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2017/5 Vol.120

【表紙の絵】
「なかまを増やすロボット」
乙成 華菜 さん(当時10 歳)
このロボットは、はんしょくするロボットです。人が少ない年齢はどこかをみて、大人でも自分より年上じゃなければうむことができ、少子化を防げます。(一部抜粋)

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巻頭インタビュー 第95期(2017)新会長 大島 まり(東京大学)

「未来を織りなす機械学会」

聞き手:広報情報理事 宮崎 恵子(海上技術安全研究所)

新会長としての抱負
歴史を誇りに、課題と向き合う

宮崎:日本機械学会120年の歴史の中で初の女性会長です。まずは、新会長としての抱負をお聞かせ下さい。

大島:夢を紡いで形にするというのは機械工学に非常に適していて、むしろ機械工学だからこそできることだと思います。会員の皆さんがそういう夢を形にできるような学会にしていきたいと思っています。機械学会の良さを生かしつつ、課題を克服して形にしていきたいと思っています。

宮崎:2016年度に筆頭副会長になられてから、さらにお忙しくなったと思いますが、どういうところが大変でしたでしょうか?

大島:会議が想定以上に多くて驚きました。今回は10年後の将来ビジョンを立てる作業があったので、ディスカッションしながらまとめるのに苦労しました。ただ、まさに120周年のテーマにもなっている「夢を形へ紡ぐ」ような作業ができて、私は楽しむことができました。2014年度に作られた「10年後の姿」をベースに、理事の皆さんのご意見を聞いて、大きな方針として問題ないというところからスタートしました。合宿理事会を通して、少しずつ具体的に落とし込んでいく作業を進めて、本当に文字通り「紡ぐ」という行為だったと思います。関係の皆さまには長時間の議論や討議に参加いただいて、申し訳なく思っていますが、この「10年ビジョン」は我ながら良くできたのではないかと思います。今までやってきた研究でもこういうプロセスを踏むことがありますが、研究とも違う考え方をする必要があったので、そういう意味でも大変新鮮でした。

宮崎:会長となると、会員約3万5000人のトップということで、経営の視点も必要になってきますよね?

大島:学術界では論文とかデータなどが成果でしたが、それに対して経営というのははっきりした形があるような無いような感じがします。学術界にずっと身を置いていると、そういった経験は少ないので、将来ビジョンを立てる作業は本当に勉強になって新鮮でした。自分の年齢的な変遷もあると思いますが、若い頃は大義名分よりもとにかく動いて成果を出すことを重視していましたが、原点に立ち返って、何が目的で何が必要か、見直すことが大事だなと思いました。

宮崎:原点に立ち返って機械学会を見た時に、何が問題でしょうか?

大島:問題というよりも、まずはポジティブに考えるところから始めるべきだと思います。機械学会は120年の歴史があって、しかも会員は約3万5000人。減ったとはいえ非常に大きな規模の学会です。そのような時間の歩みによって培われた歴史は、簡単に置き換えることはできません。歴史のある大きな組織というところを、もっと誇りに思って、また自信を持ってやっていきたいと思っています。そういう得がたい財産をうまく利用していきたいですね。

宮崎:ただ、若手企業会員の減少など、影響力の低下という直近の課題がありますよね?

大島:時間が非常に短い中で成果を出さないといけないという時代に変わってきているので、正直言って悠長なことを言っていられないのは十分承知しています。そういう中で、皆さんがWin-Winになるにはどうしたらいいかだと思います。

宮崎:企業と共同研究をやられていると思いますが、産と学でどういったところに違いを感じますか?

大島:やはりアウトカムが違いますよね。また、タイムスケールに対する要求が大きく異なります。それらがうまくいかないと、共同研究はうまくいかないと思います。

宮崎:産業界ではタイムスケールに対する要求が強くて、どんどん決定を進めていくというところがあると思いますが、学会は有志の集まりなので、どうしても動きにくい組織になってしまいますよね。

大島:学会では会長がトップですが、強制力があまり発揮できません。そういうところも企業と異なります。事前に周知しておくことが結構大事で、突然トップダウンでというのはうまくいかないケースが多いように思います。以前、広報情報理事の時に、機械学会のホームページについて議論しましたが、機械学会はさまざまな組織が入れ子状態になっていて、理事会でもこっちの分担はこっち、こっちはこっちと、大きいレベルでも細かいレベルでもあります。決定までの承認プロセスも入れ子状態なのも、時間がかかる一つの要因だと思います。事業も多く行っているため、財務面の承認プロセスはいい加減にできませんが、組織の仕組みを見直す必要性は感じています。

