特集 日本機械学会のグローバル化~アジア諸国との連携のあり方~
ベンチャー企業によるアジアでのビジネス展開とイノベーションへの挑戦
会社概要
テラモーターズ(株)は、2010年設立の電動バイクの開発・販売を行うベンチャー企業で、現在ベトナム、バングラデシュ、インドに現地法人を設立している。「EVでイノベーションを興し、クリーンで持続可能な社会を創造する」という理念のもと、設立2年で電動バイクの国内シェア1位を獲得し、その勢いを現在まで保ち続け、2016年度の売上は30億円に達した。ベンチャー企業が、リスクの多い製造業で、新興国で三拠点同時に事業を立ち上げるということもあり、設立当初から「無謀な挑戦」だと言われることもあった。しかし、日本の電機メーカーが海外メーカーに遅れをとるようになった昨今、我が国からアジアマーケットに挑戦する企業があるべきだとの考えに至り、新興国での事業展開を決断した。
また、新興国では大気汚染が深刻で、排気ガス低減の観点からエンジンから電動モーターへの置きかえ需要が見込まれていた。このような状況から、新興国での電動バイクマーケットに参入することを決断し、①信頼性の高い日本ブランド、②長寿命の鉛電池、③メンテナンス・アフターサービスで、競合する中国メーカーとの差異化を図り、現在では、ベトナム、バングラデシュ、インドの三カ国で年間合計約3万台を販売するに至っている。
アジアでのビジネス展開
現在のアジアでの製造・販売拠点はベトナム、バングラデシュ、インドの三カ国であるが、設立当初はフィリピンでの事業の立ち上げも視野に動いていた。大気汚染対策として、2012年にフィリピン政府が約300万台のガソリン三輪タクシーのうち10万台を電動三輪タクシーに替えるというプロジェクトを政府をあげて発足し、最終3社のうちの1社として入札を獲得することができたのである。しかし、その後プロトタイプの開発を進めていた段階で、明確な理由もなくプロジェクトがキャンセルされ、再公募~入札~またキャンセルということが続いたため、最終的にフィリピンでの事業を撤退することを決断した。このような新興国リスクを経験することで、現地の状況を肌で感じて理解する重要性を実感し、現在では現場主義・現地主義を徹底するに至っている。私自身も月のうち3週間は海外に赴く状況であるが、現地では「日本企業は“NATO(No Action Talk Only)”だ」と揶揄されることがあり、悔しい思いをすることがある。日本企業は、調査や検討までは一生懸命やるが、現地への進出や投資、パートナーシップ構築は実際には行わないという指摘である。こうした現状を打破したいと強く感じ、現地に根付いた事業展開を行い、それぞれの国に合った価格・品質を見極め、ボリュームゾーンを探ることを徹底している。
各国での展開を簡単に説明すると、まずインド・バングラデシュではタクシー代わりに利用されている電動オート三輪(図1)が主要製品で価格は約15万円~20万円である。インドでは、2015年に電動三輪として初めてARAI(インド自動車調査協会)の認証を取得し、市場においてアドバンテージを得ることができた。バングラデシュにおいては、2015年に現地トップバイクメーカーと合弁事業を開始することで、製造・販売を展開することとなった。また、ベトナムでは電動バイク(図2)が主要製品で価格は5万円~15万円である。ベトナムは車の関税が高く、また日常の移動距離が短いため車よりバイクの利用者が多い。さらに交通渋滞を解消するために国として車の台数を抑える施策を実施しているという背景があった。ベトナム法人では2014年より量産を行い、また代理店網による販路の強化に取り組んだ。
図 1 1 回の充電で約100km走行可能な電動三輪「R6」
図 2 最高速度60km、一充電当たりの航続距離最大60kmの電動バイク「A4000i」
