機械系女子学生座談会 ~メカジョの未来~
「機械系の仕事をする女性・学ぶ女性」(メカジョ)は少なく、学生全体では4.5%、そして日本機械学会の中では2.6% 。女性の社会進出の重要性が叫ばれている中で、非常に小さい数字だ。
どうやったらメカジョを増やすことができるか?
学生のメカジョから、機械系を選んだ理由・将来の夢・ライフイベント・学会に対する期待など、いろいろ聞いてみた。
なぜ、機械系を?
こんにちは。私は東北大学の准教授をしている伊賀と申します。大学では機械系で流体力学を教えています。今日は、機械系女子学生の皆さんに集まっていただきました。「機械系女子学生-メカジョの未来」について、お話をしたいと思います。
日立製作所の國眼です。私は熱流体の研究室を出て、2006年入社です。皆さんよりは少し先輩ですね。皆さん、学部や大学院などで活躍されていますが、なんで機械系を選ばれたのでしょうか?
日本大学修士2年の土井です。私は航空宇宙工学科で、固体ロケットを研究しています。
私の場合、子どもの頃の夢がきっかけです。小学校の頃から天文とか星を見るのが好きで、そこから宇宙に興味を持ち始めて、ロケットの打ち上げとかをテレビで見たり。そして、JAXA・筑波宇宙センターの一般公開でロケットの音響体験をした時に「なんて力強いんだろう、ロケットは」と思ったんです。その時からロケットのエンジンに興味を持ち始めて、機械系を目指そうと。
慶應義塾大学機械工学科4年の延山です。研究室はアクチュエータとかセンサなどのメカトロニクス技術をやっています。私は高校で文系・理系を決める時に、理転するより文転する方がいいと思って、理系コースに進みました。そのうち「ものづくり」に興味を持ち始めて、大学に入ってから学科を選ぶ時には、学科の歴史の長さと「ものづくり」と言えば機械系かな?と思ったので入った感じです。
早稲田大学の権藤です。博士課程1年で、金属加工の研究をしています。私は、紆余曲折して機械工学科に来ました。小さい頃から文系科目が苦手だったので、理系に進むのは当たり前だったんです。それから兄が建築学科だった影響で、建築の歴史に興味を持ち始めました。でも、建築科のデッサンに興味が持てなくて、悩んでしまったんです。ちょうどその時に、大学のオープンキャンパスで車の周りの摺動のシミュレーションを見て。身の回りの現象を数学的に表現しているのがすごく面白くて、それで機械工学科に入ることにしました。
東京理科大学4年の佐藤です。研究室はトライボロジー関連で、摩擦とか摩耗とかをやり、今は3Dプリンタに関する研究をしています。私も、算数とか数学が苦手ではなかったので、小さい頃から理系に決めていました。中学・高校ぐらいの時に「ピラミッドってすごいな」と感じて、ちょっと建築に惹かれたんですけど。ある時、「あれ?自分は、家を建てたいわけじゃないな」って気付きました(笑)。その時に、やはりオープンキャンパスに行って、ヒートパイプに出会って、すごいなと。それで、機械に決めました。
東北大学修士1年の松野です。研究はナノ計測をやっています。私は、小さい頃から図工とか技術の授業とかで、手を動かしてものを作るのが好きでした。「ものづくり」がしたいなというので、工学部っていうのはわりと早い段階で決めていたんです。それでオープンキャンパスとか回って、「機械系は潰しが効く」って聞いて、間違いないかなって(笑)。
芝浦工業大学4年の山田です。研究室は環境エネルギー技術です。機械屋なんですけど、内容は化学寄りになっています。私も結構、紆余曲折がありまして。高校1年生で文系・理系を決める時に数学があまりにもできなかったので、理系に憧れはあったんですけど文系に進んで、そのまま大学も文学部に進学しました。中国語とか社会学を専攻しようとしていたんですけど、文系科目だったら自分でも勉強できるなと。技術的なことをもっと学びたくなって、1年で退学してしまったんです。機械系を選んだのは、学問的な知識をただ学ぶことよりは、「ものづくり」がしたいなと思って。エネルギー技術もロボットも自動車も気になるみたいな感じだったので、機械系にとりあえず入って、そこで自分のやりたいことを見つけようと思って、幅広い機械系を選びました。
伊賀:途中で進路変更してまで機械系に来てくれたんですね。嬉しいです!
