特集 新たな価値創造のために ~女性活躍と多様性の推進~
スペシャリストかつジェネラリストとして
スレンダーだけどたくましい?
“ スレンダーだけどたくましい”と聞いて何を思い出されるだろうか? 個人的には、元フィギュアスケート選手の浅田真央さんにこの言葉がよくあてはまると思う。実は、私が扱う研究対象も非常にスレンダーでたくましい。それは髪の毛より細い鉄のワイヤである。一般にピアノ線と呼ばれ、明石海峡大橋を代表とする吊り橋のケーブルや、タイヤのスチールコードなどの高強度部材の素材である。ラボスケールでは7GPa のピアノ線の作製に成功している(1)。ピアノ線はドーナツのように孔の開いた工具に通し、所望の線径に引き伸ばす伸線加工により得られる。伸線に伴い線材内部の構造(ミクロ組織)が刻々と変化し、強度が増加すると考えられている。
私の研究では、伸線時に伸線方向と逆方向に負荷する張力(後方張力)に着目している。後方張力の負荷はダイスの寿命を延ばせるが、φ 0.1 mm 程度の場合、後方張力を極力負荷しない方が伸線材の延性を向上でき、高強度化に有効であると明らかにした(2)。
これまでの成果を国内外の学会で発表する機会を多くいただき、“ 結果を理論的に誤りなく検討した上で、専門家や違う分野の人に分かり易く説明し、少しでも勉強になったと思ってもらうこと”を研究の醍醐味だと感じている。ぜひ学生の皆さんにも、卒・修論等を通して研究の面白さを実感してほしい。
私がよくされる二つの質問
学会など研究室の外で活動していると、次の二つの質問をよくされる。一つ目は「何故、機械工学科を選んだのか?」、二つ目は「何故、博士後期課程に進んだのか?」である。ここでは二つ目の問いについてお話ししたい。正直に言うと、そもそも大学院への進学も随分悩んだ。というのも、進路選択時、「大学院へ行かない方が良い」などの消極的なアドバイスが周りからあったからだ。大学院に進学しない方が良いのは何故か?その言葉に納得できず、真意を知りたくて大いに悩んだ。悩みを解決するのは自分自身でしかなく、就活・院試・インターンシップを経験したり、本会LAJ 委員会が主催するイベントに参加するなどして、自分なりに悩みを消化していった。博士後期課程の進学時も、「博士に進学すると就職できない」といった噂もあり、翻弄されてしまった。しかし、“どんなおばちゃんになっていたいか?”と考えたとき、社内・学内だけでなく学協会等で広いネットワークを形成し、そこでエンジニア、特に学生を含む若手のために活動する自分を想像した。これを実現するため、すなわちリーダーや教育者として生きていくためには博士後期課程の3年間で鍛錬するのは良いスタートであると思った。もちろん、博士後期課程でこんな研究をしたいという欲求もあった。不安もあったが、指導教授や研究室の先輩などに背中を押してもらい、博士後期課程に進学することにした。進路に悩んでいる方は、自ら行動し悩みを消化したり、おばちゃんになった自分を想像してみてはいかがだろうか? 周りの皆さんには、夢を持つ学生の背中を是非押してあげていただきたい。
ジェネラリストとしても成長したい
2017年度より、早稲田機友会(早稲田大学の機械系学科の卒業生、学生、教員の会)の一組織として、学生が主体的に活動する“ 学生部会” を発足した。学生の要望や不満を踏まえ、学生生活の質をより一層高めることを目指す。博士後期課程の学生が指揮をとり、学部・修士課程の学生と一緒に活動している。若手OB/OG を招いた講演会や、博士後期課程の学生が講師となり、4力学を復習する勉強会の企画運営などの活動成果が出ている。
一方、学外では果敢に課題に取り組む女性リーダーの育成を目標に、女子学生・女性研究者・技術者がお互いに刺激しあえる環境を作りたいと思い、日本塑性加工学会での女性会員のランチミーティングを企画し、運営に携わっている。産学官の枠組みの中でさまざまな意見があり、大きいスケールの中でどのようにまとめていくかが非常に難しいと感じている。至らぬ点も多いが、初期から立ち会える貴重な機会をいただき、大変勉強になっている。
このような学内外の活動を通して、研究にも研究とは異なる質の課題にも積極的に挑むことで、多方面から物事を考える力、相手のバックグラウンドに合わせた説明の仕方などを養いたい。博士課程学生はその専門性からスペシャリストとして見られることが多いが、ジェネラリストとしての能力も存分に発揮していきたい。
参考文献
(1)Li, Y. et al., Segregation Stabilizes Nanocrystalline Bulk Steel with Near Theoretical Strength, Phys. Rev. Lett., Vol.113 (2014) , 106104.
(2) Gondo, S. et al., Improvement of the limit of drawing a fine high-carbon steel wire by decreasing back tension, Conf. Proc. for the 85th Annual Convention of the Wire Association International (2015-4) .
<正員>
権藤 詩織
◎早稲田大学 基幹理工学研究科 機械科学専攻 博士後期課程2 年、日本学術振興会特別研究員DC1
◎専門:金属材料、材料加工
キーワード:特集
【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)
前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。