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2017/11 Vol.120

【表紙の絵】
「おばけたいじロボット」
白石 煌惺 ちゃん(当時7歳)
自分のお部屋で寝ようとすると、暗闇の中からおばけに見えてしまう服やクローゼットが出て来るのをビームでやっつけてくれるロボットが欲しいです。

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名誉員から一言

Well to WheelとLife Cycle Assessmentの意味するところ

村瀬 英一

Well to Wheel

自動車からのCO2 排出には、Tank to Wheel とWell to Wheelという二つの考え方がある。Tank to Wheel は自動車の燃料タンクからタイヤを駆動するまで、一方Well to Wheelは、油田からタイヤを駆動するまでという意味である。

すなわち、Tank to Wheel は、すでに燃料タンクに燃料が入っている状態から、走行時にどれだけCO2 を排出するかということである。電気自動車であれば、電池に電気がためられた状態から、また、燃料電池車であれば、水素ボンベに水素がためられている状態から走行時にどれだけのCO2 を排出するかを問題にすることである。

一方、Well to Wheel は、走行時のCO2 を考えるTank to Wheel に加えて、燃料をタンクに入れるまでのCO2 の排出(これをWell to Tankという)をも考えることである。例えば、油田から原油を採掘して、それをガソリンや軽油に精製する時に排出されるCO2 を走行時のCO2 に加えて考えるものである。電気自動車であれば、発電して、その電気を電池にためその電気で走行した時のCO2の排出量である。燃料電池車であれば、水素を製造して、その水素で走行した時のCO2 の排出量である。図1 に、2017年の自動車技術会春季大会・フォーラムでのトヨタ自動車の友田晃利氏の図面を引用している。注目してほしいのは、一般の自動車・ハイブリッド車(HEV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)は走行時にCO2 を排出する。一方、電気自動車(EV)・燃料電池車(FCV)は、走行時にはCO2排出がゼロであり、よく、「ゼロエミッション車」と呼ばれる。これは、Tank to Wheel で考えると、真実であり、燃料電池車は「水」しか出ないし、電気自動車に至っては、「水」すら出ない。要するに「ゼロエミッション車」である。これをもって、CO2 は一切出ていないと結論づけるのは大間違いである!というのがWell to Wheel の見方である。電気自動車の場合、電気を作る手段が原油・石炭・天然ガスの燃焼によるものであれば、発電時にCO2 が発生しているのである。また、燃料電池車の燃料である水素を水の電気分解で作る限り、同様に電気を作る際にCO2 が出ているのである。

 

図1 Tank to Wheel とWell to Wheel
友田晃利 自動車技術会春季大会・フォーラム、2017 年

Life Cycle Assessment (LCA)

次にLife Cycle Assessment(LCA)について考えてみよう。LCAとは、ある製品が製造・使用・廃棄あるいは再使用されるまでのすべての段階を通して、環境にどのような影響を与えたのかを評価する方法のことである。自動車の場合を考えると、自動車の製造に必要な原料採掘の段階から、製造・輸送・使用・廃棄・リサイクルに至るすべての段階(ライフサイクル)において環境負荷を評価することになる。これはCO2 に関してのみでなく、水など環境に影響を与える物質全てに関しての評価である。

 

これらの意味するところ

これらの、Well to WheelとLife Cycle Assessment は、文字通り重要なことである。しかしここで私が言いたいのは、ものごとを常に、Well to Wheel とLife Cycle Assessmentという視点で見てほしいということである。すなわち、ある一つの方向からのみ、ものごとを見ていると、大事なものを見過ごしてしまい、独断と偏見でものごとを決めてしまいかねないということである。広い視野でものごとを見て、かつそうすることにより、どのような影響が出て来るのかを常に考えて行動をしてほしいと思う。「木を見て森を見ず」というが、常に森全体を見ていたいものである。


<名誉員>

村瀬 英一

◎九州大学グローバルイノベーションセンター 特任教授・名誉教授
◎専門:内燃工学、燃焼学

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