東京大学の内山です。博士課程の1年で、学部は機械工学科でしたが、今は、知能機械情報学専攻で、ロボットの研究をしています。私も山田さんに近いんですが、文系・理系を選ぶ時に、文系は老後の楽しみとしてとっておこうと思ったんです(笑)。もともとドラえもんのタケコプターが好きで、いつか作りたいなと思っていたこともあって、理系を選択しました。
実は、人の心にもすごく興味があったので、医学部もいいかなと思って、初めは医師を目指したんです。そんな時、塾の先生に「医者に向いてないよ」と言われてしまって(笑)。当時はその言葉にすんなり納得してしまって、じゃあロボットの方にいくかと。
伊賀:向いてないって言われるのはショックでしたね。でも、結構みんな、はっきりと「機械」を目指して来てるんですね。
ちゃんと自分で選択していて、すごいと思いました。
國眼:意外と悩みのない子って会社入ってから辞めたりするので、悩むのって大事です。「自分が決めたんだ」っていうのはすごい重要なので、皆さんが軌道修正した話を聞いて頼もしく感じました。
これからの進路のこと
伊賀:では次に、将来の夢やこれからの進路について聞こうと思います。土井さんは、M2ってことはもう就職決まったのかな?
土井:はい、決まりました。航空宇宙関係の会社です。
伊賀:じゃあ、今の研究分野と同じですね。学部4年の人はみんな進学ですか?
佐藤・山田・延山:進学です。
伊賀:あまり学部卒で就職はないのかな?じゃあドクターの人は、どういうふうに将来を考えていますか?
内山:私は研究者になりたくてドクターに進んだので、研究所がいいです。できれば大学に残って研究が続けられたらいいですね。教育で若い人たちとも関われますし。
権藤:私はアカデミック寄りというよりは産業界がいいです。「お客さんの困ってることを、自分の研究で助けたい」と、修士の頃から思っていて。ただ、同時に「教育に携わりたい」という気持ちもあります。
松野:私はわりと単純なので、「自分で設計して形になるっていうのが分かりやすいもの」をやりたいですね。この間、学校で企業説明会があったんですけど、建機メーカーに興味を持っています。
國眼:就職活動をやっていると、途中で必ず「あれ?」って思ったりしますよね。
伊賀:絶対にみんな、1回迷子になりますよね。
國眼:そう迷子になる。迷子は早いほうがいいですよ。早く進んで、早く迷子になって、早くもとの道に戻ったり、新しい道を見つけたりする方が。
ライフイベントと仕事の重なり
伊賀:では、次はライフイベントについて。今ドクターの方は、ドクターに進学する時に、「結婚がちょっと遅くなるかな」って心配しませんでしたか?
権藤:「同期の中で一番結婚が遅くても、まあしかたないかな」とは思いました。
内山:仕事が乗りに乗ってきた時と出産が重なるのはできるだけ避けたいので、できれば早いうちに結婚して早めに産んで、と考えています。
伊賀:そのあと、仕事に集中するというプランね。どっちがいいんでしょうね。
内山:私の周りの男性は、「学生のうちは、結婚はまだ早い」って思っているみたいです。でも女性からすると、私は二浪していて、今26歳なんですよ。結構タイムリーな時期なので、温度差を感じます。
伊賀:皆さんの周りに学生結婚している先輩はいますか?
土井:ドクター課程の女性で、結婚して、出産した方がいます。ドクターの期間が長くなるけど、「じっくり落ち着いて研究できるからいい」と言ってました。
伊賀:子ども産んでから就職するのもいいかもね。今は大学に保育園があったりしますからね。
國眼:それを聞いてびっくりしました。
伊賀:学内保育園のある大学は増えていると思いますよ。
國眼:結婚後、いつ出産するかという問題もありますよね。私は遅くて、結婚して4 ~ 5年ぐらい子供がいなかったので。
伊賀:やっぱり、仕事が忙しかったんですか?
國眼:そうですね、私も夫も業務に追われていた時期でした。でも、一番の理由は自分の成長が遅くて、未熟と感じていたからです。
伊賀:新しいことを覚える時期は出産を考える余裕がないですよね。就職してすぐ出産っていうのも、なんか難しいですね。そこで休んじゃうっていうのは不安。
土井:共働きだと、勤務地が離れるとすごく大変だと思うんですが。その辺はどうですか?
