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2017/12 Vol.120

【表紙の絵】
「オゾンホール修復飛行船O3-ZES21」
久保 竜希 くん(当時10 歳)
O3-ZES21( オーゼス21:O Zone Eco Ship 21 century)この機械は飛行船にオゾン発生装置を取り付けて、上空で飛行しながらオゾンを製造し、オゾンホールをふさぎます。燃料はいりません。晴れの日は屋根のソーラーパネルで、曇りや雨の日はプロペラと、オゾン発生装置のファンが回ることで電気を作れます。出発前に地上でCO2 を取り込んで、上空でO3 に変えて、放出します。O3-ZES21 の作ったオゾンのおかげでオゾンホールがなくなり、紫外線がさえぎられて、南極の生き物が大喜びしています。

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ほっとカンパニー

(株)島精機製作所 和歌山の編み機が世界のファッションを変える

最新鋭のホールガーメント横編機「MACH2 XS」は、

4 枚ベッド機構と可動型シンカーで、高品質なニット製品を編み出す。

 

日本にはこんなすごい会社がある

キャリッジが左右に忙しくスライドする間に、目にも留まらぬ速さで編み針が動いていく。その様子に目を奪われていると、徐々にニットが姿を現してくる。シンプルなニットなら、たった30 分ほどで一着が編み上がる。今回、取材で訪問した島精機製作所のデザインルームでは、自社の製品をアピールするため、こうして月に約50 点のサンプルが作られ、世界100 カ所以上の拠点に送られているという。

冒頭の機械は「ホールガーメント横編機」。通常、ニット製品は、前身頃、後身頃、袖、襟を別に編み、それらを縫い合わせて完成する。しかし、この横編機で作られたニットは、一切縫い目なし。同社ではそのニット製品を「ホールガーメント」、それを編む機械を「ホールガーメント横編機」と呼んでいる。ニット製品の持つ可能性を革命的に進めた機械で、「ホールガーメント」はエルメスやグッチをはじめ多くのハイブランドも採用している。

同社が最初に開発を手掛けたのは、機械遺産に認定されている「全自動手袋編機」だった(1964 年)。1967 年には、世界初の全自動フルファッション襟編機で横編機の分野に進出するともに、ファッション業界に向けたものづくりへ歩み始めた。

同社の運命を大きく変える完全無縫製(ホールガーメント)型のコンピュータ横編機「SWG」を開発したのは1995年のこと。きっかけは、原点である手袋だった。「手袋の親指と小指を両袖に、真ん中の3 本を胴体に見立てたことが、ホールガーメントのアイデアの源です」と、同社総務人事部部長の今井博文。当時、ミラノで開催されたITMA 展(国際繊維機械見本市)で発表されたその機械は大きな驚きをもって迎えられ、“ 東洋のマジック” と呼ばれた。一方で、かなり高額な製品でもあった。「あるイタリア人のクライアントに『生産性を倍にするか半額にしてほしい』と言われまして。でも、半額は難しい。そこで開発を重ね、約3 倍の生産性を実現したのが、2007 年の『MACH2 X』シリーズ。そして、さらに新たな技術を搭載したのが最新の『MACH2XS』です」(同社取締役開発本部長の有北礼治)。

全自動手袋編機(角型)
指先から手首まで一体化して手袋を編める。2017 年には「機械遺産」に認定された。

 

“ かつてないデザイン” を可能にする世界唯一の機械

同社が、2015 年に発売した最新ホールガーメント横編機「MACH2 XS」には、ホールガーメント誕生20 年目の節目にふさわしく、これまでに培われた技術が搭載されている。

一つは、同社が1997 年に開発した「スライドニードル」だ。この針は従来の「ラッチニードル(ベラ針)」とはまったく違い、高い編成効率を実現する。編み方も36 通りから144 通りに増え、さまざまな柄やパターンの編成を可能にした。この機械でしかできない編成も多くあるという。もう一つが「4 枚ベッド」。ニードルベッドを従来の2 枚から4 枚に追加したことで、立体的な編成ができるようになった。そして、最新鋭の技術である「可動型シンカー」だ。無理な力を与えずにループを保持することができるので、複雑な編み地でも高級感のある風合いを得ることが可能になった。さらには引き返し編成が容易になり、これまで実現できなかった衿の前下がり量の調節が可能となるなど、編成の範囲が拡がった。

