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2017/10 Vol.120

「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。

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ほっとカンパニー

(株)マキタ 「プロのユーザーの快適性」を徹底するグローバル企業

日本にはこんなすごい会社がある

生産の9割、売上の8割以上を海外が占めるマキタ。電動工具のトップメーカーとして、国内外でその製品品質は厚い信頼を集めている。創業は1915年。当初は電灯器具やモータ、変圧器の販売修理を手がけていたが、1958年、国産第一号となる電気カンナの開発から大きく舵を切り、翌年から電動工具メーカーへ転換した。

マキタがここまで大きなグローバル企業に成長した要因の一つに、「プロのユーザーにいかに快適に仕事をしてもらえるか」の追求がある。「電動工具は製品の性質上、壊れることは避けられません。しかし、プロのユーザーや職人さんの手を止めないために、我が社では世界で『修理3日体制』という方針を打ち出しています。彼らの仕事が進めば、結果的に依頼主である一般ユーザーにもご迷惑がかからない。世界の職人と伴走するのがマキタの目指すところです」(同社開発技術本部技術研究部部長・坂口孝啓)1970年のマキタUSAを皮切りに、現在までに約50カ所の海外現地法人を設け、世界160カ国で販売している。その根本を成すのも「プロのユーザーの近くに自ら赴き、相棒となりたい」という理念なのだ。世界で展開する製品の数は2,000以上。「プロの方は、一回手に馴染んでしまった製品をなかなか手放してくれない。30年前の製品をいまだに新品としてお届けするのは、なかなか他の業界ではないですよね()(坂口)。ユーザーに寄り添うことを重視する姿勢にマキタの徹底した顧客第一の精神が見える。

1992年頃販売のMI型三相誘導モーター(牧田モートル)

 

充電化で実現できる新たな園芸工具の可能性

電動工具に次ぐ新たな分野として、マキタは園芸工具にもここ10年で本格的に乗り出した。実は世界の市場規模で言えば、電動工具市場は2兆円。そのうちマキタは約20%のシェアを占めている。対して園芸用品市場は4兆円。35年以上前からマキタも園芸用品を手がけているとはいえ、そのシェアは低かった。坂口は「当社の強みを活かして、まだまだ伸ばさなければならない分野です」と語る。

マキタは2015年に創業100年を迎えた。次の100年に向けて打ち出した最も大きな要素の一つが、エンジンから電動へのパラダイムシフトだ。電動工具ではすでに充電化が進んでおり、産業界全体の流れでもあるが、エンジン式が主流の園芸工具では本格的な開発競争は始まったばかりである。坂口は「当社の優位性は、電動工具で培ってきた過酷な環境下に耐えうる品質を作る技術力にあります。もともとマキタはモータでスタートした会社であり、今も自分たちでモータの設計・開発ができる。充電化を支えるマキタの強みだと考えています」と胸を張る。とはいえ、園芸工具の本格的な充電化はまだ始まったばかり。「園芸や農家などのプロに使っていただける充電式製品が実現できたのは、ここ2~3年。18Vのリチウムイオンバッテリーを2本使った36V仕様が可能になってからです」と同本部OPE1開発部部長・羽根田孝二は語る。

製品の充電化を進めてから、エンジンを使用した製品では実現が難しかったさまざまな利点~大幅な低騒音・低振動、そして製品の軽量化など~が実現できた。いずれもマキタのターゲットであるプロのユーザーの作業負荷を軽減するものだ。さらにさまざまな制御を搭載することで、製品をより快適に使ってもらえる付加価値を持たせられたのも充電式ならでは。例えば草刈り機では、刃に草が絡んだ場合、エンジン製品だと手で引っ張って除くしかなかったが、モータの場合、ボタン一つで逆回転させて抜くことができる。「今は、ユーザーさんの現場で何か見るたびに、つい充電化できないか考える癖がついています()(羽根田)と話すように、現在マキタではあらゆる製品で充電化の開発が進められている。

20167月に発売した充電式チェンソーは、好評の製品の一つだ。パワーが必要なチェンソーは、これまでエンジン式が圧倒的に主流だった。しかし、排出ガスや騒音・振動対策が重視される中、DC式のニーズが高まっていた。「従来の充電式チェンソーのガイドバーは、長さが115mmでしたが、350mmまでに伸ばせました。パワーも30mlエンジン式と同等の使用感を実現しています」と羽根田は語る。使用感は、設計者が充電式製品を開発する際、ユーザーにエンジンから充電式にスムーズに移行してもらうために重視していることの一つだ。この製品の場合、外側のロータが回転して高トルクを実現するアウタロータ式ブラシレスモータと、ロータでチェーンを直接回転させて機械的なロスを軽減したダイレクトドライブ方式の採用により、エンジン式並みの高速回転をさせることに成功した。従来製品では約500m/分だったチェーンスピードは、1200m/分まで向上できた。低騒音・低振動のため、都市部での造園や公共の場である公園など、使用範囲も広がったという。

350mm充電式チェンソー

充電式製品が生み出す更なる快適化

今年、業界初の充電式工具と無線(Bluetooth)連動する集じん機を発売した。充電式集じん機は充電式工具との組み合わせで、コードのないスッキリした作業環境になる。「特にブレーカーが落ちてはいけない現場や電源が取りにくい現場などでは、充電式かつ無線連動のこの製品への期待は大きいと感じています」(同本部第2開発部第23グループ主査・新間康智)。集じん機側の無線ユニットはワイヤレスユニットを10個まで登録可能で、工具それぞれにワイヤレスユニットを取り付けておけば、差し替える手間はない。今後、無線連動シリーズとして対応工具を拡充していく。Bluetoothのような通信機は、本来デリケートな技術。その技術を過酷な環境で使われる電動工具に搭載するのは簡単ではなかった。「工具は集じん機と繋がずに使用されることもある。粉塵の舞う現場でも問題なく使用できるように、粉塵が侵入しない設計を行い、時間をかけてテストと改良を重ねています。何より耐久性は最重要課題ですから」(同本部第1開発部第13グループ主査・福岡徹)

Bluetoothで連動できる充電式マルノコと充電式集じん機

 

「これからの機械屋は幅広い興味が必須」

今後、マキタが課題として挙げるのは「安全性と使いやすさという、時には相反する要求をより高いレベルで両立させること、そして、さらに使う人の環境をより良くするために充電式の活用範囲を広げることにあります」と坂口は語る。その中でこれまで以上に人材にも、より幅広い知識が求められているともいう。「機械屋だから機械だけわかっていればいいというものではない。モータの特性や制御、ITなども知ることで、機械設計者はさまざまな要素を高いバランスで製品化できるのです。いろいろなことに興味を持つ姿勢が必須だと考えています」(坂口)

同本部技術研究部次長の平林伸治は果てないマキタの夢をこう語った「日本で開発した製品で、世界を相手に勝負できるというのは、マキタの大きな魅力だと感じています。驚くような世界の辺境でも、マキタの製品が使われ、まだまだここも拡大できる余地があります。今後さらに踏み込んでいきたいですね」。

世界中のプロユーザーに快適な作業環境を提供したいという思いとともに、マキタは次の100年も、たゆまぬ挑戦と進歩を続けていくのだろう。

今回、取材に協力いただいた皆様
(左から、新間さん、福岡さん、羽根 田さん、坂口さん、平林さん)

(取材・文  横田直子)


株式会社マキタ

所在地 愛知県安城市

https://www.makita.co.jp/


 

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