなみに男子小学生は理系と自己認識するほうが多い)なのですが、中学校、高校と進むにつれて「理系の自己認識」が大幅に減少してしまっています。これは私の憶測にすぎませんが、元々は理工系が好きだったのに、周囲からの影響や環境によって自己認識が変化してしまっているケースも結構あるのではないかと考えられます。
このようなことから、出前授業では、中高生に研究や開発を続ける楽しさを感じてもらい、また女性技術者・研究者の実際の仕事や生活の様子を知ってもらうことで、進路選択の一助となることを目指しています。
メカジョ未来フォーラム
2016年度から始まった女子学生向けキャリアミーティング「メカジョ未来フォーラム」では、日本機械学会理事会とともに実行委員会を組織してフォーラムを企画・運営しており、今回は第3回目の開催となります(図2下)。
メカジョ未来フォーラム2019
日時:2019年3月8日(金)13:00〜17:00
会場:明治記念館(東京都)
第1部は女性技術者を講師に迎えたトークセッションおよび第2回「日本機械学会女性未来賞」の贈呈式、第2部は参加企業50社との交流会となっております。1社あたり学生2〜3名程度の比率ですので、企業の方ともたっぷり話ができる絶好の機会です。参加登録および詳細はホームページ(https://www.jsme.or.jp/event_project/mechajomirai/)をご覧下さい。多くの女子学生の皆さまのご参加をお待ちしております。
おわりに
15年目を迎えたLAJ委員会では、ここに紹介させて頂いた活動を通して、今後も女性委員と男性委員とで力を合わせて活動していきます。皆さまのLAJイベントへのご参加をお待ちしております。
参考文献
(1) LAJホームページ,https://www.jsme.or.jp/laj/(参照日2018年10月31日)
(2) 「理工系人材育成戦略」の公表について, 文部科学省http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/sangaku2/1351875.htm(参照日2018年10月31日)
(3) 男女共同参画白書 平成30年版,内閣府男女共同参画局 http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/index.html(参照日2018年10月31日)
(4)「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」,東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=5095(参照日2018年10月31日)
<正員>
深潟 康二
◎慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 教授/LAJ委員長、メカジョ未来フォーラム2019実行委員長
◎専門:流体力学、流れの制御、乱流、機械学習
キーワード:特集
【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)
私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。