宮崎:例えば、機械学会での活動をまとめて、成果としてアウトプットしようとした時に、出版というやり方と広報での情報発信というやり方が絡んできますよね。ある意味出版物も情報で、値段を付ければ出版センターで、値段が付かないものは広報情報部会で、とか入れ子状態ですよね。

大島:昔は情報って言うと書物が中心だったので、アウトプットを決めるのも複雑ではありませんでした。今は情報発信の方法がずいぶん変わりました。さらにSNSもあるため、対応が難しくなり、その割に足回りが重いなって感じがします。

宮崎:そういった承認プロセスや組織の仕組みを変えようとすると、どうしても反対意見が出てくると思いますが。

大島:学会はある意味、皆さんの協力により支えられています。協力を何らかのメリットに置きかえられる仕組みが必要だと思っています。でも、すぐできる解決策は今のところ思い付いていないので、そこも課題ですね。

新生「日本機械学会」の10年ビジョン

 日本機械学会は,国際的な視野から学術界・産業界をリードし,今後ますます複雑化する社会の要請に応えていく.広範な分野を取り込みイノベーションへとつなげていく横断的総合技術としての機械工学の強みを活かし,社会を変革する場であり続け,それを担う人材育成に貢献する.そのため,今後10年間に本会が目指すべきビジョンを以下に定める.
1.リーディング・ソサエティとしての学会
多様な視点,多様な価値観が交錯することにより新たな価値を創出する場として,会員のニーズに応え,変革をリードしていく姿.
2.学術のトップランナーとしての学会
高い水準の専門学術を国際的に推進していくとともに,分野を横断した新しい学際的な領域・技術を創成していく姿.
3.イノベーションを創出する人材の育成を担う学会
社会が抱えている技術的な課題を解決するとともに,新しい領域を切り拓き,産業および社会の発展へと貢献できる人材を,世代,地域,領域および職能の垣根を越えて育成していく姿.
4.世界に開かれた多様性に富んだ学会
多様なバックグランドを持った研究者・技術者が人的ネットワークを構成し,交流および情報交換の場としての機能を有するとともに,得られた情報および成果を国際社会へ発信していく姿.
5.社会的責任を担い持続的に発展する学会
上記1から4の学会としての姿を実現していくため,社会から公益的価値を認められ,強固な財政基盤を持つことにより,組織として持続的に発展していく姿.

 

研究テーマ
臨床を教育コンテンツへ

宮崎:今取り組まれている研究についてお話しいただけますか?

大島:研究はバイオを中心に、循環器系に対する臨床支援のためのシステムに取り組んでいます。研究室としてシステム化を成功させたいと思っていますが、さらにその研究を教育にトランスファーしようということも行っています。私だけの研究ではなくて、他の先生も含めて、臨床での支援システムを中高生の教育に使えるように加工してコンテンツ化していきたいと思います。

宮崎:臨床となるとやはり学外のお医者さんとの連携が重要になってきますよね?

大島:循環器系の疾患ということもあるので、医学部の先生と連携しています。シミュレーションや実験結果の評価は、臨床に携わっているお医者さんのフィードバックが不可欠であり、連携が必須ですね。また、教育に関わる部分では、中学校、高校の先生と連携しています。教育コンテンツの分野では、産学連携はあまり進んでいないので、教育においても産学連携を進めようと、ワークショップなどを実施しています。

宮崎:研究室の学生さんは、そういった教育テーマにも興味を持たれている方が多いんですか?

