日本機械学会サイト

目次に戻る

2017/11 Vol.120

【表紙の絵】
「おばけたいじロボット」
白石 煌惺 ちゃん(当時7歳)
自分のお部屋で寝ようとすると、暗闇の中からおばけに見えてしまう服やクローゼットが出て来るのをビームでやっつけてくれるロボットが欲しいです。

バックナンバー

特集 考えるCAE:ものごとの本質を捉える1DCAE

1DCAEと設計教育

大富 浩一(東京大学)

現象理解と1DCAE

現象を見通しの良い形式でシンプルに表現

現象を本質的に理解するとはどういうことかを“ 流れ場におかれた物体の振動問題”を例に説明する。図1 に直径D、長さL の円柱(材料の縦弾性係数E、密度ρ)が水中にあり、流速Uの流れ場に晒されている。円柱は片持ち梁とする。人は経験的に流れ場にある構造物は振動し、その振動の大きさは流速の増加とともに大きくなることを、また、一方で流速はさして大きくないのに大きな振動が発生する場合(共振、自励振動)があることも知っている。

上記の問題を具体的に考えてみる。片持ち梁の固有振動数fs は弾性連続体の理論から図1 中の式で定義できる。ここに、Iは円柱の断面二次モーメント(πD4/64)、A は断面積(πD2/4)、λi は固有モードで片持ち梁の場合、1 次の固有モードはλ1=1.875となる。ここで注意しなければならないのは構造物が水中にある場合のように構造物の密度に対して媒体の密度が無視できない場合には仮想的な質量効果(付加質量)を考慮する必要がある。具体的には図1 の円柱材料の密度ρに水の密度ρw を加算する必要がある。

次に、流速U による構造物に作用する流体加振力に関して考えてみる。この場合、構造物には流れ方向に抗力Fd、これと垂直方向に揚力Fl が発生し、それぞれ単位長さ当たりFd=(1/2)ρwU2D*Cd、 Fl=(1/2)ρwU2D*Clとなる。ここに、Cd は抗力係数、Cl は揚力係数で断面形状、流速(レイノルズ数)により経験的に決まる。ただし、これらは静的な力であり、これにより図1 の円柱は静的に変形する。一方、流速U により変動流体力も発生する。カルマン渦に代表される現象であり、これによって誘起される流体力の周波数f は図1 に示す式で定義できる。ここにSt はストローハル数で断面形状等により経験的に決まる。

以上のプロセスが図1 に示す“ 流れ場におかれた物体の振動問題” の現象を理解するということである。実際には流れの乱れによる円柱のランダム的振動などの発生もあるが大まかには上記のプロセスで手計算レベルでの現象のあたり計算が可能となる。図1 の問題では最大流速U、円柱長さL は一般的には設計制約で、強度、コスト等も考慮して、設計変数である円柱径D、円柱材料を決定することになる。上記のあたり計算のプロセスでは設計制約、設計変数の関係が一目瞭然であり、シンプルなモデルをベースに全体を俯瞰した全体適正設計を具体化することが可能となる。これが1DCAE で言うところの『物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現』することに相当する。

 

図1 流れ場におかれた物体の振動問題のあたり計算

会員ログイン

続きを読むには会員ログインが必要です。機械学会会員の方はこちらからログインしてください。

入会のご案内

パスワードをお忘れの方はこちら

キーワード: