トラクション

traction

 転がり・滑り接触で動力を伝達すること.狭義には,表面仕上げされた硬度の高い金属材料からなる転がり要素間の力と速度の伝達をEHL流体膜を介して行う機械要素技術の一つで,接触面内のせん断運動により力を伝える.一対の転がり要素の接触部にはわずかな相対滑りがあり,これをグロス・スリップと区別するためクリープと呼ぶことがある.その大きさは通常0.5~4%で,これにより接線力を得る.この接線力を法線力で除した量をトラクション係数と呼び,これにより作動する方法をトラクション駆動という.流体膜は1~3GPaの最大ヘルツ圧力で加圧されるものもあり,その厚さは0.4μmと薄くなる.トラクション油には高圧下でも接触部から流出しにくく,高温下のせん断に強い脂環族の合成油が用いられることが多い.トラクション係数は,ピュア・ロール状態の試験で,75℃の潤滑油温度,クリープ1%付近において0.07程度の最大値がえられる.トラクション駆動による変速機には,固定減速・増速機のほか,可変変速を行う無段変速機があり,その代表的なものには,①コーン・ディスク型(0.4~150kW),②リング・コーン型(0.2~18kW),③コップ・ボール型(0.2~10kW),④トロイダル型(0.3~220kW)などのトラクション・ドライブ装置がある.