ヒルの直交異方性降伏条件

Orthotropic yield condition of Hill

金属における圧延等によって集合組織がすでに発達している場合に,材料の降伏条件は初期状態でも異方的となる.この場合の降伏条件として,著名なものがヒルの直交異方性降伏条件(ヒルの理論)という.異方性のある降伏条件は,応力の二次関数を仮定すれば,一般に以下の式で表わされる.
$$f=\frac{1}{2}A_{ijkl}s_{ij}s_{kl}-{\bar{\sigma}}^2$$
ここで,$f$は初期降伏関数,$A_{ijkl}$は異方性を表す4階のテンソル,$s_{ij}$は偏差応力偏差応力,$\bar{\sigma}$は相対降伏応力である.$A_{ijkl}$の独立な成分は,応力の対称性および塑性変形の非圧縮性により15個となる.さらに直交異方性を考えると,$A_{ijkl}$の独立な成分は6個となるから,上式より,以下のヒルの直交異方性降伏条件の関数(降伏関数)を導くことができる.
$$f=F{(\sigma_2-\sigma_3)}^2+G{(\sigma_3-\sigma_1)}^2+H{(\sigma_1-\sigma_2)}^2+2L{\sigma_{23}}^2+2M{\sigma_{31}}^2+2N{\sigma_{12}}^2-{\bar{\sigma}}^2$$
ここで,$\sigma$は材料主軸方向に座標変換した応力である。
いま、$F$ , $G$, $H$, $L$, $M$, $N$は,各軸方向の材料試験から得られる降伏応力$\sigma_y^\ $の比である$R_{1}, R_{2}, R_{3}, R_{12}, R_{23}, R_{31}$,より求まる異方性パラメータであり,以下の式で表される.
$$F=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{{R_2}^2}+\frac{1}{{R_3}^2}-\frac{1}{{R_1}^2}\right),\ G=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{{R_3}^2}+\frac{1}{{R_1}^2}-\frac{1}{{R_2}^2}\right),$$
$$H=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{{R_1}^2}+\frac{1}{{R_2}^2}-\frac{1}{{R_3}^2}\right),L=\frac{3}{2}\left(\frac{1}{{R_{23}}^2}\right),\ M=\frac{3}{2}\left(\frac{1}{{R_{31}}^2}\right),\ $$
$$N=\frac{3}{2}\left(\frac{1}{{R_{12}}^2}\right)$$
なお,$R_{1}, R_{2}, R_{3}, R_{12}, R_{23}, R_{31}$は,1軸方向降伏応力$\sigma_y^1$で正規化すると以下の式で表される.
$$R_1=\frac{\sigma_y^1}{\sigma_y^1}=1,\ R_2=\frac{\sigma_y^2}{\sigma_y^1},\ R_3=\frac{\sigma_y^3}{\sigma_y^1},$$
$$\ R_{12}=\frac{\sigma_y^{12}}{\sigma_y^1},\ R_{23}=\frac{\sigma_y^{23}}{\sigma_y^1},\ R_{31}=\ \frac{\sigma_y^{31}}{\sigma_y^1}$$
ここで,上付き添字は材料座標系における負荷方向を表している.