特集 実用化迫る自動運転 産官学の視点から
自動運転とモビリティ社会
はじめに
歴史的経緯と現状認識
カール・ベンツが内燃機関自動車に関わる特許を獲得して自動車を造り始めた1886年頃から、本格的普及の端緒となったフォードT型が売り出される1908年頃まで、20余年を要している。さらに、「自律的に動くクルマ=Automobile」と名付けられたように、当初は、それまで馬の気まぐれにしばしば振り回され、糞尿公害に悩まされていたであろう西欧社会を救う救世主ともてはやされたはずが、やがて道路上に交通事故、交通渋滞、大気環境や振動・騒音公害の元となり、新たな社会問題を生んだことで、道路設計や交通制御の技術開発が本格化した1930年代は、さらに20年以上後のことである。第二次世界大戦後には、急速な自動車大衆化とともに、都市開発の空間スケールを飛躍的に拡大させ、都市のスプロール化、都心の空洞化を生むなど、都市計画・交通計画に大きなインパクトを与えた。
翻って今、巷では自動運転(automated driving)社会の到来は間近なように喧伝され、複数の自動車メーカーがすでに自動運転車の販売を開始、もしくは販売予定を明言している。確かにICTの進化は急速に進展し、陳腐化も加速化しているから、自動車の発明と産業化に比べれば、自動運転車は急速に普及するかもしれない。しかし、自動車を前提にした現代の道路交通社会には、道路交通法などの交通ルール、車検制度や車両安全性を規定する保安基準、万一の交通事故に対する損害保険制度、自動車関連諸税や有料道路制度など多様な社会制度、システムが存在する。自動車が発明された当初も、当時のこうした既存の社会制度、ルールが規制となり、必ずしも自動車社会が順調に普及したわけではなく、さまざまな議論を呼び、社会的な衝突を生みながら、徐々に社会の中で受容されていったようである。
本稿では、自動運転がモビリティ社会に与える影響、自動車利用者を含むさまざまなモビリティ・ユーザー、日本の基幹産業である自動車産業を含む産業界への影響と社会的受容性に関する筆者らの理解、考えを提示するとともに、これらを踏まえた筆者らの大学における研究センターの活動、取り組みなどを紹介する。
キーワード:特集
【表紙の絵】
「エコな飛行機」
佐藤 想士 くん(当時10 歳)
地球から出たよごれた空気を吸う事で空を飛び、きれいな空気に変換して排出します。緑の少ない土地には種をまきます。
皆、この飛行機が大好きです!!