2018年度年次大会 開催報告
はじめに・大会概要
2018年9月9日(日)〜12日(水)の4日間にわたり、日本機械学会2018年度年次大会が関西大学にて開催された。本年度は、開催直前の4日に、台風21号が関西圏を直撃、海に沈む滑走路とタンカーの衝突した連絡橋のショッキングな姿が全世界に報道され、関西国際空港もしばらく機能不全となった。関西大学も無傷ではなかったが、幸い会期までにはほぼ復旧し、来場者の目には倒木処理作業が目につくぐらいで済んだ。さらに二日後の6日には北海道胆振東部地震が発生、全道ブラックアウトに至り、新千歳空港も閉鎖となった。これら二つの自然災害を受け航空網が大幅に乱れ、空路で来阪予定の方のキャンセルが予測されたとともに、物流の混乱により、配送業者の確保や納品日特定が困難になるなどしたため調整と連絡に追われた。このようなイレギュラーな事態は発生したものの、最小限の影響で済み、何とか開催に漕ぎつけることができたことは幸いであった。とはいえ、本稿を始めるにあたって、両自然災害に被災された全ての方に対して、心よりお見舞いの言葉を述べたい。
さて以上のような直前の混乱はあったものの、大枠は例年通りのスケジュールで進行し、初日は市民公開行事、2日目以降に一般講演および各種特別企画、また2日目の夕刻に部門同好会、3日目の午後に特別講演、夕刻に全体懇親会と学生交流会を設定した。本年は、大会キャッチフレーズを「多様化する社会・技術への機械技術者の挑戦」とし、三つの大会テーマ「情報と機械の融合」「社会構造変化への対応」「革新技術への新展開」を掲げるとともに、可能な範囲で“機械学会の年次大会”を意識してみた。2017年の埼玉大学以前に確立された手法も多く踏襲させていただいたが、以下、細かなところも含めて今回意識的に行ったことを列記しておく。
1.プロシーディング(DVD)の構成を変え、タイムテーブル基点で当日のプログラムの把握と講演論文へのアクセスが容易になるようにした。プログラムでは特に部門に属さない各種委員会等の企画、つまりは機械学会としての企画が目に付きやすい形とした。なお会場内のWi-Fi環境を確保しWeb閲覧で十分参加できる環境提供を目指した。
2.市民への発信は学会の重要な役割であるとの考えから、市民フォーラムは対象別のポスターを作成、さらに企画毎に作成されているポスターも積極的に活用、関西大学、吹田市、阪急電鉄他の協力も得て多種ルートでの案内を試みた。また、機械学会のTwitterアカウント(@JSME_Mech)をお借りし、会期中の掲示板がわりに発信を試みた。
3.特別講演は、大会キャッチフレーズに沿ったテーマにこだわり選定を行った。両講師ともご多忙な方ではあるが、依頼時に一時間程度の時間を取っていただいて意見交換をおこなうことで、こちらの意図を十分に踏まえて講演いただけるようにした。
4.特別講演とは別に、年次大会全体で一つのセッションを設けたいという趣旨から、特別講演の後に公開座談会という形を設けた。
5.次の世代への機会の提供も学会の役割の一つとの考えから、聴講のみの学生は登録のみすれば、参加費は無料とすることで、特に近隣の学生が気軽に参加できるよう配慮した。
6.部門同好会だけではなく、全体の懇親会にできるだけ多くの方に参加していただきたいというメッセージを込めて、懇親会会場を学内とすることで会場費等を極力抑えて、参加費を例年に比べて大幅に下げた。
十分に機能したとは言えない点も多々あるが、これらを踏まえて会の構成を考え、1,180件の一般講演に加え、2件の特別講演、1件の公開座談会、17件の市民公開行事、16件の基調講演、12件の先端技術フォーラム、20件のワークショップ、2件のパネルディスカッションなどが開催され、参加登録者2,001名、招待者269名、聴講のみの学生157名を合わせ、計2,427名の方々にご参加頂き盛況の中で終えることができた。これもひとえにご参加頂いた皆様ならびに開催に際し種々ご協力頂いた皆様あってのことであり、この場を借りて感謝いたします。以下、本稿では大会委員および実行委員の立場から2018年度年次大会の概要を報告する。
公開行事
一般市民を対象として、各部門、関西支部および理事会から提案された19の公開行事が主として9月9日に、関西大学を主会場として(ロボコンプロデュース2018は大阪工業大学梅田キャンパスが会場)開催された。9日早朝は大雨警報が発令されるレベルでの悪天ではあったが、早々に雨も上がり、多くの方に参加いただいて無事終了することが出来た。
市民フォーラムでは機械学会員以外への案内に毎回苦慮されている事は周知のとおりであるが、それ以外にも部門が持ち寄る形態を取っているために企画が同一時間帯に集中してしまう問題がある。これは今後も検討の余地があるかとは思うが、今回は、全セッションが終了した後にイブニングセミナーとしてサントリースピリッツ(株)の全面協力の元、輿水精一名誉チーフブレンダーに原酒の試飲をしながらの講演をお願いした。定員を超える聴衆にお集まりいただいた上、ウィスキーの奥の深さだけではなく、大会のテーマとの関連も考えさせられる面白い内容になったと思う。
特別講演・公開座談会
