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2018/3 Vol.121

【表紙の絵】
特しゅなラップでオゾンそうを守るきかい「地球守るくん」
澤田 明伸 くん(当時9歳)
今、地球の「オゾンそう」がはかいされてきています。うちゅうでもたえられるかこうがしてある特しゅなラップで地球をおおいます。その特しゅなラップは、太陽風やいん石やうちゅうゴミが地球に落ちてくるのをふせいでくれています。それに、「地球守るくん」の本体は木でできていて、本体を作るときにあまり二さん化炭そを出しません。あと、顔の表じょうを変えられるので面白いです。地球のオゾンそうがはかいされなければいいと思います。

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機械屋の数学

第3回 ばね・質点系の連成振動から波動方程式へ 行列の固有値問題から演算子の固有値問題へ Part 3

3. ばね・質点の離散系から連続系へ

前号では,$N$個の質点の連成振動のときには,$N$個の固有値と固有ベクトルが存在し,異なる振動モードを表す固有ベクトルは互いに直交するのを見た。今回は,この問題で,壁の位置を固定したまま,質点数$N$が無限大となる極限を考えてみる。

まず,前号で扱った質点が$N$個の場合の問題に関して,図5に示すように$\Delta x \equiv L/(N+1)$を用いて,質点の変位を以下のように位置と時間の関数として与える。

\[ \begin{split}
& u_1(t) = u(\Delta x, t),\ u_2(t) = u(2\Delta x, t),\ \cdots \\
& u_{j-1}(t) = u((j – 1)\Delta x, t),\ u_j(t) = u(j\Delta x, t) \\
& u_{j+1}(t) = u((j + 1)\Delta x, t),\ \cdots,\ u_N(t) = u(N\Delta x, t)
\end{split} \]
(1)

図5 質点の変位$u(x,t)$

ここで,$N$が無限個となる場合には,$\Delta x \to 0$となる極限を考えることになる。ここでは,変位$u(x,t)$は,連続分布しているとし,$u((j + 1)\Delta x, t)$および$u((j – 1)\Delta x, t)$を,$u(j\Delta x, t)$の近傍で空間方向にテーラー展開することを考える。すなわち,

\[u(x + \Delta x, t) = u(x, t) + \frac{\partial u}{\partial x}\Delta x + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(\Delta x)^2 + \frac{1}{3!}\frac{\partial^3 u}{\partial x^3}(\Delta x)^3 + \cdots \]

の関係を用いて,前号で導出した質点の運動方程式

\[\frac{{\rm d}^2 u_j}{{\rm d} t^2} = \omega_0^2 (u_{j-1} – 2u_j + u_{j+1})\] (2)

において,時間微分項を偏微分に書き換え,さらに空間方向に関しては,テーラー展開を用いて式を変形すると,

\begin{align*}
\frac{\partial^2 u_j}{\partial t^2} &{} = \omega_0^2 \left\{ u_{j+1} – 2u_j + u_{j-1} \right\} \\
&{} = \omega_0^2 \left\{ u((j + 1)\Delta x, t) – 2u(j\Delta x, t) + u((j – 1)\Delta x, t) \right\} \\
&{} = \omega_0^2 \Biggl\{ \left( u(j\Delta x, t) + \frac{\partial u}{\partial x}\Delta x + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(\Delta x)^2 + \frac{1}{3!}\frac{\partial^3 u}{\partial x^3}(\Delta x)^3 \cdots \right) \\
&\quad – 2u(j\Delta x, t) \\
&\quad + \left( u(j\Delta x, t) – \frac{\partial u}{\partial x}\Delta x + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(\Delta x)^2 – \frac{1}{3!}\frac{\partial^3 u}{\partial x^3}(\Delta x)^3 \cdots \right) \Biggr\} \\
&{} = \omega_0^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(\Delta x)^2 + \frac{2}{4!}\omega_0^2\frac{\partial^4 u}{\partial x^4}(\Delta x)^4 + \cdots
\end{align*}
(3)

となる。この式で,$\Delta x \to 0$の極限をとると,右辺2項目の$(\Delta x)^4$の項以降の項は,高次の項として無視できるので,次式を得る。

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = \omega_0^2(\Delta x)^2\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\] (4)

ここで,$c \equiv \omega_0 \Delta x$とおくと,式(4)は,次式となる。

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\] (5)