日本のベンチャー企業がアジアで事業を展開させ拡大させていくためには、その国に沿ったボリュームゾーンに確実にミートさせていくことが重要である。このことは当初から認識していたが、現地では10万円~15万円は給料の2~3カ月分にあたり、それぞれの国での金銭感覚に沿った品質と価格のバランスに合わせることは想像以上に大変な作業であり、特にベトナムでは製品企画のやり直しや事業見直しなど試行錯誤を繰り返した。日本から見たマーケットインではなく、現地にあったマーケットインというものを言葉以上に感覚として理解する必要がある。私自身も各国への訪問を繰り返すが、カセットコンロを換えるように、頭を都度切り替えるよう心がけている。
ドローン事業の立ち上げ
現在の当社社員数約280人のうち、65人はドローン事業に携わっている。ドローン事業を始めてからまだ1年ほどであるが、ドローンを用いた点検・土木測量の分野において、業界トップクラスを誇っている。ドローン事業は、“ハード”と“サービス”、“ホビー”と“産業用”に分類されるが、“産業用サービス”のドローン事業に本格的に取り組む企業はまだ少なく、マーケットの拡大が予想されていた。そこで、これまで当社が培ってきた次のポイントを本分野でも強みとして発揮することができると考え、参入するに至った。一つ目は、圧倒的なスピード力。これは当社が製造業として、かつベンチャー企業として、世界と闘う中で非常に重視したポイントであった。ハードルが高く難しい製造業でのビジネスを展開していくに当たり、求められるものは第一にスピード感であり、それが世界と肩を並べ、さらには頂点を目指していくポイントである。
二つ目は、世界的な視野。EVバイク事業にせよ、ドローン事業にせよ、競合として意識していかなければならない企業は世界中にある。そのことを常に頭に入れ、描き、どう動くのか、どうグローバルの中で闘っていくのかを考え続けなければならない。最後に、現場力である。世界でスピードを持って戦うためには、現地に行き現場を知ることが必要だ。肌で感じ、決断・展開していく必要がある。
これらの強みを活かし、2016年より土木に次ぐ第二の戦略として農業分野(図3)にも進出している。
図 3 農薬散布用 UAV「Terra1 シリーズ」で農業分野にも進出している
ベンチャーから挑むイノベーション
私自身、学生時代から企業家に非常に関心があり、その想いが今日に至っている。明治時代を作ってきた企業家に影響を受け、大学時代から元ソニーの盛田昭夫氏や元東芝の土光敏夫氏への憧れがあり、“世界でやる”ということが私自身の根幹のテーマとして沁み込んでいた。電動バイクをやろうと決意したことも、世界に市場があることがモチベーションとして大きく働いたからだ。
当社を設立するにあたり、「ベンチャー企業が製造業で世界に飛び込んで闘う」「新興国で三拠点同時に立ち上げる」ことは、はっきり言えば無茶なことであった。当然批判もあったが、ベンチャー企業が世界に挑む上で“無茶をやること”が非常に重要なことだと考えていた。というのも、当社を立ち上げる前にシリコンバレーで5年ほどベンチャーに携わった経験から、日本とシリコンバレーのベンチャーの差を実感するようになったからである。日本のベンチャーは10億~20億ほどの売上の段階で上場し、そこで挑戦を辞めてしまうが、シリコンバレーでは、そこからさらにメガベンチャーになるという企業が数多く存在している。グーグルやアップル、最近で言うとNetflixのように大企業に成長していくベンチャー企業がシリコンバレーには存在し、イノベーションを生み、雇用を生み、最終的には国を牽引していく。日本においても、この強い精神力とリスクをチャンスと捉える力が必要だと感じている。
チャレンジ精神やリスクに挑むことを放棄し、保守的な選択を優先していては、イノベーションは生まれない。とにかくやり続ける、諦めずにやるという確固たる意志と信念がイノベーションへの一歩だという想いを読者の皆さまへのメッセージにしたい。
*本記事はインタビューをもとに編集部で構成しました。
徳重 徹
◎ テラモーターズ(株) / テラドローン(株)代表取締役
キーワード:特集
「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。