動脈と静脈が平行して配置され,それらの内部の動脈流と静脈流の流れの方向が反対を向いていることにより,動脈流と静脈流の間で熱交換や物質交換が効率的に行われる機構をいう.例えばヒトや動物では環境温度が低下した場合,末しょう部での代謝を保つために血流量を減少させずに末しょう部の組織温度を低下させることができれば,環境温度との温度差を小さくして放熱量を減少させることにより環境温度への対応が可能となる.これを実現させるために,体深部からの温かい動脈流が末しょう部にいたる間に静脈流と対向流で熱交換を行えば,動脈流の熱を静脈流で回収する結果,末しょう部が低温でも体深部は高温に保つことができる.このような機構はヒトにも備わっているが,動物で顕著に見られ,クジラのひれや鳥の脚部では冷たい海水や寒気の中でも体温を保つのに大いに役立っている.特に,水鳥などでは脚と胴をつなぐ関節部に奇網(ワンダネット)と呼ばれる器官があり,ここでは細動脈と細静脈が対向流で網の目のように組合され,熱交換により動脈血は冷やされて脚に向かい,静脈血は温められて体深部へ向かう.対向流機構は熱交換だけでなく物質交換にも用いられ,例えばほ乳類の腎臓内での尿の濃縮や,魚の浮袋の内圧制御などに有効に利用されている.