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2018/6 Vol.121

【表紙の絵】
「くもをすいこんでたべものにかえるきかい」
井岡 武志 くん(当時6歳)
うえのえんとつからくもをすいこんで、きかいのなかでたべものや、おさら、スプーンにかえるきかいです。
できたたべものはベルトコンベアーではこばれて、おきゃくさんのどうぶつたちが、たのしみにならんでまってます。

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機械屋の数学

第5回 演算子の固有値問題とフーリエ級数展開 Part 2

4. 波動方程式の初期値・境界値問題(続き)

今回は前回の続きとして,実際に波動方程式の解が時間とともにどのように変化していくかを見ていこう。具体的な例として,前回も取り挙げた図9(a)に示すような三角形の初期変位(初期速度は0)を持つ場合を考える。前回求めた波動方程式の解を用いると次式のように変形できる。

\[
\begin{split}
&{} u(x,t) = \sum_{n=1}^\infty \frac{8h}{n^2 \pi^2} \sin \frac{n\pi}{2} \cos \frac{n\pi ct}{L} \sin \frac{n\pi x}{L} \\
&{} = \frac{1}{2} \sum_{n=1}^\infty \frac{8h}{n^2 \pi^2} \sin \frac{n\pi}{2} \left\{ \sin \frac{n\pi (x – ct)}{L} + \sin \frac{n\pi (x + ct)}{L} \right\} \\
&{} = \frac{1}{2} \left\{ f(x – ct) + f(x + ct) \right\}
\end{split}
\]
(44)

この式は,$t = 0$のときの初期分布$u(x,0) = f(x)$が,半分ずつ二つの波へ分かれて,それぞれが$x$の正と負の方向へ速度$c$で伝わっていくことを意味する。時刻$t = 0$から,時間とともに二つの波が伝わりながら波形全体が変わっていく様子を図9(b)~(d)に示す。初期条件が単一のモード(例えば$f(x) = \sin \dfrac{\pi x}{L}$)の場合は,波がその形を保ちながら時間とともに振幅のみを変えて振動するのに対し,図9の場合には,さまざまな波の成分が合わさって初期条件の三角形の形ができており,波全体の形が時間とともに変化していくのは,波の重ね合わせの観点からも興味深い。

図9 波形の時間変化($T = 2L/c$:周期)

 

5. 対称な行列と対称な演算子

さて,ここで一度,これまで扱ってきた問題を振り返り,行列と演算子の関係を一般化してみる。本連載の第1回目では,二つの質点が三つのばねで繋がれ,ばねの両端が壁に固定された系を考えた。その後,粒子数を$N$個へと拡張し,さらに粒子数$N$を無限大にもっていった極限として,前述の波動方程式を導出し,解の振る舞いを見た。

離散的なばね・質点系の例では,質点の運動を記述する際に現れた行例が,対称行列となること,この対称行列の固有ベクトルが振動モードに対応し,異なる固有値に属する固有ベクトルが互いに直交することを説明した。そして,この固有ベクトルの直交関係は,離散系であるばね・質点の問題から,連続系の波動方程式へと移行する際に,固有関数の直交関係へと移行するのを見た。ここまでの話から,固有ベクトルの直交性を与えた対称な行列に対応する,固有関数の直交性を与える対称な演算子が存在することを期待させる。では,対称な演算子とはどのように定義できるであろうか。対称行列${\bf A}$は,その成分$A_{ij}$に関して,$A_{ij} = A_{ji}$の関係を満たす。残念ながら,対称演算子に関しては,この関係をそのまま適用することができない。これまでの議論で,行列にも演算子にも共通して適用してきた概念として,内積がある。内積に関連して行列${\bf A}$が対称な場合に関して成り立つ関係として,

\[{<} {\bf Au}, {\bf v} {>} = {<} {\bf u}, {\bf Av} {>}\] (45)

がある。この関係を,演算子に対しても適用し,演算子$A$に対して,

\[{<} A\{u(x)\}, v(x) {>} = {<} u(x), A\{v(x)\} {>}\] (46)