大島:私の研究室では、二つの研究科から学生が来ています。一つは機械系の工学研究科機械系の学生で、もう一つは情報学環の学生です。後者は文理融合の研究科なので、情報系の医用画像の処理、あるいは教育系のいわゆるサイエンスコミュニケーションに携わっている先生がいます。その意味では、さまざまなバックグラウンドを持った人のいる研究室ですね。多様性があるため、柔軟な発想に繋がって、いろいろなアイデアが出てきて面白いですよ。

女性が工学分野に進むということ
ロールモデルとサポート

宮崎:大島先生が何かの雑誌でお子さんのことを話されたのを読んだことがあって、以前からお子さんの話をしたかったのですが、理事会で何度もお会いしていたのになかなかそういうタイミングがなかったですね。

大島:今、娘は小学校4年生で、ちょうど10歳になったところです。やはりこういう仕事をしていると家にいないことが多いので、もう少しそばにいてあげたいと思うこともありますね。最近、たまたま仕事が早く終わって、夕方早い時間に家にいたことがありました。鍵っ子の娘がインターホンを鳴らした時に、それに私が応えてドアを開けたら、すごく喜んでいました。おそらく私がいなくても毎日やっていて、「ああ、やっぱり今日はいないんだ」って確かめてるのかと思うと、ちょっとほろっとしてしまいました。

宮崎:大島先生は子どもの頃はどのように過ごされたのですか?

大島:実を言うと私、帰国子女で、小学校にあがる前までアメリカにいました。日本に帰ってきた時は日本語が全然話せなかったんですよ。そのため国語ができなくて、算数とか理科は言葉が分からなくても理解できたので、理数系が好きになりましたね。

宮崎:私たちが高校生の時は、理数系のクラスは本当に女子が少なかったですよね?最近はスーパーサイエンスハイスクールがあったり、女子が理数系に進むことに抵抗がなくなってきたと思います。

大島:私が高校生の時は、理数系のクラスは女子が3分の1ぐらいでしたね。確かに、最近は理数系に進む女子生徒は増えてますね。でも医歯薬系が多くて、工学系は少ないですね。その一番の理由は資格だと思います。女性の場合、ライフイベントなどで職場をいったん離れる可能性があります。そのため、資格を持っていた方がいいということで、医歯薬系を選択することが多いようです。現在の医学系の男女比は50:50のようです。薬学部は昔から女性が多いですし、理学部は教員免許が取れます。一方、工学部は資格がないです。また、高校では数学や物理を勉強しますが、工学という横断分野を経験することがありません。大学受験で工学部となってもよく分からないし、女子の場合はその後のキャリアが描けないことが、工学部が選ばれないもう一つの理由と言われています。進路については、本人もそうですが、やはり親御さんの意見が大きく影響するので、親が将来像を描けないと子どもに勧められないという話もよく聞きます。

宮崎:そういう部分では、2017年3月開催のメカジョ未来フォーラムのようなイベントを高校生の親御さんにも見てもらいたいですよね。情報発信を工夫して、広く知ってもらいたいです。大島先生が大学教員を選ばれたのはやはり労働環境を考えてのことだったのでしょうか?

大島:私が修士を終了した前年に男女雇用機会均等法が制定されました。当時、女性が資格を持たずに働く場合は、公務員などの国関係に進むことが多かったですね。私は留学したかったので、博士課程に進みましたが、当時は企業より大学の方が、女性が長期的に働ける環境だったと思います。しかし、今は研究者は任期付きのため、任期からパーマネントに変わる大事な時期にライフイベントが重なることもあり、また一方で企業の体制が整ってきていることがあるため、企業の方が働きやすい環境かもしれません。そういったことも影響しているのかもしれませんが、女子学生の博士課程の進学率が落ちています。女性の博士課程のサポートをするために、大学院博士課程の女子学生を対象にした顕彰制度の立ち上げ準備を進めています。

宮崎:企業でも大学でもいろいろ工夫しながら続けてこられた先駆者がいるので、少数派ではありますが、そういったモデルケースを発信できれば、理解が変わってくると思います。

大島:やっぱりある程度の数とか量って大事ですからね。少しずつですが、今は増えてきているので、底上げとトップの意識改革の両方からサンドイッチで進める必要がありますね。

会員へのメッセージ

宮崎:では、最後に会員の皆さんに向けてメッセージをいただけないでしょうか?

大島:世界情勢や社会環境の大きな変化に対応するためには、機械学会のような産業界と学術界のバランスがとれている組織がカギになってきます。社会から求められる役割を果たせるように、「多様性」を下地にして、技術分野・地域などの要素を「統合」させ、ディスカッション・アイデアを「循環」させていく活動を積極的に進めたいと思います。そこでの登場人物は会員の皆様です。日本機械学会の会員であることに誇りを持って、活動に参加して欲しいです。

(2017年2月15日 東京大学生産技術研究所にて)

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