マイクロマシンは研究開発中の微小なサイズの機械であり,その定義はまだ確定していないが,一般に目標とされているサイズは指先に乗る程度の大きさである.このサイズになると,もはや人が直接触って操作をすることは不可能であるので,マイクロマシンは高度なロボットのように自分で環境を認識して行動できる自律性を持つことが要求される.このような高度な機能を実現するには,狭い空間内に部品を高密度に集積しなくてはならない.そのために,マイクロマシンの最小部品のサイズは10μmのオーダーであることが要求される.この寸法は動物の組織の細胞に匹敵するサイズであり,現状の機械の最小部品と比べて約1/100のダウンサイジングとなる.このような微小部品の加工には,半導体集積回路用のシリコン微細加工や放射光を用いたLIGAプロセスという微細加工法等が使われている
まだ現在は,マイクロマシンのためのモータ,センサや歯車等のような要素部品の技術が確立されてきた段階である.生体内に入って治療する医療用マイクロマシンや,機械の内部に入り機械を分解しないでも保守点検ができるようなメンテナンス用マイクロマシンが実現されるまでには,加工法ばかりでなく,マイクロマシンに適した動力源,電池,センサ,材料等の開発や設計法の確立が不可欠であり,総合的な技術が要求される.通産省工業技術院ではマイクロマシン技術を10年計画の国家プロジェクトとして推進している(1991~2000年度).
マイクロマシンが活躍するミクロな世界は,われわれの常識が通用しないことが多い.慣性力はほとんど無視できるが,粘性による摩擦力,静電気力や表面張力の影響が大きくなり,熱は伝わりやすくなる.マイクロマシンの設計にはこのような特性が考慮されなければならない.
有史以来人類が作ってきた機械とくらべてマイクロマシンは異色である.小さいので力が弱く,水の流れに逆らうことすら難しく頼りないように見える.しかし,裏返せば自然や人に優しいということである.開腹や分解なしにできる手術やメンテナンスのように,これまでの機械には見られなかった優しさがある.これこそマイクロマシンの最大の特色であり,人と機械の理想的な共生関係も期待できるのである.
マイクロマシンは,一つ一つは無力でもありのように群がると大きな機械に負けない仕事もできる.海中の資源探査,機械の監視,害虫駆除,あるいは惑星探査など空間をくまなく調べたり移動したりする仕事は,将来の有望な仕事になるかもしれない.