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2017/9 Vol.120

「魚(うお)っちゃCar!!」
吉川 大翔 くん(当時6 歳)
これは海の底で魚をとったり、研究
や工事が出来る移動式の機械です。
左前にあるセンサーやカメラで魚を探
します。自分の食べたい魚や珍しい
魚をつかまえて巨大タンクで増やしま
す。グリッパーにのこぎりやハンマー、
グラップルをつけかえて、深い海の
底に魚と一緒に遊べる遊園地を作り
ます。中は海の底でもず~っと息が
出来るように酸素や水、カルシウム、
色々なものがシャボン玉のようになっ
て出てきます。1 階は魚を育てるた
めの部屋。2 階は操縦席と巨大タン
クの部屋。3 階は図書館とお茶を飲
む場所があります。

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ほっとカンパニー

オイレス工業(株)環境・省エネ・防災に向けて注がれる研究開発力

日本にはこんなすごい会社がある

時は、昭和初期。後にオイレス工業の創業者となる川崎宗造は、当時、専売局の機械動力主任だった。彼は、アメリカ製のタバコ巻き上げ機を点検した際に、使われている軸受が給油を必要としないことに気づいた。川崎は試行錯誤の末、この軸受の国産化に成功。ここに日本初のオイルレスベアリングが誕生した。その後、1932年には「無給油木質軸承製造方法」の特許を取得、1939年にオイレス工業の前身である「日本オイルレスベアリング研究所」の設立に至った。

とくに同社の大きな成長のきっかけとなったのが、1942年に取得した「成長鋳鉄含油軸受製造方法」の特許だ。加熱冷却により膨張が繰り返される結果、多孔質な材料に変化する「鋳鉄の成長現象」を利用した金属系軸受は、世界初の発明であった。さらに金属に固体潤滑剤を埋め込むことで、完全無給油の金属系軸受にも発展。現在、オイレス工業は、無給油軸受メーカー最大手の規模を誇る軸受機器事業を核に、そこで培った技術を多彩な製品・技術へ展開、免震制振装置を中心とした構造機器、ウインドーオペレーターなどの建築機器事業にも事業領域が拡大している。

同社エアベアリングが他社の追随を許さない理由

主軸事業を担うオイルレスベアリングは、同社の独自技術により通常のすべり軸受をさらに高性能にした製品。ベアリング本体に優れた潤滑性を持たせ、摩擦が生じると特殊な添加剤や固体潤滑剤によって接触面に潤滑皮膜を形成し、使用条件を問わず、スムーズな動きと優れた耐久性を発揮するものである。同社は、前述の金属系軸受を皮切りに、プラスチックに潤滑油や充填剤を含有させた樹脂系軸受、薄い鉄板に樹脂をコーティングした複層系軸受を次々と開発。以降、時代の流れとともにさまざまなニーズに応え、自動車やAV 機器から宇宙・海洋開発分野まで、幅広い分野で採用され、保有特許も2,300件を超えており、技術開発型企業としての評価を受けるに至っている。

その中でも近年とくに注目を浴びているのがエアベアリングだ。非接触で摩耗粉が出ない製品は、異物の混入を嫌う液晶・半導体や、薬品・食品など高精度を求めるユーザーの製造現場のほか、真円度測定器や三次元測定器などの検査器にも採用されている。

同社のエアベアリングは、独自の多孔質焼結層とバックメタルの一体構造が特徴だ。「給気溝から多孔質面に向かってエアが出るのですが、軸と軸受の間に圧縮した空気を供給することで高圧の空気膜を作り、その力で荷重を支えるというのが基本的な仕組みです」と、同社軸受事業部の武藤は語る。エアベアリングそのものは一般的な製品である。「しかし、当社の製品は多孔質の性質を活かし、絞り具合を変えることで性能のカスタマイズが可能です」(武藤)。

他社とは異なるエアベアリングが生まれた背景には、自社製品を応用して生まれた経緯がある。「もともと、自社で作ったすべり軸受の中で、鉄に多孔質焼結層を拡散接合し、その気孔部分に油を含浸させた製品がありました。その技術をベースに改良したからこそ、他社には真似のできない製品が生まれたのです」(研究開発部・持丸)。

低コスト・高性能・フレキシブルな免震装置

軸受で培った技術を機械部品領域以外に発展させることで開発が進んだのが、免震・制振装置である。同社がトライボロジー技術を活用して開発したベアリングプレートは、1960年頃から支承として高速道路や新幹線などの橋梁に使われてきた。そんな中、1964年の新潟地震により橋桁が落ちる事故が発生。その事故をきっかけに同社は地震のエネルギーを減衰するダンピング技術を確立し、免震・制振装置事業へと踏み込み、日本の免震装置のパイオニアとなった。

近年では、2011年の東日本大震災が転換期となった。被災地では、多くの製造業で生産ラインが被災して生産が止まり、ものづくりの現場でも地震対策の意識が高まった。「既存の工場建屋を後から免震化することは構法的には可能ですが(レトロフィット構法)、その工事期間として数ヶ月単位で生産が止まることになります。でも、守りたい部分だけを免震化すれば短納期で施工でき、生産ラインが止まることはありません。こうして東日本大震災以降生まれたのが、部分的に免震化できる『ユニット型設備免震装置』です」(新市場推進室・志村)。

ユニット型設備免震装置は、同社のコア技術であるトライボロジー技術で摩擦をコントロールし、生産に支障をきたさない。さらに、これにより作業者の作業エリアまるごと免震化ができることも特徴であり、作業者にとっても安全な装置なのである。同装置は、生産ラインはもちろんのこと、倉庫ラックの免震化として自動倉庫の収納物を落とさないニーズにも採用が広がっている。

RD 棟(研究棟:手前)とTC 棟(テクニカルセンター棟:奥)
いずれも免震構造

約30年前に生まれた建物用免震装置 LRB

ユニット型免震装置

「日本のものづくりを守る」ための技術革新

実は、このユニット型免震装置を強く推進したのが、同社社長(現在は会長)だった。「東日本大震災の際、生産ラインが止まったために、海外にその仕事を奪われてしまったメーカーがあったそうです。社長は『日本は地震国であり、再び大地震は来る。地震被害によって、日本のものづくりのパイが減ってしまうのは絶対に避けなければならない。オイレスが30年培ってきた免震技術で日本のものづくりを守るんだ』と。日本のものづくりを守るという観点からも、絶対に必要なものだと信念をもって手がけている分野です。BCP(事業継続計画)の観点からも必要不可欠な製品と自負しています」(志村)。

同社は、トライボロジーという技術をコアに据え、自分たちの強みを探求し、社会のよりよい未来を目指して歩んできた。今の時代、日本の製造現場にとってはますます環境対策や省エネを求められ、BCP の策定も必須事項となりつつある。オイレス工業にとっては、まさに自社の企業理念を社会全体で実現できる未来が待っているのかもしれない。

今回取材に協力いただいた皆様(左上:鈴木さん、左下:武藤さん、右上:持丸さん、
右下:志村さん、中央は創業者 川崎宗造氏の銅像)

(取材・文 横田 直子)


オイレス工業株式会社

所在地 神奈川県藤沢市
http://www.oiles.co.jp/


 

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