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2018/6 Vol.121

【表紙の絵】
「くもをすいこんでたべものにかえるきかい」
井岡 武志 くん(当時6歳)
うえのえんとつからくもをすいこんで、きかいのなかでたべものや、おさら、スプーンにかえるきかいです。
できたたべものはベルトコンベアーではこばれて、おきゃくさんのどうぶつたちが、たのしみにならんでまってます。

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ほっとカンパニー

日本ピラー工業(株) 継ぎ手で世界を繋ぐ総合シーリングメーカー

日本にはこんなすごい会社がある

石油プラントやLNGタンクから半導体製造のクリーン環境まで、あらゆる製造現場で“漏れを止める”製品を提供しているのが、日本ピラー工業だ。

同社は1924年、初代社長・岩波嘉重が船舶用レシプロエンジンのシリンダーグランド用として、合金製ピラーパッキンを考案、製造したことに端を発する。日本で初めて「パッキン」のパテントを取得したのも同社である。その後、自動車用エンジンガスケットの製造も進め、1938年にはトヨタ第1号トラックにエンジンヘッドガスケットが採用された。

1950年代に入ると、日本国内の石油製品製造の進展に足並みを合わせる形で、日本初のメカニカルシールを開発し、アメリカ石油協会が定めるAPI規格に適合することでエチレンプラントに採用され、普及した。中国のエチレンプラント台頭期においても、ほとんどの工場で同社のメカニカルシールが採用されたという。

同社は現在、メカニカルシール、グランドパッキン・ガスケット、フッ素樹脂製流体制御製品の三つを主力事業としている。特にフッ素樹脂事業においては、半導体工場のクリーンルームで用いられる「スーパー300タイプピラーフィッティング」が世界標準になっているほどである。溶融タイプの樹脂であるフッ素樹脂PFAを射出成形し、400℃以上で成形し製造するため、高温や紫外線、摩耗、薬品に対する耐食性が非常に強く、この特性が高シェアにつながっている。

また、これまで培ってきたフッ素樹脂コーティング技術を応用して、高周波対応フッ素樹脂基盤も製造し、携帯通信基地局や自動車用レーダーアンテナに採用され、さらなる飛躍も視野に入れている。

スーパー300タイプピラーフィッティングとポンプ・バルブ

 

社名の由来ともなった「ピラーパッキンNo.1」。

1924年に創業者・岩波嘉重が「船の安全航行」を願い、試行錯誤を重ねて開発した国産第一号の船舶用パッキン。

 

メカニカルシールで培った材料技術と材料評価

同社では、顧客ニーズに合わせて、高負荷から低条件まで、プラントのポンプや攪拌機で用いられるあらゆる条件のメカニカルシールを手がけている。食品や医薬品関連、石油、電力、海水淡水化など、流体を使用する、ありとあらゆる産業分野が同社のフィールドだ。さまざまな流体に対し、メカニカルシールをカスタマイズして設計する。この材料の組み合わせとその評価測定が、同社のノウハウだ。

メカニカルシールは、固定部で漏れを止め、回転部と固定部が摺動する構造であり、材料の組み合わせによって、漏れと摩耗のそれぞれの特性が変わるという。最も難しい技術は、摺動面の潤滑膜をコントロールすることだと、同社執行役員の大宮潤治は語る。「計算ではなかなか正解が出ない部分だからこそ、我々の経験や実験の蓄積データが生きてくる。我々が生き残っているのは、数値で表せない摺動面の状況を、お客様と一緒に実践において開発してきたことが非常に大きな強みです」(大宮)。

特に、発電所や原子力など、国のインフラを支える現場を請け負ってきたことが、データに厚みをもたらした。同社では、高硬度で耐熱性、耐摩耗性に優れるSiC(シリコンカーバイド)を自社製造することで、品質に強みを持っている。同社のSiCは大型放射光施設「SPring-8」の鏡面にも用いられている。

近年では、ユーザー側がより安全性や信頼性を求めるため、シングル構造よりもダブル構造またはタンデム構造のニーズが高い傾向にある。また、以前は1年程度であったメンテナンスの周期が、最近では3〜4年に変わってきており、さらに耐久性が求められるようになってきているという。

メカニカルシールの構造

 

回転形メカニカルシール

 

ピラーフォイルパッキンシリーズ

 

マイナス200℃環境でLNGの漏れを止めるパッキン

長年、非金属ガスケットにはアスベストが用いられていたが、2007年に法令により製造が全面禁止となり、膨張黒鉛(グラファイト)が用いられるようになった。しかし、膨張黒鉛は鉛筆の芯のように剥がれやすく、容易に紐状に加工することができなかった。同社は膨張黒鉛を金属の細いネットを用いて編み込んで紐状にする技術で特許を取得し、紐状パッキンとして製品化することに成功した。紐状の製品にすることで、工場で金型を用いて形成する必要がないため、実際の現場でパッキンを切るだけで、使用することができる。

マイナス200℃近い温度下で使われるLN2やLNGの現場では、シール材は使えない。現在は、ほとんどのLNGタンカーや発電所でこの「ピラーフォイルパッキン・ガスケット」が使われ、世界的に成功を収めているという。「これを使わないと、今、世界の排出ガス規制や環境規制に対応できないと思います」(大宮)。

最強の“縁の下の力持ち”として次の100年へ

同社では年々、売上の中でメカニカルシールやパッキンなどの占める割合が減り、一方、半導主市場向けのフッ素樹脂製流体制御製品は生産が追いつかないほどの勢いだという。この傾向は今後も続きそうだ。

日本国内で工場数が減少傾向にあること、中国やインド産の安価なメカニカルシールが広がりつつあること、さらにポンプなどの進化により“シールレス”製品も増えていることもその流れに拍車をかけている。しかし、需要は少なくなってきているとはいえ、開発途上国ではまだまだ求められている製品である。中東の産油国やアフリカなどの水資源が不足している地域では、水を用いず、ガスを用いた非接触形も求められている。「海外で競争力を付けるためには、他国の企業が手掛けない手厚いアフターサービスを展開していきたいと考えています。性能をはじめ、付加価値にウェイトを置いていきたいですね」(大宮)。

同社で扱っている製品は、「納入先の現場の人すら、メンテナンスしないと気づかないほど」ニッチな分野だ。しかし、これがないと機械は動かない縁の下の力持ちだ、と大宮は胸を張る。その“力持ち”を支えるコアが材料技術力である。「材料から吟味して製品ができるまで、工場で一貫生産することにプライドがあります。そこが当社で働く面白さや醍醐味でもあると感じています」(技術部 和田正人)。

創業100年を目前に、社内では“次の100年も続く企業に”という意識が盛り上がってきているという。さらなる材料開発、さらなる海外進出、さらなる事業拡大に向けて、同社が歩みを止めることはないだろう。

取材にご協力いただいた、大宮さん(左)と和田さん(右)

(取材・文 横田 直子)


日本ピラー工業株式会社

所在地 大阪府大阪市

http://www.pillar.co.jp/

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