今日,人類の宇宙活動の場となっているスペースシャトル軌道から静止衛星軌道までの宇宙環境は,高真空であること,電離気体,宇宙塵(じん),宇宙放射線や太陽紫外線が存在すること,といった特性を持っている.また,軌道運動する宇宙機内では無重量環境が実現される.地上では実現が困難な超高真空や微小重力環境などの宇宙環境を利用して,材料プロセシングやライフサイエンス,医学の研究を行うことを宇宙環境利用と呼んでいる.将来は宇宙環境を利用して大量の物資の生産が行われると期待されており,このような施設は宇宙工場と呼ばれる.一方,宇宙環境は人類の宇宙活動に対しさまざまな影響を与える.低高度の宇宙空間では活性な原子状酸素が存在し,表面材料の劣化をもたらす.高エネルギー電子が大量に存在する静止衛星軌道付近では,衛星表面が強く帯電し,衛星の誤動作や故障を引起こすことがある.高速で飛びかっている宇宙塵は,宇宙機に損傷を与える.特に宇宙デブリと呼ばれる人工的な破片は,その数が次第に増加しており,今後の人類の宇宙活動にとって脅威となっている.宇宙放射線は,半導体の機能障害や生体の放射線被ばくをもたらす.太陽紫外線は熱制御材など表面材料の熱光学的特性の劣化の主要因である.また,大型の宇宙機周辺では自然の宇宙環境とは異なった,宇宙機特有の真空環境や電磁環境が形成されることが最近わかってきた.