の関係が成り立つとき,$A$は対称な演算子としての特性を持つと考える。式(46)の関係を満たす微分演算子として,次式で与えられるSturm-Liouville(スツルム・リウビル)の演算子が有名である。

\[A \equiv \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( p(x) \frac{\rm d}{{\rm d}x} \right) – r(x)\]

区間$[a,b]$で定義されたスツルム・リウビル演算子$A$に関して,以下の式変形ができる。

\[
\begin{split}
& vA\{u\} – uA\{v\} = v \left[ \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( p \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} \right) – ru \right] – u \left[ \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( p \frac{{\rm d}v}{{\rm d}x} \right) – rv \right] \\
&{} = \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left\{ vpu’ \right\} – pu’v’ – \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left\{ upv’ \right\} + pu’v’ \\
&{} = \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left\{ p(u’v – uv’) \right\}\quad \text{(} {}’ \text{は微分を表す(例} u’ = \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} \text{))}
\end{split}
\]

したがって,式(46)に関して,次式が得られる。

\[
\begin{split}
&{} {<} A\{u(x)\}, v(x) {>} – {<} u(x), A\{v(x)\} {>} \\
&\quad {} = \int_a^b \left\{ vA\{u\} – uA\{v\} \right\} dx = \left[ p(u’v – uv’) \right]_a^b
\end{split}
\]
(47)

今,境界条件として,以下の同次境界条件を考える。

\[
\begin{split}
x = a \quad \text{で} \quad & \alpha u'(a) + (1 – \alpha)u(a) = 0 \\
& \alpha v'(a) + (1 – \alpha)v(a) = 0
\end{split}
\]
(48)

この境界条件は,

\[
\begin{split}
& \alpha = 0 \text{のとき} u(a) = v(a) = 0 \text{:ディレクレ条件} \\
& \alpha = 1 \text{のとき} u'(a) = v'(a) = 0 \text{:ノイマン条件}
\end{split}
\]

に対応し,$\alpha$がそれ以外のときには,境界での値と微分値の両方が混ぜ合わさった形で境界条件が与えられるロビン条件となる。

さて,式(48)を書き換えると,次式を得る。

\[\begin{bmatrix}
u'(a) & u(a) \\
v'(a) & v(a)
\end{bmatrix} \begin{pmatrix}
\alpha \\
1 – \alpha
\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}
0 \\
0
\end{pmatrix}\]

したがって,

\[\det \begin{bmatrix}
u'(a) & u(a) \\
v'(a) & v(a)
\end{bmatrix} = u'(a)v(a) – u(a)v'(a) = 0\]
(49)

となる。境界$x = b$に関しても同様にして,

\[u'(b)v(b) – u(b)v'(b) = 0\] (50)

を得る。以上,式(49),(50)の関係を用いると,式(47)の右辺は,$[p(u’v – uv’)]_a^b = 0$。

すなわち,対称な演算子に関する関係,

\[{<} A\{u(x)\}, v(x) {>} = {<} u(x), A\{v(x)\} {>}\] (51)

を満たすのを確認できる。

この微分演算子に関して,次の固有値問題を考える。

\[A\{u_i\} = \lambda_i u_i, \qquad A\{u_j\} = \lambda_j u_j\] (52)

ここで,$\lambda_i$,$\lambda_j$が固有値で,$u_i$,$u_j$はそれぞれの固有値に対する固有関数である。このとき,式(51)で,$u = u_i$,$v = u_j$とおくと,

\[{<} A\{u_i\}, u_j {>} – {<} u_i, A\{u_j\} {>} = (\lambda_i – \lambda_j) {<} u_i, u_j {>}\] (53)

となる。したがって,$A$が対称な演算子ならば,

\[(\lambda_i – \lambda_j) {<} u_i(x), u_j(x) {>} = 0\] (54)

異なる固有値$\lambda_i \ne \lambda_j$に対して,${<} u_i(x), u_j(x) {>} = 0$

すなわち,固有関数の直交性が満たされることになる。

スツルム・リウビル演算子に関する固有値問題では,実際には,内積の定義を拡張して,重み関数$w(x)$も含めた形で,次式が用いられる。

\[A\{u(x)\} = -\lambda w(x) u(x)\] (55)

すなわち,

\[\frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( p(x) \frac{{\rm d}u(x)}{{\rm d}x} \right) – r(x) u(x) + \lambda w(x) u(x) = 0\] (56)

この式は,スツルム・リウビル型微分方程式と呼ばれる。そして,この方程式の固有関数は,重み関数も含めた形で内積が定義され,以下の直交関係を満たす。

\[\langle u_i(x), u_j(x) \rangle = \int_a^b w(x) u_i(x) u_j(x)dx = 0\] (57)

以下で,具体的な例として,$p(x)$,$r(x)$,$w(x)$および区間を与えて,説明する。

【例1】:$p(x) = 1$,$r(x) = 0$,$w(x) = 1$のとき,

\[A\{u(x)\} = \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} \right) = -\lambda u\]

有限な区間$[0,L]$において同次境界条件を与えて解くと,

\[\text{固有値:}\lambda = \left( \frac{n\pi}{L} \right)^2\]

固有関数として,三角関数

\[u_{{\rm s}\ n} = \sin \frac{n\pi x}{L}, \qquad u_{{\rm c}\ n} = \cos \frac{n\pi x}{L}\]

を得る。

【例2】$p(x) = 1 – x^2$,$r(x) = 0$,$w(x) = 1$のとき,

\[A\{u(x)\} = \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left\{ (1 – x^2) \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} \right\} = -\lambda u,\]

\[\therefore \quad (1 – x^2)\frac{{\rm d}^2 u}{{\rm d}x^2} – 2x \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} + \lambda u = 0\] (58)

区間$[-1, 1]$でこの方程式の固有値問題を解くと,$\lambda = n(n + 1)$が得られ,解として第1種および第2種のルジャンドル(Legendre)関数が得られる。内積を計算することにより異なるルジャンドル関数どうしの直交性を確認できる。式(58)に$\lambda = n(n + 1)$を代入した式はルジャンドルの微分方程式と呼ばれる。

【例3】$p(x) = x$,$r(x) = -x$,$w(x) = \dfrac{1}{x}$のとき,

\[A\{u(x)\} = \frac{\rm d}{{\rm d}x} \left( x \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} \right) + xu = -\lambda \frac{u}{x},\]

\[\therefore \quad \frac{{\rm d}^2 u}{{\rm d} x^2} + \frac{1}{x} \frac{{\rm d}u}{{\rm d}x} + \left( 1 + \frac{\lambda}{x^2} \right) u = 0\]

区間$[0,\infty)$でこの方程式の固有値問題を解くと,$\lambda = -n^2$が得られ,解としてベッセル(Bessel)関数およびノイマン(Neumann)関数が得られ,重み関数も含めた式(57)を用いた内積の計算より関数の直交性を示すことができる。式(57)に$\lambda = -n^2$を代入した式は,ベッセルの微分方程式と呼ばれ,円形膜の振動や円筒の熱伝導問題など,$(r,\theta)$座標系で記述された波動方程式や熱伝導方程式を解く際に現れる方程式である。

以上,このように見てくると,三角関数と他の特殊関数の関わりがわかりやすくなる。上記以外にも,チェビシェフ多項式,ゲーゲンバウアー多項式,エルミート多項式,ラゲール多項式……といった,常微分方程式を習った際に出てきたさまざまな関数について,「色々あって面倒くさく,訳がわからん」と思ったものも,直交関係を満たす三角関数の拡張ぐらいに捉えておけば理解が楽になることもあるのでは。また,そうなるとフーリエ級数展開も,必ずしも三角関数で行う必要はなく,直交関係を満たす上記の関数を用いて,それぞれの問題にあった固有関数で解析対象を級数展開するという考えもわかってくる。


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授

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