特集 今、欠陥をあやつる
シリコン微小構造体の変形と破壊
図1 500℃で塑性加工したシリコンMEMS 構造体
はじめに
1982 年にK. E. Petersen がIEEE 誌上に名著“Silicon as a Mechanical Material” を発表して35 年が経とうとしている。元来Si は半導体材料として注目され、その特異な電気特性を利用してトランジスタ等の電子デバイスが作られてきた。このような中、この論文ではSiの機械特性に着目し、「ヤング率は鋼と同程度」で「強度は鋼の10 倍」であることが示された(1)。つまり、それまで電気特性のみが注目されてきたSi が、実は、とても優れた機械構造材料としての素質を持つことが公知となった。これを機に、Si をベースとしたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の研究開発がスタートしたのである。
機械構造物を作り上げるためのSi マイクロ加工技術は、今でこそDRIE(Deep Reactive Ion Etching)プロセスが広く利用されているが、当時は水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を使った異方性ウェットエッチング程度であった。しかし、この技術で実にさまざまなマイクロメカニカル構造が実現できており、いくつかは現代社会で実用されているMEMS パーツの原型となっている。例えば、インクジェットプリンタ用のノズル、光スキャナ用のミラー、スイッチング用のマイクロリレー等の基本構造がそれである。半導体デバイスにはないMEMS デバイス固有の特徴は、機械的な可動部を持つことである。これは、MEMS の性能そして信頼性向上に向けて、配線材料だけでなく可動部の構成材料を含めた機械物性を実験的に調べ、得られた知見を設計に反映させることが重要なことを意味する。これまでに数多くの機械材料試験法が提案され、マイクロからナノサイズの試験片を対象とした実験力学研究が行われてきた(2)~(11)。技術向上の恩恵を受け、昨今では単結晶Si の機械物性や塑性流動性のサイズ効果、疲労メカニズムに対する議論が活発になされるに至り、マイクロ~ナノ領域固有の物理現象の発見につながったものも多い(12)(図1)。
本稿では、まず、微小領域での機械物性計測に向け、薄膜材料を対象に開発された代表的な引張試験技術を紹介する。次に、Si のマイクロからナノ領域での実験力学研究で得られた特徴的な成果をいくつか紹介し、Si MEMS の機械信頼性に対する展望を述べる。
キーワード:特集
【表紙の絵】
「オゾンホール修復飛行船O3-ZES21」
久保 竜希 くん(当時10 歳)
O3-ZES21( オーゼス21:O Zone Eco Ship 21 century)この機械は飛行船にオゾン発生装置を取り付けて、上空で飛行しながらオゾンを製造し、オゾンホールをふさぎます。燃料はいりません。晴れの日は屋根のソーラーパネルで、曇りや雨の日はプロペラと、オゾン発生装置のファンが回ることで電気を作れます。出発前に地上でCO2 を取り込んで、上空でO3 に変えて、放出します。O3-ZES21 の作ったオゾンのおかげでオゾンホールがなくなり、紫外線がさえぎられて、南極の生き物が大喜びしています。