有北は「スライドニードル」開発時のことを懐かしそうに語った。「当時の社長(現会長)が朝早くから出社し、残業して図面を描いていました。手描きの図面をCAD に入れるのですが、それがまた翌日に変更され……(苦笑)。仕掛品も山のように積み上がりました。でも、こうした開発のひとつひとつが、今のホールガーメント横編機につながっているのです」。

4枚ベッド、可動型シンカーとスライドニードルの様子

 

生産効率・環境・流通に起きたホールガーメント革命

無縫製のホールガーメントは、デザイン面で大きな影響をもたらしたのは前述のとおり。縫いしろによるゴワつきがなく、デザインの自由度も極めて高い。さらに言えば、最新の「MACH2 XS」では、型紙にもとづいた立体編成により、縫製することなく一枚の編み地だけの美しいフレアラインが可能になった。近年女性に流行しているコクーン型のトップスも、まさにホールガーメントが作り出したトレンドだ。

しかし、そのメリットはデザイン面だけの話ではない。縫い目がないことは、生産効率や環境面でも大きな進化をもたらした。従来の流し編みのカットロスが約30%だったのに対し、ホールガーメントはゼロ。無駄が少ないといわれる成型編みでも1 着あたりA4 サイズ相当の縫いしろロスが発生していたが、そこもゼロになった。

また、現場の生産工程も大きく変えた。パーツを縫製する工程がいらないため、横編機で編み上げたら、すぐに仕上げ工程に入って出荷でき、リードタイムの削減にもつながる。さらに、必要な時に必要なだけ生産することが可能なため、流通ロスも削減できる。人の手を使わない製法は、製品品質を一定に保てることも大きなメリットだ。

「MACH2 X」とホールガーメントの立体表現を可能にしたデザインシステム「SDS-ONE APEX」を開発した2007年には、これらの効率化のソリューションが評価され、モノづくりのノーベル賞と呼ばれる「大河内記念生産特賞」も受賞している。

今回取材にご協力いただいた有北さんと(右)今井さん(左)。

 

「常に課題を持ち続けること」が前進の原動力

同社の製造はすべて和歌山の本社工場で行う“ ジャパンクオリティ”。部品から組み立てまでを一貫生産していることも、独自性の高い多様な製品の開発につながっている。“ジャパンクオリティ” を誇る同社にとって、メイド・イン・ジャパンのニット製品を増やしていくことは強い願いでもある。「しかし、現在国内で販売されるニット製品のうち、日本産はたった0.5%程度。我々も国内優先でホールガーメント横編機販売しました。今は台数も増えてきています」(有北)。一方、売上高の85%以上を占めるのは海外。欧米アパレルの産地であるバングラデシュやASEAN 諸国への輸出も多く、近年では洋服だけでなく、中国を中心にスポーツシューズ向けの需要も伸びている。

今後について有北に尋ねると「世界にないものを目指したものづくり、それはこれからも変わりません」と力強い言葉が返ってきた。島精機の経営理念は「Ever Onward ─限りなき前進」。有北は、自らに課していることとして「自分なりの課題や問題意識を持ち続けること」を挙げた。彼は一つの開発を終えると、2 ~ 3 週間は社内の他部署の現場を覗いて廻るという。「そんな時に課題への答えが見つかることもあります。ただ、常に課題が頭の片隅にないと、答えはやってきません」(有北)。開発者たちに浸透しているこの精神が、同社の独自の進化を可能にしているのかもしれない。

(取材・文 横田 直子)

ホールガーメントにより美しいフレアラインが可能となった


株式会社島精機製作所

所在地 和歌山県和歌山市
http://www.shimaseiki.co.jp/

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