線形弾性論の解析によれば,き裂先端で応力は無限に大きくなり,\(1/\sqrt r \)の形の特異性を持つ.き裂先端を原点とする局所的な極座標系(r, θ)をとると,き裂先端付近の応力分布は次のように表される.\[{\sigma _{ij}}(r,\theta ) = \frac{1}{{\sqrt {2\pi r} }}\{ {K_I}f_{ij}^I(\theta ) + {K_{II}}f_{ij}^{II}(\theta ) + {K_{III}}f_{ij}^{III}(\theta )\} \]ここに,\(f_{ij}^I(\theta ),f_{ij}^{II}(\theta ),f_{ij}^{III}(\theta )\)は,角度θのみの関数であり,き裂先端における独立な三つの変形モード,すなわちモードI(面内開口形変形),モードII(面内せん断形変形)およびモードIII(面外せん断形変形)によるそれぞれの応力のθ方向の分布を与える固有関数である.そして,\({K_I},{K_{II}},{K_{III}}\)は,き裂材の形状寸法,境界条件によって決まる,応力分布の強さを表す係数であり,それぞれモードI,IIおよびIIIの応力拡大係数と呼ばれている.\(f_{ij}^I(\theta ),f_{ij}^{II}(\theta ),f_{ij}^{III}(\theta )\)は,き裂の変形モード,応力成分ごとに決まった関数であるので,き裂先端近傍の応力は応力拡大係数によって完全に決まり,したがって応力拡大係数はき裂先端の応力状態を代表するパラメータとなっている.また,き裂の延長線上に沿う応力の分布に基づいて応力拡大係数\({K_I},{K_{II}},{K_{III}}\)を定義することもできる.\[\left\{ {\begin{array}{*{20}{c}} {{K_I}}\\ {{K_{II}}}\\ {{K_{III}}} \end{array}} \right\} = \mathop {\lim }\limits_{r \to \infty } \sqrt {2\pi r} {\left\{ {\begin{array}{*{20}{c}} {{\sigma _{\theta \theta }}}\\ {{\sigma _{r\theta }}}\\ {{\sigma _{\theta z}}} \end{array}} \right\}_{\theta = 0}}\]応力拡大係数は応力と長さの平方根の積の次元を持つ量であり,SI単位では\(pa\sqrt m \)で示される.応力拡大係数の補正係数は,応力拡大係数に及ぼす部材形状および荷重形式などの影響を表すパラメータである.なお,応力拡大係数の概念を動的破壊靭性の問題に適用する際,応力拡大係数の時間的変動を表すパラメータとして応力拡大係数速度がよく用いられる.また,疲労によるき裂の進展速度を検討する際,応力拡大係数の変動幅を表すパラメータとして応力拡大係数範囲は用いられている.