特集 注目の新規金属材料「高エントロピー合金」
CrMnFeCoNi 高エントロピー合金の単結晶弾性率
図1 結合形態の違いと原子間ポテンシャル依存性
図2 超音波共鳴法の測定系の模式図
単結晶弾性率が示すもの
弾性はどこから来るのか
一般に弾性率と言うと、工学的なヤング率、剛性率、ポアソン比といったいわゆる多結晶弾性率を示すことが多い。これらの値は材料力学をもとにした機器設計に欠かせない数値であることは言うまでもない。一方、結晶の力学特性という観点からは、多結晶弾性率は結晶方位に関する平均操作が入っているために結晶の持つ弾性異方性に関する情報が欠落している。本稿で取り扱うCrMnFeCoNi高エントロピー合金の結晶構造はfcc構造であり立方晶であるため、独立な弾性率の数は3個であり、多結晶弾性率の2個と比較して独立な弾性率の数はわずかに1個多いだけである。しかしながらその1個が弾性異方性を表し、それによって結晶の安定性など多結晶弾性率では見えてこない力学的性質も見えてくるようになる。
そもそも結晶の弾性は、結晶を構成する原子が外力によって安定位置から変位することでポテンシャルエネルギーが上昇することで生じる。結晶を構成する原子の安定位置や応力下での原子の移動位置は原子間ポテンシャルによって決定されることから、もし原子間ポテンシャルが正しく表されるならば、そのポテンシャルにより弾性率はもとより結晶の力学的性質はすべて計算することができる。しかしながら、さまざまな条件下で第一原理計算によらない方法で原子の安定位置を表現できるような原子間ポテンシャルは存在せず、特定の条件下で有効な原子間ポテンシャルとして、いくつもの近似が導入された近似的な原子間ポテンシャルが分子動力学シミュレーションなどに活用されている。
最も簡単な原子間ポテンシャルはポテンシャルエネルギーが原子間距離のみの関数で表されるもので、中心力近似と呼ばれる。このような原子間ポテンシャルを用いた場合、立方晶の三つの独立な弾性スティフネス定数C11、C12、C44のうちC12とC44の値が等しくなるCauchyの関係が関数形によらず成り立つことが知られている。しかしながら実際の結晶ではイオン性の非常に強いイオン結晶以外ではCauchyの関係が成り立つことは稀であるので、この形の原子間ポテンシャルが用いられることはほとんどない。このCauchyの関係の制限から逃れるために、図1に示すように金属結合で特徴的な結晶中に拡がる電子ガスの効果を取り入れたり、共有結合に特徴的な隣接する原子間の結合角依存性を取り入れた原子間ポテンシャルが用いられる。電子ガスの効果を取り入れることでC12 > C44である弾性率を再現することが可能となり、原子間の結合角依存性を取り入れることでC12 < C44である弾性率を再現することが可能となる。
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【表紙の絵】
特しゅなラップでオゾンそうを守るきかい「地球守るくん」
澤田 明伸 くん(当時9歳)
今、地球の「オゾンそう」がはかいされてきています。うちゅうでもたえられるかこうがしてある特しゅなラップで地球をおおいます。その特しゅなラップは、太陽風やいん石やうちゅうゴミが地球に落ちてくるのをふせいでくれています。それに、「地球守るくん」の本体は木でできていて、本体を作るときにあまり二さん化炭そを出しません。あと、顔の表じょうを変えられるので面白いです。地球のオゾンそうがはかいされなければいいと思います。