液体内部あるいは液液界面や固液界面において気泡生成などを伴って起こる蒸発を,特に沸騰と呼ぶ.飽和温度以上に過熱された過熱液に対して,熱平衡状態にある気相分子集団が定義でき,これを気泡核と呼ぶ.気泡核には,過熱液中の球形気泡核のような不安定気泡核と,固体表面くぼみに捕獲された気泡核のような安定気泡核とがある.油中の過熱水滴のようにあらかじめ気泡核を含んでいない過熱液では,不安定気泡核を自ら生成する必要があり,このためには高い過熱状態を要する.すなわち,あらかじめ用意された気泡核を含まない過熱液は,高い過熱状態まで準安定状態を保ち得る.過熱液が準安定状態を保ち得る限界を,過熱限界と呼ぶ.過熱限界は,自発核生成理論あるいは相の熱力学的安定性条件により定められる.例えば,後者とファンデアワールスの状態式とによれば,換算圧力が低い場合には,過熱限界は臨界温度の27/32で与えられ,この値は大気圧水では273℃程度になる.一方,固体表面で起こる沸騰などでは,多くの場合,安定気泡核が固体表面のくぼみなどに捕獲されて,あらかじめ存在しており,この安定気泡核が不安定気泡核に遷移する条件で沸騰が開始される.この条件は比較的小さな過熱状態により実現されるので,通常は飽和温度近くで沸騰が開始される.固体表面での沸騰熱伝達は,蒸発器などに多く利用されており,その伝熱特性は沸騰曲線により示される.