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2018/4 Vol.121

【表紙の絵】
「あいするこころロボット!!」
齋藤 佑陽 くん(当時5 歳)
人間ができないことが何でもできる
ロボットがあったらいいな。

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ほっとカンパニー

THK(株) あらゆる業界の直線運動を担う世界トップ企業

日本にはこんなすごい会社がある

THKの創立は1971年。翌年に「LMガイド(リニア・モーション・ガイド)」を開発し、世界で初めて機械の「直線運動部」の「ころがり化」を実現した。

機械の「回転運動部」は約110年前の回転用ベアリングの開発により飛躍的な進歩を遂げた。一方で、「直線運動部」のころがり化は困難とされていた。それを世界で初めて実用化したのがTHKだった。ボールスプライン構造をベースに、荷重により軸がたわまないようレールと一体化することで精度を高めることに成功した。

以降、THKはLMガイドを中心に、工作機械や半導体製造装置等の産業機器に不可欠な機械要素部品を世に送り出してきた。現在も、LMガイドでは国内約7割、海外約5割のシェアを占める。1981年のアメリカから始まったグローバル展開も、年々拡大し、日本、欧州、米国、アジアの4極での製造・販売体制を構築。海外の営業拠点は75カ所、生産拠点は23カ所にのぼる。

ボールスプライン構造

 

LMガイド

革新を続け、ものづくりの現場に寄与するLMガイド

現在もTHKのコアを成すLMガイドは、主にLMレールとLMブロックと転動体の3部品で構成され、ブロックがレール上を転動体を介してスライドすることで直線運動を案内するのが大まかな仕組みだ。その特長は、許容荷重が大きく高剛性であること、取付面の誤差を吸収する精度平均化効果、低い摩擦係数などにある。これらによって、生産現場では、装置の生産性の向上や大きな省エネルギー効果、コストカット、機械の高精度化など、大きなメリットが得られるのだ。

1972年の誕生以来、LMガイドは何度も大きな技術革新を重ねてきた。1981年には「HSR」を開発。四条のボールが、縦横四方向に対して同一定格荷重になるよう各ボール列が接触角45°で配置され、どこから荷重を受けても等剛性を叶えたもので、これが現在、世界標準サイズのLMガイドとなっている。

また、1996年には、従来の製品より飛躍的に性能を向上させたボールリテーナ入りLMガイド「SSR」を開発。リテーナ付きのボールベアリングを使用することでボール同士の相互摩擦がなくなり、長寿命、低騒音、高速性などを獲得した。

各ボール列が接触角45°で配置されている

 

そして2010年には、「SPR/SPS」を開発。これは、八条の転動溝と小径ボール、超ロングブロックを採用した全く新しいボールリテーナ入りLMガイドである。ボール数が大幅に増加するとともに、転動体の出入りによる振幅は最小限に抑制され、超低ウェービングを実現。また、ボールの変形量をミクロン以下に極小化することで、ローラーガイドをしのぐ超々高剛性をも実現。LMガイドの中でも特に精度を重視して開発した製品で、主に金型加工の機械や三次元測定機などで使われているという。

SSR形の構造

ボールリテーナ入りLMガイドのLMブロック内循環構造

 

「LMガイドに限ったことではありませんが、少しでも生産現場の正確性や効率化に寄与するのが、機械要素部品メーカーとしての我々の使命。剛性と高速性をさらに高めることは永遠の課題です」と飯田(技術開発統括部長)が語ると、「自分たちが今までやってきたことをさらに伸ばす、自分たちを超える製品作りを常に目指しています」と西出(技術開発第三部 部長)が言葉を添えた。

ボールリテーナ入りLMガイド SPR/SPS形

世の中のあらゆる直線運動をLMガイド化

現在、LMガイドは工作機械、産業用ロボットや半導体装置、液晶製造ラインのほか、鉄道車両、福祉車両、医療用機器、高層ビル、住宅、アミューズメント機器など、活躍のフィールドを拡大し続けている。身近なところでは、ゲームセンターに置かれたクレーンゲーム機のアーム部分や鉄道駅のホームドア、福祉車両用の電動昇降シートなども同社の部品が採用されている。「世の中にある、ありとあらゆる真っ直ぐ動く箇所にあると思いますよ」(西出)。とはいえ、歴史の長い回転ベアリングに比較すると、市場規模は20分の1程度。まだまだ成長ポテンシャルは十分に高い。

その一方で、特許が切れれば類似商品が世の中に出てくる。「ある側面では、類似商品によってLMガイドの市場もグローバルに拡大するとも言えますが、進んだ先で価格競争に陥ってしまうのは免れたい。そのために、パーツだけではなくモジュールとセットで提案したり、ニューフィールドに挑戦していかなくてはいけないと考えています」(飯田)

LMガイドとボールねじを複合化させた免震・制震装置やロボットハンド、アクチュエーターなどは、自社の強みを活かして新領域を開拓した好例だ。今後はAIやIoT、クラウド、ロボットなどを活用することで、まだまだ同社の強みを活かせることはたくさんあると捉えている。再生エネルギーも、今後さらに力を入れていきたい分野だという。

「回転運動部」にも独自のノウハウを活かした製品を展開

従来、工作機械の旋回テーブルや産業用ロボットの関節部には、一条の軌道溝に円筒ころを交互に直行配列させた軸受(クロスローラーリング)が用いられてきたが、工作機械の性能向上に対応して、コンパクトでより高い剛性を有する「複列アンギュラローラーリング:RW形」を開発した(2013年度日本機械学会優秀製品賞受賞)。小径の円筒ころを2列に背面組み合わせで配置することで、従来の同一サイズのクロスローラーリングRU形に比べ、転動体数が約4倍に増加し、約2倍の剛性を有する製品である。コンパクト・高剛性・低トルクと優れた特性により、工作機械の旋回テーブル用として数多く使用され、その性能向上に寄与している。

複列アンギュラローラーリング RW

未来を開くスピーディな決定と積極的な投資の姿勢

最後に2人に同社の誇る点を聞いた。「お客様としてお付き合いする業界も多岐にわたり、国もさまざま。普段は聞けないようないろいろな話を聞けるのも面白いし、そこから自分が成長できる環境です。新しいフィールドに挑戦する時も、トップの決断が早く、スピーディに動けるのも当社の特徴でしょうね」(飯田)。「会社としては、他社が真似できない技術を持つことが一番。そのための投資には、力を入れてくれます。自分自身のスキルアップのための教育を受けさせてくれる点、また開発のために必要な機器を揃えてくれる点には大いに感謝しています」(西出)

機械要素部品を通じて、あらゆる産業の発展を支えてきた同社は、いわば「縁の下の力持ち」的存在ともいえるだろう。今後も確固たる技術力・開発力で、世の中に新しい風を吹き込むことを期待したい。

(取材・文 横田 直子)

取材に協力いただいた西出さん(左)と飯田さん(右)


THK株式会社

所在地 東京都港区

http://www.thk.com/

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