物体が外力を受けて準静的に変形するとき,熱の流入,流出がなければ外力のなす仕事はすべて,物体の変形に伴う内部エネルギーとして蓄えられる.そしてこの内部エネルギーは,外力を除けばすべて外部への仕事として回復される.このように,物体の変形として蓄えられた回復可能な内部エネルギーをひずみエネルギーという.しかし物体に作用する応力が弾性限度を超えると,物体には塑性変形が生じる.この場合,外力のなす仕事の一部は内部エネルギー,すなわちひずみエネルギーとして物体に蓄えられるが,他の部分は塑性変形の発達に費やされ,熱として散逸される.微小弾性変形の場合,直角座標系\(\left( {{x_1},{x_2},{x_3}} \right)\)に関する応力テンソルとひずみテンソルをそれぞれ\({\sigma _{ij}}\)および\({\varepsilon _{ij}}\left( {i,j = 1,2,3} \right)\)とすると,物体の単位体積当たりのひずみエネルギーは\[W\left( {{\varepsilon _{ij}}} \right) = \int_0^{{\varepsilon _{ij}}} {{\sigma _{kl}}d{\varepsilon _{kl}}} \]と表される.ここで式の表示には総和規約(式中の一つの項において同じ指標が2回繰返して現れる場合,その指標に指標のとりうる範囲の値を順次与えて得られる項の総和を表すという規約)を用いている.単位体積当りのひずみエネルギーはひずみエネルギー密度ともいう.また関数\(W\left( {{\varepsilon _{ij}}} \right)\)をひずみエネルギー関数と呼ぶ.特に物体が等方線形弾性体の場合,\(W\left( {{\varepsilon _{ij}}} \right)\)は\[\begin{array}{l} W\left( {{\varepsilon _{ij}}} \right) = \int_0^{{\varepsilon _{ij}}} {{\sigma _{kl}}d{\varepsilon _{kl}}} = \frac{1}{2}{\sigma _{ij}}{\varepsilon _{ij}} = {W_s} + {W_V}\\ {W_S} = \frac{1}{2}{s_{ij}}{e_{ij}} = G{e_{ij}}{e_{ij}}\\ {W_V} = \frac{1}{6}{\sigma _{\alpha \alpha \beta \beta }} = \frac{1}{2}K{\varepsilon _{\alpha \alpha }}{\varepsilon _{\beta \beta }} \end{array}\]と書ける.ここで\({s_{ij}}\)と\({e_{ij}}\)は偏差応力テンソルと偏差ひずみテンソルであり,またGとKは物体の横弾性係数と体積弾性係数である.上式で\({W_S}\)と\({W_V}\)は,物体の形状変化と体積変化に伴うひずみエネルギーを表しており,それぞれ形状変形エネルギー(distortion energy),ならびに体積弾性エネルギー(dilatation energy)と呼ばれている.