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2018/8 Vol.121

【表紙の絵】
いつでもどこでもプリンプリン
塚本 拓心 くん(当時5歳)
ぼくはプリンが大好きです。いつでもどこでも食べることができるように、プリンを作る機械を考えました。牛さんからミルクをもらって、鶏さんから卵をもらってプリンを作ります。メロンののったプリンいちごののったプリン…が出てきます。「いただきます。パクパク。」あ~うれしいな、しあわせだな。

バックナンバー

ほっとカンパニー

オーエスジー(株) 宇宙時代も見据えて進化を続ける工具の老舗

タップ、ドリル、エンドミルで展開される「Aブランド」

日本にはこんなすごい会社がある

愛知県豊川市のオーエスジー(以下、OSG)は、タップ、エンドミル、ドリルをはじめとする総合精密切削工具のメーカーだ。現在、主力製品のタップでは、国内シェア約52%、世界シェアは約30%。海外拠点は33カ国に展開しており、日本のみならず、世界のものづくりをも支えていると言っても過言ではないだろう。

なぜ、シェア獲得に至ったのか。技術開発を統括する大沢二朗常務は、その理由として、工具の材料となる丸棒や、丸棒を工具に加工する生産設備、タップで培った研削技術、工具の耐久性を高めるコーティング処理などを内製で行なっている点を挙げる。「一気通貫でベストフィットのものをあらゆる組み合わせから持ってくることができる。これがうちの一番の強みでしょう」。精密さを求められる工具も、形状開発と設備開発の両輪を回しているからこそ、対応できるという。

現在、大沢が指揮を執る設計開発部署には160名ほどのスタッフがいる。彼らは小まめに客先に足を運ぶという。「現地現物主義を掲げ、起きている事象を担当のエンジニアがしっかり把握して、問題解決を迅速に行う。世界各地でそれを徹底しています」(大沢)。

微小デブリ観測衛星「IDEA OSG 1」(写真提供 アストロスケール社)

プレミアムブランド「A-TAP」で市場にアピール

OSGは、1938年、大沢の祖父である大沢秀雄が大沢螺子研削所を設立し、タップやダイスの製造販売を始めたことに端を発する。80年におよぶ歴史の中で、当然製品数は増え続けた。材料ごとに設計や仕様を変えていくタップは、カタログも膨大な数に膨んでいき、その製品名もアルファベットと数字の組み合わせの羅列だった。大沢の「何かタップの代名詞にできるブランドができないものか」との想いから立ち上げたのが、2013年に発表したプレミアムブランド「A-TAPシリーズ」だ。「A-TAPの『A』には、さまざまな意味を込めています。アルファベットの最初の文字であり、成績も『A』が一番いい。トランプで言えばエース。我々の業績を引っ張ってくれる一大ブランドに育てたいと考えています」(大沢)。

タップ加工で一番のトラブル要因となるのは、切りくず排出の不安定さ。A-TAPでは、安定した排出性にまず注力した。さらには、むしれやかじりの無い高品位なめねじ加工を実現。加工設備や被削材を問わずに使える汎用性も兼ね備えている。

タップの形状も、従来品に比べると、かなり特殊だ。切れ味重視の刃先で切りくず形状を安定化し、さらに不等リード溝が、切りくずの排出性を大幅に向上させた。この特殊なフォームには、かなりの手間隙を費やし、完成までの時間をかけたという。うまく進んでいても、材料が変わるととたんに駄目になる。研削中に角度が変われば、研削焼けを起こし、次いで硬度低下など大きなマイナス要因を引き起こす。これらの課題も、前述の設備開発と形状開発の両輪があったから克服できたことだ。

同社では、マーケティングや営業なども含め、全社挙げてのプレミアムブランドづくりを行なっている。「良い製品だから必ずしも売れるものではない。むしろ、こちらから売れ筋を作り出すことを仕掛けた」と大沢は語る。現在、世界規模で売れ行きは好調だ。「ドイツのライバル会社が『今回うちはA-TAPに対抗して出したから』などと言ってくる。うれしいですよね(笑)。それだけ市場認知度が上がっていて、他社も意識せざるを得ないわけです。自他ともに認める一級品になっている証です」(大沢)。

最新工作機械で切削試験を行うグローバルテクノロジーセンター

チャンスをつかむ海外企業との積極的な交流

実はライバル社ともお互いの現場を視察し合ったりしているのも、OSGのユニークな点だ。その中で、大沢はドイツと日本のものづくりの根本的な違いを感じることがあるという。それは、欧州のベースが剛性を重視しているのに対し、日本のものづくりは“軽さ”とともにあるのではないかと、大沢は分析する。「近代日本のものづくりは、繊維産業が牽引してきた。それが“軽さ”の一因なのかもしれません。ただ、当然“軽さ”ゆえにできたことがある。欧州と日本がお互いに異なるメリットとデメリットを持っているが、自分たちにない部分を学びながら、我々は独自の技術を乗せていくわけです」(大沢)。

1990年代半ばから積極的に関わってきた航空産業分野では、2000年代に炭素繊維が使用されるようになってから、材料や工具設計、コーティングなど、同社が担う範囲は広くなった。航空業界で足場を作っていくために地道な取り組みを進めている。2013年に参画した「AMRC」もその一つだ。AMRCとは、イギリス政府とシェフィールド大学、民間企業による共同の世界最先端航空宇宙研究施設。民間企業には、ボーイングやロールスロイス、エアバス、スピリットエアロスペースなど80社以上が名を連ねている。また、2017年に設立されたばかりのアメリカ・オレゴン州の産官学連携研究機関「OMIC」には設立前から参画した。「このような場がきっかけで、ロールスロイスでも当社の工具が採用されました。川上から攻めることに注力していきたいと考えています」(大沢)。

航空機に用いられるCFRPなどの複合材加工にも対応する

宇宙時代到来─大転換期に新しい挑戦に挑む

今やOSGの領域は大気圏を越えた。2015年、宇宙ゴミ(デブリ)除去の事業化を目指すベンチャー企業「アストロスケール」のスポンサーとなり、2017年に同社へ出資した。人工衛星の部品加工にも携わり始めたのだ。自社名を付けた衛星「IDEA OSG 1」をきっかけに、宇宙関連企業との取引も始まっている。今後10年に打ち上げられる衛星の数は約1万5千と予測され、一大産業になることは確実だ。しかし、関わっていないと、宇宙関連の情報はなかなかキャッチしづらい。そこに早期に入り込んでいくことに勝機があると大沢は踏んでいる。

「今は大転換期の真っ只中。伸びる産業があれば、衰退する産業もある。このパラダイムシフトを無視せず、しっかり対応して、我々のビジネスモデルも変化させていかないといけない」(大沢)。OSGは旺盛な好奇心と貪欲なものづくりへの情熱で、最前線で未来を切り開いていくに違いない。

今回取材にご協力いただいた大沢さん

 

(取材・文 横田 直子)


オーエスジー株式会社

本社所在地 愛知県豊川市

https://www.osg.co.jp/

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