生体組織内で行われている物質輸送は多岐にわたるが,最も基礎となるのは細胞膜における物質輸送であり,栄養物質の細胞内への輸送,老廃物の細胞外への輸送が生命の維持に重要な役割を果たしている.細胞膜は脂質二重層からなり,細胞側は疎水性のリン脂質分子,外側は親水性のリン酸基から構成されている.細胞内液と細胞外液の構成物質の種類は同じであるが,細胞膜の物質透過性が物質により異なるためある種の物質については細胞膜内外で濃度が大きく異なる.膜輸送は,浸透圧差による輸送,受動的拡散輸送,促進輸送,能動輸送に分けられる.膜は脂質でできているため脂質に溶解する物質は容易に膜を透過し,膜内外の濃度差に従って受動的に拡散輸送される.しかし,水や尿酸,溶液中のイオンなど脂質に溶解し難く分子のサイズが小さい物質は膜に開いている直径約8A°の細孔を通して移動すると考えられている.水の直径は約3A°であり細孔を非常に速い速度で移動する.また,細孔を通り抜けるには大きすぎ,脂質に溶け難いグルコース,しょ糖などの単糖類は,脂質に可溶なある種の大分子がキャリアとして単糖類を運ぶと考えられており,これは促進拡散と呼ばれる.Na+,K+,Ca++,Mg++,Cl-の濃度は膜内外で大きく異なっており,これは能動輸送によるものと考えられている.