カオス

chaos

 ある決定論的な法則で記述される系(例えば微分方程式)において,適当な条件のもとで発生する一見無秩序で複雑不規則な挙動ながら,純然たる不規則現象とは明確に区別できる独特の現象の総称.はじめ数学,物理学の分野で知られたが,今日では広く自然科学領域で強い関心が持たれており,その発達は計算力学に負うところ大といわれる.非線形系に固有の現象で,系を特長付けるパラメータの特定の数値範囲で発生し解の様相が初期条件に強く依存するのが大きな特徴である.通常,位相平面(相空間)の解構造で議論されるが,解の軌道は乱雑とはいうものの大きさは有限で,ある特徴的な秩序構造を示すのが単なる不規則振動との相違点とされる.特に解軌道を連続曲線ではなく(数千~数万周期程度の)ポアンカレ写像で表示するとカオス特有のパターンを識別することができ,そのような点集合をストレンジアトラクタと呼ぶことがある.機械工学分野では熱/流体系の遷乱流域現象や力学系の非線形振動における問題が周知であり,その特徴的形態が何を意味するのかは今のところ不明ながら極めて興味深い普遍的問題である.発生する現象や計算結果がカオスか否かを判定するには,波形の観察や位相平面の解構造の吟味のほか,周波数(パワースペクトル密度)分析,リアプノフ指数の計算,分岐線図の作成,フラクタル次元の計算など,いくつかの規範があり,統計的な扱いも試みられつつある.