特集 Diversity & Inclusion
小さな会社のダイバーシティ経営
「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出
“川田製作所”という会社を、読者の皆さんはおそらく知らないだろう。創業49年、神奈川県小田原市にある金属部品加工の会社。いわゆる“町工場”である。社員約20名が働くこの小さな会社は、2018年3月に経済産業省による「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出された。選出理由は、障がい者、高齢者、外国人などの多様な人材を採用し活用することで組織力を強化した点である。筆者は8年前にこの会社の副社長として入社した。
それは「超・高齢化組織」から始まった
「社長は70歳、後継者不在の町工場」。この説明を聞き、皆さんは、どのような職場をイメージするだろうか。8年前の川田製作所(以下、当社)は、社員14名。その8割以上が55歳以上という「超・高齢化組織」であった(40歳の筆者は、会社で3番目の若手として迎えられた)。
「超・高齢化組織」のもう一つの特徴は、「ベテラン社員集団」であるということ。勤続30年以上のベテラン社員もいる組織は、長年にわたる経験知に溢れた安定感のある集団である。しかし、その状況が長く続かないことは年齢的に明らかであった。
採用のチャンス!多様な社員の採用へ
転機が訪れたのは今から4年前。大きな仕事を引き受けることになり、新たに5〜6名の採用が必要となった。採用にあたり、まずは求人広告やハローワークを利用し、「パート社員として働きたい女性」や「知的障がいを持った若者」を採用した(当社では30年以上前より障がい者雇用を行っており、この時点ですでに3名の障がい者が活躍していた)。また、外国人技能実習制度を利用し、海外人材としてベトナム人2名を採用した。この採用をきっかけに、当社では多様な人材が活躍できる場をいかに作り出せるかを考えてきた。
それから4年が経ち、現在は「高齢者」「障がい者」「外国人」「それ以外」がほぼ4分の1の構成となっている。
良い雇用の場を作る
“良い雇用の場”とはどのようなものであろうか。取り組みの具体事例を通じてお伝えしたい。
【ケース1】
課題:知的障がいのある社員は、数を数えるのが苦手であった。仕事では不良品の数を数える作業があった。
対処:手動で使えるカウンター機を用意し、数える作業を不要とした。さらに、他の社員もそのカウンター機を使うようになった。
【ケース2】
課題:外国人の社員にとっては、漢字を理解するのが難しかった。職場には、文具や工具などを保管する場所に置き場の表示があったが、その多くは漢字で書かれていた。
対処:置き場の表示の一部を写真で表示するようにした。映像で置き場が分かるため、漢字の読めない社員であっても、置き場が分かるようになった。
【ケース3】
課題:発達障害を持つ社員は、とっさの対応が苦手であった。電話応対は、その社員の仕事であり、電話口で言葉を詰まらせることが多かった。
対処:ナンバーディスプレイの契約をし、あらゆる関係者の電話番号を登録した。電話に出る前に相手の名前がわかるため、応対がスムーズになった。他の社員が電話に出る時も便利だと評判となった。
“良い雇用の場”は、このような取り組み(図1)の積み重ねにより生まれる。
図1 具体的事例
(左上)ケース1のカウンター
(右)ケース2の置き場表示(ハサミ)
(左下)ケース3のナンバーディスプレイ
ダイバーシティ経営が生み出すもの
多様な人材が働く場とは、年代も、文化も、言葉も、得意なことも、不得意なことも異なる人の集まりである。誤解による仕事上のトラブルから個人的な衝突など、摩擦は実に多い。みんな同じ形をしていないから当然である。それらの摩擦に気づき、見つめ、話し合い、共に行動する。それができれば、組織には、共助・共働という文化が生まれ、それが定着して新しい風土となる。
また経営者は、そのプロセスの中で、ダイバーシティ経営とは「外国人」や「障がい者」といった属性で語る世界ではなく、「個性や特徴」に向き合うことであり、その「個性や特徴を引き出す職場環境や仕組み」を作ることであることに気づくだろう。
これが、小さな会社で8年間取り組み、私が学んだことである。もっともっと“良い雇用の場”を、社員とともに作っていこうと思う。
川田 俊介
◎有限会社川田製作所 副社長
キーワード:特集
【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)
私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。