物質や温度,エネルギーなどの濃度が化学変化を伴わずに均一化することを拡散あるいは分子拡散という.正確には,拡散は保存則に従う物理量について総量が保たれて分布だけが広がる現象をさすが,工学的には分布が均一化する現象全般にも用いられる.典型的には,静かにおかれた水中にインクが分散していく現象や,一端が熱せられた金属棒の他端に温度が伝わる現象があげられる.これらの現象をミクロ的にみると,分子の熱運動によって前者では分子自体が移動し混合すること,後者では近接する分子の相互作用でエネルギーや力が伝達することとして理解される.このような分子運動の作用は一般にランダムに進行するため,熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)によってマクロ的にみると注目する物理量の分布が均一化するように働く.スカラ量だけでなく,運動量ベクトルや応力テンソルなどの成分に対する同様の現象も拡散という.例えば,流れの粘性は運動量の拡散として理解される.また,分子運動以外にもほかの力による促進や分離も可能で,温度こう配による熱拡散,圧力こう配による圧力拡散,乱流の微小変動による乱流拡散などがある.