血液の循環運動とそれに関係する力を取扱う生理学の一分野.血行力学が血液循環を流体力学や弾性力学に基づいて考察するのに対し,ヘモ(血液)レオロジーは物性論に基づいて血液の性質やその流動特性を調べるものである.しかし両者の区別は必ずしも明瞭ではない.生体内の血液循環は多数の複雑な要因に支配されているが,適切な仮定の下に現象を単純化し,有用な近似的考察を行うために種々の力学モデル,例えば血行力学の基礎方程式の数値解析を用いるコンピュータモデル,循環系を電気的または機械的回路で置換える電気回路モデル,機械回路モデルなどが構築され,循環系の構造や機能についての理解を深め,また動脈硬化症などの病変の発症機序を解明するために用いられている.循環系で生起する現象を正確に把握するための生体計測法の開発も重要である.血液循環系はポンプ系としての心臓,血流の誘導路としての大口径血管系,臓器血管系,生体各部の細胞と物質交換を行う毛細管領域の四つに大別できるが,これらの系に含まれる力学現象としては,例えば心臓による血液の拍出駆動,心室・心房内および弁を通る渦・乱流を含む流れ,動脈の弾性壁との相互作用を含む拍動血流または脈波の伝ぱ,わん曲部,分岐部,テーパ管,狭窄(きょうさく)部位などにおける局所的な流れ場およびせん断応力場と物質移動現象,毛細血管ネットワークにおける流れと物質移動現象などがあげられる.