日本機械学会サイト

目次に戻る

2017/12 Vol.120

【表紙の絵】
「オゾンホール修復飛行船O3-ZES21」
久保 竜希 くん(当時10 歳)
O3-ZES21( オーゼス21:O Zone Eco Ship 21 century)この機械は飛行船にオゾン発生装置を取り付けて、上空で飛行しながらオゾンを製造し、オゾンホールをふさぎます。燃料はいりません。晴れの日は屋根のソーラーパネルで、曇りや雨の日はプロペラと、オゾン発生装置のファンが回ることで電気を作れます。出発前に地上でCO2 を取り込んで、上空でO3 に変えて、放出します。O3-ZES21 の作ったオゾンのおかげでオゾンホールがなくなり、紫外線がさえぎられて、南極の生き物が大喜びしています。

バックナンバー

特集 今、欠陥をあやつる

鉄鋼材料の欠陥(介在物)による高機能化

渡里 宏二〔 新日鐵住金(株)〕

図2 鉛快削鋼における切削急停止実験による構成刃先周

 

1.はじめに

自動車のエンジン、トランスミッションの機械部品やOA機器に使われる精密部品用の鋼材には、硬くて強いうえに、加工しやすさ、削りやすさ、いわゆる“ 被削性” が求められる。削りやすいということの特徴としては、①切りくずの分断性(切りくず処理性)が良いこと、②加工中に工具にかかる力(切削抵抗)が小さいこと、③加工する工具が摩耗しにくい(長寿命)こと、④加工後の仕上がり(面性状)がきれいなこと、これらの大きく四つの特性が挙げられる。いずれも、さまざまな加工工程において生産性や品質の向上につながり、こうしたニーズに応える材料として、快削鋼がこれまでに多く使われてきた。

快削鋼とは、鉄(Fe)に炭素(C)やマンガン(Mn)を含ませ、鋼材としての強度を確保したうえで、少量の鉛(Pb)や硫黄(S)を介在物として鋼材中に存在させ、被削性を向上させた鋼材である。それぞれ鉛快削鋼、硫黄快削鋼と呼ばれ、特に後者は、鋼中のMnと反応しマンガン硫化物(以下、MnS)として分散している。また鉛については、被削性の改善効果が大きいことが1920 年頃にアメリカで発見され、1937 年にアメリカのInland Steel 社が、初めて鉛快削鋼の実用化に成功(1)、以後欧州でもイギリス、ドイツなどで相次いで量産化された。また同時期に日本でも鉛快削鋼の開発が進み、1950 年代後半になって量産が始まった。以降、機械部品用の鋼材、いわゆる“ 機械構造用鋼” の強度と被削性を兼ね備えるために、鉛添加が主流となって適用されるようになった。

ところが、1990 年代後半頃から、環境負荷物質低減の観点で世界的に鉛の使用が制限され始めた。その主たる規制は欧州で始まり、代表的な規制例として、廃電気電子機器指令(Waste from Electrical and Electronic Equipment Directive:WEEE 指令)、電気電子機器の有害物質使用制限指令(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment:RoHS 指令)、および廃自動車指令(End-of Life Vehicles Directive:ELV 指令)がある。規格上、鉛の含有量が0.35重量%(以下%と記載)以上である鉛快削鋼は、RoHS 指令において鉛規制対象に該当する。一方で、先述したように鋼材への鉛添加は高い被削性を付与できることから、切削加工における動力負荷が低減され、省エネルギー対策としての効果も期待できるとの主張もあり、現時点で鉛快削鋼は同指令の適用除外となっており、いまだに鉛快削鋼はさまざまな機械部品用の鋼材として適用されている。しかし、国内の自動車メーカーや部品加工メーカーにおいては、各社独自に鉛の使用を規制する気運が高まり、鉛快削鋼に代わる「非鉛快削鋼」の開発が求められている。これまで、国内鉄鋼メーカー各社で独自の開発思想により開発が進められている(2)~(11)。現時点で、快削鋼における非鉛化技術には、硫黄快削鋼のMnS を応用的に活用することが主流となっている。新日鐵住金(株)では、これまでに同技術を主眼に研究· 開発を進めてきた。ここでは、当社の非鉛快削鋼の開発に向けたこれまでの取り組みとその考え方について紹介する。

会員ログイン

続きを読むには会員ログインが必要です。機械学会会員の方はこちらからログインしてください。

入会のご案内

パスワードをお忘れの方はこちら

キーワード: