物理現象に関する人間と同様な推論を,記号推論の枠組みで計算機に行わせることをいう.物理現象についての人間の予測や説明は定性的であり,またしばしば経験的な法則に基づいている.定量的な物理法則を利用する場合も,まずどのような現象が起きるかという定性的な予測が先行する.定性推論はこの物理現象に関する定性的な思考過程を計算機上で実現するものである.定性推論の工学問題への応用の一つはモデル構築の自動化である.このための中心的な課題は,問題に応じた適切な抽象化の選択と,物理法則を適用するための仮説の設定を行うことであり,定性推論の中でも定性物理の側面がおもである.もう一つの応用は定性シミュレーションであり,必ずしも定量的な情報が得られない場合でも,系の時間変化についての定性的な情報を得るために利用される.定性推論は1980年頃から人工知能の一分野として研究が始まったが,現在は知的システムを構成するための技術として工学的な応用が広がっている.