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2018/2 Vol.121

【表紙の絵】
「エコな飛行機」
佐藤 想士 くん(当時10 歳)

地球から出たよごれた空気を吸う事で空を飛び、きれいな空気に変換して排出します。緑の少ない土地には種をまきます。
皆、この飛行機が大好きです!!

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巻頭言

自動運転の社会実装に向けた 政府・企業・研究機関の取り組み

須田 義大(東京大学 生産技術研究所)

自動車の自動運転は、機械工学のエンジニアであれば、とりわけ大きな関心を寄せるテーマである。自動車工学、計測・制御工学、人間工学など、機械工学の主要な分野を横断した研究開発であり、それだけでも意義は大きい。しばらく前までは、実用化を念頭に置くというよりは、研究開発中心であった。2008年から5年間実施された、NEDOによる「エネルギーITS推進事業」で取り上げられた、トラックの自動運転・隊列走行にむけた研究開発プロジェクトでは、その名称からわかるように、自動運転による安全性能向上や、省力化という視点よりも、省エネルギーに目標を置いたものであった。ところが、隊列走行プロジェクトが産総研のテストコースで車間距離4m、80km/hで大型トラック3台と小型トラック1台、合計4台の自動走行を実現させた2013年以降、自動運転に対する社会の見方ががらりと変わった。

それまでは、自動運転の定義も共通化されておらず、完全自動運転から運転支援まで、関係者の間でもさまざまな考えが存在した。自動運転が社会から注目されるようになった背景としてはもちろん、技術の目覚ましい進展がある。ビッグデータとIoTが注目され、その結果AIが進化してきたこと、そして、センサ技術も向上し、安価で高性能なシステムが実用化されるようになってきた。それにともない、社会が自動運転に大きな期待を寄せるようになった。交通安全と環境性能のより一層の向上が求められ、近年我が国が抱えている高齢社会におけるモビリティの課題を解決するツールとして自動運転が位置づけられたのである。

それにより、自動運転は、機械工学における技術対象のみならず、モビリティ社会を変革する有力な手段としての位置づけが明確になり、社会受容性の確保のためのさまざまな取り組みが、産学官民において2015年以降、急速に進んできた。

本特集では、モビリティ社会における自動運転の役割とその展望を紹介する。総論では、最近の政府や筆者らの所属する大学の研究センターにおける取り組みを通して、自動運転の研究開発に関連する現状を概観し、自動運転を受け入れる次世代のモビリティ社会実現へ向けた課題と方向性を示す。その後、Society5.0を標榜する日本政府のIT開発戦略における自動運転の実装化の方針を紹介する。自動運転には総務省、経済産業省、国土交通省など多くの官庁が関係するが、本特集では交通管理を担う警察庁から、遠隔監視の無人車両を含む、公道における自動運転の実証実験を可能とする制度の検討結果と自動運転推進の取り組みを紹介する。続いて、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)における、協調領域の開発の取り組みを紹介する。

産業界においては、自動車工業会、海外のサプライヤー、ベンチャー企業という、立場の異なる視点からの最近の取り組みを、海外動向や国際展開を含めて紹介する。大学および研究機関においては、自動運転に関する大学プロジェクトの一例と、自動運転の評価拠点である自動車研究所での取り組みを紹介する。最後に自動運転の実装化にはビジネス・エコシステムが重要であり、その最新の動向を紹介する。

以上のように、自動運転には、すでにさまざまな関係者が、異なる視点から鋭意実装化に取り組んでおり、誌面の関係で紹介ができなかったが、コネクティッドカーとしての通信技術、サイバーセキュリティといった技術的な視点、整備や車検、PLを含む民事責任や保険などの制度の検討も進んでいる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでには、世界に向けて我が国の自動運転が大規模にデモンストレーションされるだろう。技術者の一層の奮起を期待したい。読者にとって、本特集が、現時点における自動運転に関わる多様なステークホルダーの現状の理解の一助となれば幸いである。


<フェロー>

須田 義大

◎東京大学 生産技術研究所機械・生体系部門/次世代モビリティ研究センター長・教授

◎専門:車両工学、機械力学・制御工学

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