後ほど説明していくが,これは,速度$c$で伝播する波の運動を記述する方程式であり,1次元波動方程式と呼ばれる。

さて,この式を,前号で説明した$N$個の粒子の場合に用いた手法にならって,固有値問題として解くことを考える。$N$個の粒子の場合には,運動方程式は次式のように記述された。

\[\frac{{\rm d}^2 {\bf u}}{{\rm d} t^2} = \omega_0^2{\bf Au}\] (6)

境界条件は,両端で変位が0より,$u_0(t) = 0$,$u_{N + 1}(t) = 0$と与え,この問題を行列${\bf A}$に対する固有値問題として解いた。繰り返しになるが,この問題を固有値問題として解くとうまく解けるのは,${\bf A}{\bf v}_j = \lambda_j{\bf v}_j$となる固有ベクトル${\bf v}_j$を用いることにより,上式(6)の両辺を${\bf v}_j$方向に分解することができるようになるためである。この考え方をそのまま,式(5)に適用してみる。

式(5)では,離散的に存在していた質点を連続分布するとして記述し,離散的な系で記述されていた$N$個の粒子の変位ベクトル${\bf u} = (u_1(t), u_2(t), \cdots, u_j(t), \cdots, u_N(t))^{\rm T}$を,連続分布する変位$u(x, t)$に置き換えた。また,これに伴い,右辺の$\omega_0^2{\bf Au}$は,$c^2\dfrac{\partial^2 u}{\partial x^2}$へと変化した。すなわち,行列${\bf A}$は,演算子$\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}$へと変化した。このことを考慮し,

\[c^2\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \equiv c^2 A\{u\}\] (7)

とおき,演算子$A \equiv \dfrac{\partial^2}{\partial x^2}$に対する固有値問題を考える。すなわち,

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 A\{u\}\qquad \text{(ここで,}A \equiv \frac{\partial^2}{\partial x^2} \text{)}\] (8)

を境界条件$u(0,t) = 0$,$u(L,t) = 0$のもとで,微分演算子$A$に対する固有値問題として解く。式(7)より,微分演算子$A$に対する固有値問題は,固有値を$\lambda_j$,行列のときの固有ベクトル${\bf v}_j$に対応する関数を$v_j(x)$とすると,次式で与えられる。

\[A\{v_j\} = \lambda_j v_j\] (9)

$A \equiv \dfrac{\partial^2}{\partial x^2}$より,

\[\frac{\partial^2 v_j}{\partial x^2} = \lambda_j v_j\] (10)

この式を境界条件

\[v_j(0) = 0, \quad v_j(L) = 0\] (11)

のもとで解くと,$v_j(0) = 0$より,$\alpha_j$を定数として,

\[v_j(x) = \alpha_j \sin \left( \sqrt{-\lambda_j} x \right)\] (12)

さらに,$v_j(L) = 0$より,次の関係を得る。

\[\sqrt{-\lambda_j} L = j\pi\]

すなわち,固有値$\lambda_j$として,

\[\lambda_j = -\frac{j^2 \pi^2}{L^2}\qquad (j = 1,2,…………..,\infty)\] (13)

を得る。ここで,注目すべき点は,$j$の上限がないことである。有限個の粒子の場合には,粒子数の数だけ連立方程式が存在し,さらに固有値,固有ベクトルも,その数だけ存在した。すなわち,有限個であった。これに対して,$N \to \infty$の極限により表れた微分演算子$A \equiv \dfrac{\partial^2}{\partial x^2}$に対しては,固有値が離散的ではあるが,無限個現れることを示している。

さて,式(13)を式(12)に代入すると,$v_j$として次式を得る。

\[v_j(x) = \alpha_j \sin \frac{j\pi x}{L}\] (14)

この$v_j$は,$N$個の離散的な粒子の場合の行列${\bf A}$の固有ベクトル${\bf v}_j$に対応しており,固有関数と呼ばれる。固有ベクトル${\bf v}_j$に対しては,前号で説明した通り,行列${\bf A}$が対称行列となる性質により,相異なる固有値に属する固有ベクトルは互いに直交するのを示したが,微分演算子$A$に属する異なる固有関数はどのようになっているであろうか。

異なる固有関数の直交関係を調べるため,関数が定義されている区間$0 \le x \le L$において,2つの異なる固有関数

\[v_n(x) = \alpha_n \sin \frac{n\pi x}{L}, \quad v_m(x) = \alpha_m \sin \frac{m\pi x}{L} \quad (n \ne m)\]

