すい臓のインスリン分泌能を代替し,糖尿病の治療に用いられる人工臓器が人工すい臓である.電子技術を利用した自動インスリン注入装置と,すい臓のインスリン分泌器官であるランゲルハンス氏島(ラ氏島)を利用したハイブリッド型の2種類が研究開発されている.自動インスリン注入装置は,生理的に変動する血糖値を迅速かつ連続的に測定するための血糖値連続計測装置(グルコースセンサ),血糖値の変動に応じてインスリンを注入するインスリン注入装置,そして生理的血糖調節機構に従ってこれらを連結し調整するコンピュータ制御システムからなる.ハイブリッド型人工すい臓は,すい臓内の内分泌細胞群であるラ氏島を人工膜の内部に固定化し,これを装置化したりそのまま腹くう内に移植して使用する.この人工膜はラ氏島が生存するために必要な酸素,栄養素やグルコース,インスリンを自由に通し,しかも異種動物のラ氏島が患者の免疫担当細胞や抗体に直接接しないようにするための隔離膜としても働く.しかしながら自動インスリン注入装置では,グルコースセンサ表面へのタンパク質吸着の防止などによる血糖値の長期間連続安定計測が課題となっており,またハイブリッド型人工すい臓では,ラ氏島の生存や機能に影響を与えずに膜内に固定化する技術や移植部位で異物反応を長期間引起こさない人工膜の開発などが課題とされていて,どちらも臨床応用には至っていない.