例年同様2件の特別講演を企画し、収容定員約700名のホールの一階席がほぼ満席となる程多くの方に参加頂いた。1件目は、川崎重工業(株)取締役常務執行役員 精密機械・ロボットカンパニープレジデントの橋本康彦氏に「ロボットと共存する日本の将来社会にむけて-少子高齢化/多様化する社会における新たなロボットのあり方-」を、2件目を、東北大学大学院理学研究科教授であるとともに、東北大学材料科学高等研究所所長の小谷元子先生に「数学と諸分野・産業との連携への挑戦」をご講演いただいた。両講演ともに、大会テーマとも絡めて機械学会の在り方を考えていくうえで種々考えをめぐらしうる非常に面白い講演になったのではないかと思う。また、特別講演終了後、佐々木会長、田中関西支部長、多川大会委員長に加わっていただき公開座談会の形で話をつづけた。短い時間ということもあり、公開座談会は懇親会での話題につなげるという位置付けで実施したが、年次大会の在り方を模索する中での新たな試みの一つとして、ご批評いただければ幸いである。
講演会場の様子
部門同好会・懇親会
9月10日の夕刻(一部門9月9日実施)に、関西大学内4か所の食堂(15部門)と学外の飲食店(3部門)にて部門同好会を開催した。また、翌11日の夕刻には関西大学100周年記念会館にて全体の懇親会を行った。懇親会は会場の時間制約もあり慌ただしい中実施されたが、佐々木会長、前田裕関西大学副学長、多川大会委員長、田中関西支部長の挨拶ののち、次回秋田大学の奥山実行委員長が覚悟の案内を行われ、実行委員長が締めさせていただいた。痛恨のミスは即興でやった大阪三本締めの細部が間違っていたという点で、一度ネット動画でも確認いただき正式な大阪三本締めを確認いただければと思う。
若手の会・LAJ・IU・学生会・学会連携企画
若手技術者が主となり企画された「ドローン利用の最前線」が12日に実施された。残念ながら10日に予定されたデモ飛行は、悪天で中止となったが、それ以外は予定通り敢行された。多忙の中、関西大学まで事前に足を運ばれて検討されるなど非常に熱心に取り組まれており、この会を起点に若い技術者の活躍がより深まることを期待する。
また例年通り、主として女性技術者を対象としたLadies’ Association of JSME企画のランチミーティング、留学生を対象としたSymposium for International Students、学生を対象とした学生交流会が実施された。
種々背景を持つ技術者の交流の場を提供することも年次大会の重要な目的の一つであり、今後もこれらの会は継続するので、ご記憶いただければ幸いである。
なお、昨年に続きバイオエンジニアリング部門が日本循環器学会との連携企画を実施された。調整にかなり苦労されていたが、機械学会の水平展開を考える意味で他部門も参考にしていただければと思う。
理事会・委員会企画
技術者倫理委員会、JABEE事業委員会、イノベーションセンター技術者教育委員会、技術ロードマップ委員会、 標準事業委員会等の企画を聴講できるのも年次大会の特徴である。今回は部門に連携しないこれらの企画が目につくようにタイムテーブルを工夫してみた。特に、新生「日本機械学会あり方」検討委員会が大会キャッチフレーズを絡めて実施されたセッションは、特別講演の講師の先生にも聴講いただき、特別講演、公開座談会へとつなげてみた。
託児所
2007年の関西大学での実施時に手探りで運用を開始した託児所は、10年を経て確立した形で今回も開設させていただき、延べ4名の方にご利用いただいた。本来なら、年次大会以外の行事でもこの種のサービスが充実できれば育児中の技術者へのより強力なサポートとなるとは思うが、やはり年次大会クラスの参加者数が確保できないと難しいのが現実かと思う。この点は申し訳ない気もするが、設置する側の都合としては、毎日複数の利用者があればより充実することができるので、今しばらくは、たとえ年に一度でも年次大会は子供をつれて参加することを考えていただければと思う。
おわりに
今回関西支部の他大学の学内事情もあり、関西大学に急遽実施打診があったのは通常より約半年遅い2015年のクリスマスイブであった。お断りしづらい周到な根回しに加え、前回実施の経験からおおよその段取りと課題は理解していたこともあり数日で目処をつけ、2016年の新春とともに細部調整を行った。実施に当たっては、急仕立てを理由にして、会場校の関西大学関係者は勿論、大阪大学、関西支部の関係者に無理難題を押し付けることでなんとか形作ることが出来た。成り行きとは言え、数々の失礼の段、この場を借りてお詫びするとともに、皆様の御協力に心より感謝します。
年次大会は、実行委員会、各部門が独自性を保ちつつも、機械学会全体で行う年次大会としての色をどう醸し出すかが今後も課題になるのかと思う。次年度の秋田大学は、より難しい調整に臨まれようとしており、今まで以上に関係者の密なる協力と理解が不可欠となると思う。本稿は、渋谷大会委員会委員長、奥山実行委員会委員長ならびに次年度実行委員会委員・運営委員会委員へエールを送ることで締めたい。
日本機械学会2018年度年次大会
大会委員会委員長 多川 則男
実行委員会委員長 梅川 尚嗣
実行委員会幹事 田地川 勉
【表紙の絵】
地球アニマル保ごしせつ
村井 暁斗 くん
(当時10 歳)
動物を地球の中に入れてすみやすいようにしている。
またしょく物も入れているので定期的に水を外から、あたえる。
野生動植物をほごする。