の内積を調べる。

\[\begin{split}
& {<} v_n, v_m {>} = \int_0^L v_n v_m dx = \int_0^L \alpha_n \sin \frac{n\pi x}{L} \cdot \alpha_m \sin \frac{m\pi x}{L}dx \\
& = \alpha_n \alpha_m \int_0^L \frac{1}{2} \left\{ \cos \frac{(n – m)\pi x}{L} – \cos \frac{(n + m)\pi x}{L} \right\} dx \\
& = \frac{1}{2} \alpha_n \alpha_m \left[ \frac{L}{(n – m)\pi} \sin \frac{(n – m)\pi x}{L} – \frac{L}{(n + m)\pi} \sin \frac{(n + m)\pi x}{L} \right]_0^L\\
& = 0 \\
& (\because n-m,\ n+m \text{は0でない整数で,} \sin (n\pm m) \pi = 0)
\end{split}\]

すなわち,異なる固有関数の内積が0になっており,二つの固有関数は,直交しているのがわかる。このように,離散的に記述されたばね・質点系の自然な拡張として,連続系で記述される波動方程式があり,離散系で成立した固有ベクトル(振動モード)の直交性が,連続系での固有関数の直交性へと繋がっている。固有ベクトルを大きさ1に規格化したときと同じように,固有関数$v_j$の正規化を行うことができる。

\[\begin{split}
{<}v_j, v_j{>} &{} = {\alpha_j}^2 \int_0^L \sin^2 \frac{j\pi x}{L} dx \\
&{} = {\alpha_j}^2 \int_0^L \frac{1}{2} \left( 1 – \cos \frac{2j\pi x}{L} \right) dx = {\alpha_j}^2 \frac{L}{2}
\end{split}\]

すなわち,${<} v_j, v_j {>} = 1$とするには,$\alpha_j = \sqrt{\dfrac{2}{L}}$とすれば良い。

この様にして得られた正規直交基底

\[v_j(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin \frac{j\pi x}{L}\] (15)

を用いて,波動方程式の解$u(x, t)$を

\[u(x, t) = \sum_{j=1}^\infty a_j(t) v_j(x)\] (16)

と分解することができる。これは,$N$個の質点のときに${\bf u} = {\displaystyle \sum_{j = 1}^N a_j(t) {\bf v}_j}$と解を表したものを,連続系に拡張した表現になっている。図6に前回示した質点が31個のときの31番目の振動モードと,今回求めた固有関数の$j=31$の場合の比較を載せる。●で離散的に示されている点が${\bf v}_j$の成分であるが,固有関数$v_j(x)$上に●が乗っているのがわかる。式(16)のように解を表せることが,本特集の最初に説明した,この問題が変数分離法でうまく解けているからくりである。

図6 ばね・質点系の固有ベクトル(黒丸,$N=31$,$j=31$)と1次元波動方程式の固有関数(実線,$L=32$,$j=31$)の関係

実際に,式(16)を式(5)に代入し計算すると,$\dfrac{\partial^2 u}{\partial t^2} = {\displaystyle \sum_{j=1}^\infty \ddot{a}_j(t) v_j(x)}$,$c^2 \dfrac{\partial^2 u}{\partial x^2} = c^2 \displaystyle \sum_{j=1}^\infty \lambda_j a_j(t) v_j(x)$より,

\[\sum_{j=1}^\infty \ddot{a}_j(t) v_j(x) = c^2 \sum_{j=1}^\infty \lambda_j a_j(t) v_j(x)\]

$v_j(x)$が正規直交基底の関係を満たすことより,

\[\ddot{a}_j(t) = c^2 \lambda_j a_j(t)\]

すなわち,

\[\begin{split}
a_j(t) &{} = \left( \beta_j \cos \sqrt{-\lambda_j} ct + \gamma_j \sin \sqrt{-\lambda_j} ct \right) \\
&{} = \left( \beta_j \cos \frac{j\pi c t}{L} + \gamma_j \sin \frac{j\pi ct}{L} \right)
\end{split}\]

となり,

\[\begin{split}
u(x, t) &{} = \sum_{j=1}^\infty a_j(t) v_j(x) \\
&{} = \sum_{j=1}^\infty \left( \beta_j \cos \frac{j\pi ct}{L} + \gamma_j \sin \frac{j\pi ct}{L} \right) \sqrt{\frac{2}{L}} \sin \frac{j\pi x}{L}
\end{split}\]

と解が与えられる。ここで,$\beta_j$,$\gamma_j$は初期条件から決定される定数である。解が変数分離された形で,時間方向の振動と空間方向の波として記述できているのを確認できる。


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授


 

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