伊賀:単身赴任でも意外と大丈夫ですよ。東北大の機械系の女性教員は、今までほとんど単身赴任です。私自身も、私はずっと仙台、夫はずっと東京で、子供も4人いますが、今のところ全く問題ないです。東北大学は、学内保育園の他、病後児保育室、ベビーシッター利用補助金制度、研究支援要員派遣制度など、子育てサポートが充実していて、本当に助かっています。
國眼:そうなんですね。単身赴任のイメージが変わりました。
コラム・メカジョの実感 「男女差を感じること・女性で困ること」〇研究室に泊まることに対する感覚 〇夏の快適な冷房温度 〇着替え問題 〇作業着のサイズがない 〇女子トイレの数が少ない |
どうすればメカジョは増える?
伊賀:研究室で「こういう点がよかった」、または逆に「これだから入りづらい」など、ありますか?
延山:研究室は、もっと清潔な方がいいですね。
國眼:それ大事ですよね…。
佐藤:私は研究室入った時に結構がんばって掃除しました。めちゃめちゃ汚かったので。
松野:なんか臭いが違いますよね。
國眼:泊まるからでしょうね。最初は衝撃でした。
伊賀:研究室がきれいだと、女子も研究室に入りやすくなりますよね。まず、研究室に入ってきてくれないことには、エンジニアが増えない。
機械学会の活動で期待するものって、ありますか?
土井:工場見学はいいと思います。親子で行ければ、親も楽しめるし内情も分かる。そして、子どもは夢を持てるし。見学するのは、博物館でも工場でもいいですよね。
伊賀:メカメカしたのが好きな女子もいるもんね。子どもは大体、ロケット、飛行機、速いものが好きだし。
土井:そうですね。私がそうだったので。
國眼:実物を見た時のワクワク感は、やっぱり言葉じゃ伝わらないですね。
内山:私はロボット学会で、中高生向けに「このロボットがすごい」っていうイベントを手伝っています。そんな感じで「この機械がすごい」というような紹介があるといいと思います。
佐藤:高校に大学のパンフレットを置いていると思いますが、それを機械学会でもやったらどうでしょうか?
伊賀:学会って、外から見て活動が分かりにくいところがありますもんね。
権藤:私は軽金属学会の女性会員の会にも参加しているんですが、機械学会が他の学会を巻き込んで、活動していただけるといいと思います。
伊賀:それはいいですね。機械系関連学会の横のつながりができて、いいかもしれません。
土井:もっと、大学生でも参加しやすいイベントがあるといいですね。機械学会のイベントに行った時に、社会人の結構年上の男性しかいなくて、ちょっと居づらかったので。
伊賀:そうなると、今年初めて機械学会が開催する「メカジョ未来フォーラム」みたいなのは興味ありますか?機械系の女子学生向けのシンポジウムです。「将来こんな仕事がありますよ」というのを企業が説明してくれます。皆さんも、ぜひ来てください。全国のメカジョで集まることってないですもんね。
佐藤:確かに、機械系女子会とかやりたいですよね。ただ、軌道に乗ってきたら、メカジョ限定でなくて男性も呼んでほしいなと思います。女性のライフイベントって男性も関わらないといけないはずなのに、女性だけで議論して終わっちゃうことが多くて、「もったいない」って思います。そこまで軌道に乗ると本当にいいですね。
國眼:「女性の社会進出」って言われますが、「男性の家庭進出」というのとセットですよね。「男性の家庭進出」がないと「女性の社会進出」もできない。
権藤:あと、メカジョを増やすという意味が、機械系の学生が大学を卒業してそのまま機械系の会社に入るっていう意味なのか、それとも高校生を機械工学科に入れたいという意味なのかで、やることが違うと思います。
伊賀:短期目標と長期目標ですね。全部つながっていると思います。小さいときの教育から始まって、最終的に機械学会としては女性エンジニアになる人を増やしたい、そしてその後もエンジニアを長く続けてほしいというのがあります。今日の意見交換が多くの方に届いて、活動や取り組みが広がっていくとうれしいです。本日は有り難うございました。
(2016 年12月15日@Hotel Edit YOKOHAMA)
<正員> 内山 瑛美子◎東京大学 D1 /日本ロボット学会ヒューロビント研究専門委員会
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キーワード:特集
【表紙の絵】
「おはないっぱいさかせロボット」
内田 侑希ちゃん(当時5 歳)
大好きなお花をいっぱい咲かせてくれるロボットがあったらいいな。
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