一般にはあるグラフが自分自身交差したり尖ったり,途中で終わるような点や,関数の値が無限大になったり多価になったり微分不可能な点をさす.すなわち,ある対象の中でほかとは際立って異なる性質,いわゆる特異性を示す点を特異点という.非常に多様に用いられるので文脈に従って理解する必要がある.具体例をあげる.平面曲線の場合;曲線の式をf(x,y)=Cとしたとき,点Pで,\[\partial f/\partial x = 0,\partial f/\partial y = 0\]のときPを曲線の特異点,特異点でない点を通常点という.複素関数の場合;複素関数f(z),z=x+iy,の正則性が成立しない点をf(z)の特異点という.これは流体力学のポテンシャル流れの理論にしばしば現れる.例えば点a=α+iβにある吹出しの複素ポテンシャルはq/2π・log(z-a)で,この導関数はq/2π・1/(z-a)となるからa点は特異点である.常微分方程式の例,(単独な方程式とする);dy/dx=f(x)yの形のときf(x)が微分可能でない点を,この微分方程式の特異点という.連立方程式の場合も同様である.
ロボットなどの開リンク機構において,対偶の変位を集めたn次元の変数θとエンドエフェクタの位置・姿勢x∈Rm(n\( \geqq \)m)の関係は写像x=f(θ)で表される.この写像のヤコビ行列J(θ)がrankJ(θ0)<mとなるとき,
θ0を特異点あるいは特異姿勢と呼ぶ.特異点はdetJ(θ)=0(n=m),可操作度\(w = \sqrt {det[J(\theta )J{{(\theta )}^T}]} = 0(n \ge m)\),あるいはヤコビ行列の最小特異値が0の場合として見つけられる.可操作度や最小特異値が小さな正のしきい値を下まわる場合を特異点近傍とみなせる.特異点では,xの運動(無限小変位,速度,加速度など)のうち,θの運動が存在しないもの,すなわち物理的に実現不可能なものがある.特異点近傍では,xの運動に対応するθの運動が極めて大きくなることがある.特異点低感度運動分解は特異点近傍において特異点の影響を小さくするような近似的運動分解法である.閉リンク機構でも,エンドエフェクタの位置・姿勢を\(x \in {R^m}\),駆動対偶の変位をn次元の変数θで表すと,写像x=f(θ)の特異点において不可能運動が存在する.写像θ=g(x)のヤコビ行列のランクがmを下まわる場合,θを固定してもxを固定できない.これは死点あるいは思案点と呼ばれ,閉リンク機構特有の特異点である.機構設計の際に特異点分布を考えること,運動計画・制御において特異点回避を行うことが望ましい.