熱力学の始祖ともいわれるサディ・カルノー(1796~1832)は,コレラのため37歳で夭折(ようせつ)したが,その短い生涯でただ一つだけ論文を書いた.その表題は「火の動力,および,この動力を発生させるに適した機関に関する考察」(広重徹訳著『カルノー・熱機関の研究』みすず書房,1973年)であるが,その中に「動力の発生をともなわない,熱の高温から低温への移動は,正味の損失とみなさなければならない」という言葉がある.
山の上にダムを作り,水が海面まで流下してくる間に,川の流れに沿って高度の高いところから,黒部第4,黒部第3というように順々に水力発電所を仕掛け,水の落差を使いつくすことは普通に行われている.熱の場合の落差に相当するのが温度差であり,海面に相当するのが地球の常温である.燃料に火をつけて得られる1500℃以上の高温から常温つまり15℃までの落差を使ってくるのが熱の利用であるが,熱のほうは水力発電のように温度の高いところから順々に使ってくることが行われていない.ガスバーナに火をつけて風呂をわかす.石油ストーブで暖房をする.バーナやストーブの火炎帯には1500℃以上の高温の熱が発生しているが,46℃の風呂のお湯や25℃の室温を得るために,このような高温の熱を直接投入しても疑問を抱く人は少なかった.
燃料に火をつけたら,天才カルノーの指摘したとおり,可能な限りの高温から熱機関を動かして動力を取出さなければならない.熱や蒸気がほしいときにこれまではボイラを利用するのが普通であった.これからは熱がほしかったら,まずエンジンやガスタービンの利用を考えなければならない.高温の熱は熱機関で動力化し,その動力で発電機を駆動して電力を作り出す.熱機関から温度を下げて排出された排ガスや冷却水の熱を熱交換器で回収して産業用プロセスや暖冷房・給湯などに用いる.熱力学の原理に従って,熱を高温から低温まで使い尽くすことによって,電力と熱を同時に作り出すシステムをコージェネレーション,熱併給発電または,熱電併給と呼ぶ.原理的に省エネルギーを実現するための唯一の技術といっても過言ではない.
日本では,1981年に豊橋のホテルにディーゼルエンジンを用いたシステムが設置されたのをはじめとして,現在までに2000事例を超えた.その約半数が産業用,残りが民生用である.発電設備容量にして350万kWを超えたが,その約8割が産業用,2割が民生用である.産業用では,紙・パルプ,フィルム,食品,醸造,飲料,木材,繊維,染色,薬品,化学工業など大量に蒸気・温水を使う業種に適し,民生用では,地域冷暖房,空港,マンション,ホテル,病院,スーパマーケット,健康ランド,スポーツ施設などの事例が多い.