特集 日本機械学会のグローバル化~アジア諸国との連携のあり方~
東京工業大学とタイ王国との交流について
東工大タイオフィスの設置まで
東工大–タイ王国交流史
東京工業大学とタイ王国との交流は、大変長く深いものがある(1)。1980年代より、日本学術振興会の拠点大学交流事業によるキングモンクット工科大 学ラカバン校(KMITL)との連携、JICAプロジェクトへの積極的な参加、チュラロンコン大学、タマサート大学やカセサート大学といったタイの主要大学との大学間協定の締結など、教員の派遣やタイからの研修員の受入など、交流が盛んであった。
さらに、2001年にタイ科学技術開発機構(NSTDA)と学術交流協定を締結したことを契機に、本学はアジア工科大学、NSTDAと連携して講義配信を開始した。これは衛星通信設備やインターネットを利用したものであったが、本学はFace-to-Faceのコミュニケーションがあってこそ最先端のITツールが力を発揮するという認識のもと、このプロジェクト支援のため、2002年に東工大初の海外オフィスをバンコク郊外のパトゥムタニー県タイランド・サイエンス・パークにあるNSTDA内に設置した。
タイオフィスは当初、この講義配信支援ほか、本学の広報や留学生獲得のための広報活動、共同研究を主な活動目的としていた。
TAIST-TokyoTechの開始
国際連携大学院の設置とその概要
本学タイオフィスの活動が他の大学の海外オフィスと異なるものと自負しているのは、本学が、TAIST-Tokyo Tech注1という国際連携大学院を、タイ関係機関と共同で独自に運営していることである。筆者はこのTAIST事業に設置準備の段階から関わっており、現在は、東工大側の運営委員会の委員長を仰せつかっていることから、簡単にTAISTについて紹介する。
この連携大学院は、タイ政府およびNSTDAの要望に始まり、その設置構想を推進するために東工大がサポートする、として開始された。タイは、日系企業の、アジアにおける生産拠点として発展してきたが、オリジナルな研究開発への人材育成は必ずしも充実していない。そこで、一つ上の、高度な“ものつくり人材”あるいは研究開発を推進する人材を育成することを目的に、この連携大学院が設置された。当時の東工大学長とNSTDA長官による調印を皮切りとして、東工大内調整およびタイ側との度重なる折衝の末に、TAIST-TokyoTechは2007年9月にオープニングを迎えることとなった。
TAISTには、現在、三つのプログラムがある。すなわち、自動車工学プログラム(Automotive Engineering: AE、2007年~)、組込み情報システムプログラム(Information and Communication Technology for Embedded System: ICTES、2008年~)、環境工学プログラム(Environmental Engineering: EnvE、2012年~)である。それぞれ定員は30名であるが、GPAが基準に満たない者、合格しても登録しない者など、定員の半分となるプログラムや年度がある。また、タイ側の参加機関・大学は、NSTDA、KMITL、キングモンクット工科大学トンブリ校、カセサート大学、タマサート大学シリントーン国際工学部である。
主に東工大は教員の派遣、遠隔配信による講義の提供を、NSTDAは施設と奨学金の提供、タイの参加大学は修士号の授与、学籍管理、講師派遣を行い、学位取得のための研究については、東工大、NSTDA、タイ大学からそれぞれ一人ずつ指導教員が付く。講義、指導はすべて英語で行われる。
本学教員は、3日から1週間程度、タイに滞在し、集中講義を行う。インターネットを利用した遠隔講義を行うことも可能であるが、あくまでも本学が重要視しているのは、Face-to-Faceで直にTAIST学生と接しながら授業を行うことである。実に年間30名を超える本学教員が、タイで講義を行っている。これらは、本学タイオフィスをハブにし、綿密な協力体制の下、運営されている。東工大の現地スタッフに加え、NSTDA所属のスタッフが、本学教員の活動や、学生支援、開講式・修了式の開催などに大車輪の活躍をしている。
注1:Thailand Advanced Institute of Science and Technology-Tokyo Institute of Technology
TAIST-TokyoTechのカリキュラム
AEプログラムを例に
ここで、筆者も設置当時から参画しているAEプログラムの科目を次に示す。
<修士 1 年第 1 セメスター> 1. 自動車構造システム工学 1.1 自動車研究と発展概観 2. 自動車の快適性工学 3. 先進生産工学 <修士 1 年第 2 セメスター> 5. 先進機械材料の科学と工学 6. 自動車設計の基礎 7. 自動車設計の実践 <修士2年第1・第2セメスター> |
この7科目のそれぞれについて3名の東工大教員が担当し、学生は、各サブタイトルについて1週間(毎日3時間)の集中講義を受講し、3週続けて3単位を取得する。
各プログラムにより修了要件は若干異なるが、修士論文はもちろん、査読付き国際学会での発表を要件の一つとするなど、東工大と同程度の質を求めている。2016年夏までの修了者数は214名であり、そのうち10%以上が本学および他大学の博士課程に留学するなど、タイの中では研究指向が極めて高い修了生を輩出する大学院として注目されている。さらに、タイの大学、研究機関、企業のほか、在タイ日系企業に研究者や技術者として就職している。
TAIST-TokyoTechの今後
次の10年に向けて
TAISTは今年10周年を迎え、8月にはタイにおいて10周年記念式典を開催した。近年の新たな動向を記すと、2015年度からは東工大学生をタイに派遣し、TAIST学生とともに授業を受け、NSTDAでインターンシップを行う派遣プログラム、逆にTAIST学生を2か月間本学研究室に受入れ、研究を行う受入プログラムを実施し、日タイ双方の学生のさらなるモチベーション向上を図っている。
また、本年度からタイにおいて現在喫緊の課題となっている鉄道技術者の養成のため、既存の3プログラムの副専門的なコースとして、新たに鉄道カリキュラム(Rail Transportation Curriculum: RT)を設置し、それに伴い新たにマヒドン大学がTAISTに参加することとなった。
TAISTでは、これらの活動内容をタイ側と協力しながら、本学同窓生、日タイの産業界へも積極的に広報し、多大なるご寄附をいただいてきた。この10年の歴史で構築したネットワークを、タイ大学、タイ産業界との産学共同研究に結びつけることが、今後の本学の課題の一つである。
このように、TAISTという一つの教育プログラムが、本来の目的である人材育成のみならず、学生交流、産学連携など多方面において波及効果を生み出してきている。我々としては、草創期の志を堅持し、学生やタイ側教員・研究者、企業関係者一人一人とFace-to-Faceの関係を維持・構築し、国際社会の諸問題の解決に貢献していきたいと考えている。
参考文献:
(1)TAIST-TokyoTech,http://www.titech.ac.jp/globalization/stories/taist_tokyo_tech.html(参照日2017年6月14日)
<フェロー> 花村 克悟
◎東京工業大学工学院教授
◎専門:熱工学
キーワード:特集
「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。